美しき日々。<3>

2



 じゃあ、いってくるね

 短いホームルームを終え、続々と教室を出ていく生徒達。ユータもまた俺と軽く挨拶を交わして教室から立ち去った。俺は教科書の整理をしつつ、その後ろ姿を目で追っていたもののやがて人混みに埋もれて見えなくなってしまった。

 部活か。
 ユータは軽音、宇都宮もなにかしらに所属するらしい。アホ女はよくわからん。俺はこのまま帰るだけだ。
 俺の本日の業務は終了しましたというのにこいつらときたらここからさらに頑張ってくるつもりなんだな、ずいぶんと崇高な精神を持ち合わせていらっしゃる。
 別に皮肉とかそういうのではない、素直に尊敬している。俺にはちょっと無理だ、色々と。

 さて、もう帰るか。
 教科書の整理を終え、匠が手を加えたかのような美しい鞄の中身にわずかに鼻を鳴らして、もう人影もまばらになってしまった教室を出る。

 そういえば、ユータが部活にいったということは俺はこのまま1人で帰らなければならないのか。ユータが軽音に入れば、これからもずっと。
 寂しいわけではないものの、かなり長い間家路を共にしていたわけだから、いささかの虚しさは感じないでもない。そう、ほんのちょっとだけ虚しいのだ。中学でもユータは部活に入っていたのだから、1人で帰るのには慣れている。決して寂しいわけではない、決して。


 立ち上がって、廊下にでて、度々制服とは異なる姿の生徒達(恐らく部活のユニフォームだろう、青春だ)を見送りつつ下足へと向かう。もちろん所々に設置されたゴミ箱への警戒は怠らない。こうして俺の脆弱な精神力はゴリゴリと浪費されていくわけだ。

 しかし、予想に反して俺の前に立ち塞がったのは誰もいない下足室だった。ぼっちを突きつけられて非常につらい。
 そのつらさをまぎらわそうとあたりを見回してみると、下駄箱とは正反対に位置するガラス張りの壁が目に入った。中庭を一望できるそこには、数々の部活勧誘ポスターが張られていた。数はざっと見積もって30はある。うちが公立であることを考えると、多い方だろう。ていうか、書道とか吹奏楽ならまだわかるが、数学研究部ってなんだ。理化学研究部ってなんだ。ヤバそう、進学校こわい。

 などと個性推進社会たるこの国の若者の輝きにビビっている俺の目の前に、ふと表れた文字がある。

 ○○同好会。

 同好会というのは、何らかの要因で正式に部活として認められたものではないと言うことだろう。おおかた、部員数が足りないんだろうが。

 あー、俺、いまものすごく面倒くさいこと考えようとしてる。帰ろう。そうだ、帰宅部だ。俺は帰宅部期待の新入生として、如何に早くうちに帰ることができるか追求していかなければならない。

 振り返り一歩踏み出した俺は、ねえ、と自分に語りかける声を聞いた。






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