愛と信頼@

過去編、27話と28話の間くらいの話です。
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「今日から俺達の班に配属されることになった.....おい、挨拶をしろ」

兵長がそう言って、兵長の袖を掴んで不安そうに私達を見る小さな少女の頭に優しく手を置いた。そしてその子は不安の色を残しながらも兵長の袖から手を離し、一歩前に出る。

「副兵士長の...ナマエ...です。えっと...よろしくお願いします...!」

その少女から放たれた副兵士長という単語に私達は驚愕する。まさか自分達より年下に見えるこの子が、私達より上官だなんて。

「あの、兵長...。この子が副兵士長というのは...」

エルドさんが誰もが思っていたことを口にした。どう見ても目の前にいる小さな少女が副兵士長という単語の実力に見合う力を持っているとは思えない。

「ナマエが副兵士長というのは事実だ。エルヴィンの判断でな。

ナマエの名前くらいは聞いたことがあるだろう。この班に配属される前の壁外調査では色々な班を転々としていたが、これからは俺達の班に配属された。

まぁ、こいつの見た目を見れば不安になるのもわかるが.....実力は伴っている」

少女の名前はもちろん聞いたことがある。何せ時々兵長の口から発せられる名前だから。兵長の口から発せられる名前と言えば、団長やハンジ分隊長(大抵はクソメガネと呼ぶけれど)と目の前の少女のナマエ、という名前だ。

1年ほど前だろうか。兵長が非番の日だった次の日、どこへ言ったのか聞いた際に「ナマエと街へ行った」と言っていたのを思い出した。その時は誰だろう、と思っていたけれどその本人が目の前にいるのだ。

「み...、みんなの足を引っ張らないように頑張るね」

私達の懸念の目を気にしているのか、少女は遠慮がちにそう言って微笑んだ。

「悪いが俺はこれから作戦会議に呼ばれていてここを外す。俺が戻ってきたら今後の活動方針について話し合うつもりだが、それまではここで待機だ」

「わかりました」

エルドさんとグンタさんがそう返事をすると、兵長は少女の頭を荒っぽく、けれどとても優しい手つきで撫でてからこの場からいなくなってしまった。

私達と少女だけの空間に、少し気まずさを感じてしまう。そんな中でエルドさんは自己紹介をしよう、と提案した。

「名乗って頂いたのだから、こちらも名乗るのが筋ってものですし。

俺はエルドです。よろしくお願いしますね、ナマエ副兵士長」

「うん!よろしくね、エルド!

わたしのこと、副兵士長なんて呼ばなくていいよ!」

「し...しかし、立場上ナマエ副兵士長の方が上ですし.....。

では、ナマエさん、でどうでしょうか」

「んんんん.....。そ、それなら...」

組織の上下関係が厳しい調査兵団では気軽に上官を呼び捨てになんて出来ない。例えそれが自分より年下だとしても、立場が上ならば尚更だ。

「俺はグンタです。よろしくお願いします」

「よろしくね!グンタ!」

「お...俺は、オルオ、っす.....。よろしくっす...」

「うん!よろしくっす!オルオ!」

だいぶ緊張が解けたのか年相応と言っていいのかはわからないが、オルオの口調を真似しながら無邪気な笑顔を見せた。その笑顔は花が咲いたようで、幼いながらも整っているとわかるその顔にとても似合っていた。

名乗っていないのは私だけとなり、自分も名乗らなければと思う。先輩は何も思ってないような表情をしており、年下の少女に副兵士長となるほどの実力があるのか疑いはしないのだろうか。

「私はペトラ...です。ナマエさん、よろしくお願いします」

「うん!ペトラはこの班でたった1人の女の子だったんだね!これからはわたしも一緒だよ!」

にっこりと効果音が付きそうなほどに少女、ナマエさんは笑顔になった。一通り自己紹介を終えるとグンタさんが立ち話も何だから席に着こうと声を上げた。

一緒にテーブルを囲んで座り、ナマエさんの方へ目を向けるとずっとニコニコと笑顔を浮かべている。それでもやっぱり私の中にはナマエさんを疑っているような気持ちが払拭されない。

ナマエさんに対する兵長や、兵長に対するナマエさんはお互いにとても信頼し合っているように見えた。ここを立ち去る時の兵長の表情は、そんなに長い時間では無いとしても、一緒に行動してきた私だって見たことのないような柔らかさを伴っていて。

目の前にいるこの小さな少女が、一体どんな時間を兵長と過ごしてきたのか。

この班に配属されることを兵長が許すほどの実力があるのか、そんな疑いが私の中からは消えない。
そう思っているとナマエさんは「あ!」と大きな声を出した。

「みんな、リヴァイの掃除チェック大変じゃない?」

「あぁ...あれは...。だいぶ慣れましたが最初は驚きました。ナマエさんも掃除、するんですか?」

グンタさんが苦笑を浮かべる。兵長の掃除への執着は少し普通の人より行き過ぎているところはあるから。

「うん!わたし、掃除嫌いじゃないんだけど...ここに来てから初めて掃除した時、すっごいやり直しさせられてびっくりした!」

「初めて...って、ナマエさんは一体いつから調査兵団に?」

エルドさんが疑問を口にする。確かに、その口ぶりから長く調査兵団にいるような言い方だ。

「うーんとね.....。2年前だから.....845年!」

指を折って数える素振りをしてナマエさんはそう答えた。

「俺達よりも早くから調査兵団に...」

ナマエさんは私達よりも2年ほど早く調査兵団にいるらしい。

「うん!でも実力はみんなの方が上かも!」

クスクスと笑うその小さな少女に周りはつられて笑う。

その後も色々と話を聞くところによると、ナマエさんは兵長に地下街から連れてこられて訓練も全て兵長が見ていたそうだ。兵長の献身ぶりに私達は驚き、同時にとても大切にされているということを理解する

だからこそあの距離感や接し方なのだろう。けれど、兵長と過ごしていたことで兵長に似ているところがあるだろうと踏んでいた私は、この少女からはそんな雰囲気が全くなく少し驚いた。

そうして、次の壁外調査が始まろうとしていた。

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