美しき日々。<1>
2
それは教師の手伝いでプリントを運んだときのこと。
大量のプリントを抱え歩く俺に微妙な笑顔を向けながら並走し、足を滑らせて勝手に崩れおちていった。床に散らばったプリントがとにかく心配だった。
それはある日の休み時間のこと。
廊下を歩く俺の進行方向にて倒れ伏し、まるでダイイングメッセージのように床に何事かを書き連ねていた。無視して先へ進んだ。
それは教室を掃除しているときのこと。
ちりとりのゴミを捨てようとゴミ箱を開けると既に中に入っていた。ガムテープで厳重にフタを閉じ、ゴミ箱ごと処分所にもっていった。
それは一人教室で本を読んでいるときのこと。
勢いよく開くドアに俺は目を奪われ、いかんとも形容しがたいほど恐ろしく気持ち悪い笑顔を見せ付けられた。奴はそのままドアの向こうに消え去り、俺は叫びをあげた。
その他
振り返れば奴がおり、
気がつけば隣におり、
何かあれば笑顔を見せ付けられ、
俺の精神ははすこしずつ擦り切れレほうかいし人間ふ信のイミをしりしりしり楽しいタイミング悪く茶化してきたをユータを楽しい共はnであるト疑い楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しいたのしいしい楽しい楽しい楽しい
・・・・・・といった具合である。
あのあとユータにはしっかりと謝罪した。かなりのトラウマになってしまったらしく今は大変申し訳なく思っている。
まあそういうわけで俺の精神衛生のためにも俺とユータの良好かつ友好的な関係のためにも、奴にはなにかしらの手をうっておきたいのである。
「で、どう思う?」
「えっと、なんの話?」
放課後。
俺は幼なじみの長押優太、ユータと一緒に作戦会議をしているつもりだったんだが俺達の心はいつしか通じ合わせることが出来なくなってしまっていたようだ。これは一刻も早く奴を処分して関係を修復しなければならない。
「あー、その話ね。うん、なんとかしないとね。」
あはは、と渇いた笑い声が切ない。幼稚園からの付き合いがこのザマである。
ちなみに、もしこのまま俺達の関係が元通りにならなければ、もれなく俺はぼっちが確定してしまう。というのは、入学当初身近に知り合いがいるとつい油断してしまい新生活での関係作りに乗り遅れてしまったからだ。
・・・・・・勘違いのないように言っておくが俺はコミュ障じゃない。それだけこの幼なじみは手放しがたいということなんだ。
「で、吉野さんだっけ。どうしよっか。」
「とりあえずあの奇行の理由が知りたい。」
「そうだねー、僕たち全然彼女のこと知らないもんね。」
「情報がたりんな、誰か奴と親しい存在は・・・」
ちょうどそのときだった。きっと神は俺に味方をしている、そう思える出来事がおきた。
「あの、もしかして吉野さんの話ですか?」
声をかけてきたのは同級生の宇都宮だった。ちょっとした事情で彼女とは一方的に知り合いという不思議な立場をとっている。他方、相互に面識があるユータは彼女に軽い挨拶をして言った。
「宇都宮さん、もしかして吉野さんと仲いいの?」
「いえ、仲がいいというほどではありません。二言三言交わしたことがあるだけですけど・・・」
宇都宮は歯切れの悪い返事をした。残念だが・・・これはあまりあてには出来ないだろうか、先程仰いだ神に今度は文句を言いたい気分である。
そのまま先を促すと、宇都宮はこう返してきた。
「その前に、どうして吉野さんのことを探っていらっしゃるんですか?」
それは実にごもっともな質問だった。そうだよな、男子の会話にその場にいない女子がでてくるのは確かに不穏だよな。ユータもうなずき、俺に代わって説明をしてくれた。
隣で聞きながらやはり我が身の不幸を嘆きたい気持ちに駆られる。
「なるほど、そういうことだったんですね。おかしいですね、吉野さんはそんなに悪い子ではないと思うんですけど。」
「悪い子っていうか変な子だよね。」
「それは否定しませんね。」
うふふあはは、と笑い合う二人。なんだか辛いので話を進めてもらうことにした。
「それで、どうして声をかけてきたんだ?」
あっ、という顔をして宇都宮は切り出す。こいつ、さては本題を忘れてたな・・・。
「吉野さんのことなんですけど、その・・・」
「なんでもいいんだ、奴の人物像を掴めればそれで」
「はい、実はですね、吉野さん・・・
さっきから、ずっとそこのごみ箱の中にいらっしゃいますよ」
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