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サネスの口から本当の王家の事実を知った次の日、その情報をエルヴィンに伝え、エルヴィンから受け取った情報をこちらに伝達する役割のニファが戻ってきた。
「早速だがエルヴィンの伝言を聞かせてくれ」
「...しかし、彼らは...?」
ニファが気にしたのはリーブス商会の2人だ。2人をリヴァイは問題ない、と伝えたが彼らは席を外そう、と言った。
「イヤ聞いててくれ。そういう契約だったはずだ。隠しごとは無しだ。
あんたらのことは信用している」
リーブス会長ともう1人、そこにはフレーゲルと呼ばれる彼の子息もいた。彼が少し場違いな発言をしたことによって空気が悪くなり、会長はやはり席を外すと言ったがリヴァイはそれを止める。
リヴァイが、この件はリーブス商会だけでなくこの世界の今後を左右するため、リーブス商会の力と信頼関係は大切だと言った。
そしてニファが口を開いた。
「...では、ヒストリアをどうやって女王に即位させるかの件に関してですが...」
「え?」
みんなが困惑したような顔をしている。本人であるヒストリアですらも。それもそのはず。
「...俺の班には言い忘れていたが...、
現在のフリッツ王家は本物の代理みたいなもんで、その本物の王家はレイス家だ」
みんなの視線がヒストリアに集まる。そして彼らの表情は焦りと驚きに染まっていた。
その中、アルミンが手を挙げた。
「ヒストリアを女王に即位させると聞こえましたが...。それがこの革命の主目的ということでしょうか?」
「その通りだ。ヒストリア、感想を言え」
「.......あ、...。
私には.....
無理です。.........できません」
「だろうな。突然この世の人類の中の最高権力者になれと言われ、はい、いいですよと即答できるような神経してる奴は...、そんなに多くはないだろうな...。
だが.......、そんなことはどうでもいい。やれ」
リヴァイがヒストリアに歩み寄りながら言った。リヴァイはヒストリアを見ている一方、ヒストリアの視線は定まらず床を見つめる。
「私には.....とても...務まりません.....」
「嫌か?」
「私には.....とても.....」
「わかった」
「う...ッ!?」
「じゃあ逃げろ」
リヴァイはそう言ってヒストリアの胸ぐらを掴みあげる。その行為に周りが困惑した。
「俺達から全力で逃げろ。俺達も全力でお前を捕まえて、あらゆる手段を使ってお前を従わせる。
どうもこれがお前の運命らしい。
それが嫌なら戦え。俺を倒してみろ」
「...放して下さい...!」
突然解放されたヒストリアは床に倒れ込み、むせる。そんなヒストリアをみんなが取り囲む中、ジャンが口を開いた。
「...こんなことしなくても!」
「お前らは明日何をしてると思う?明日も飯を食ってると思うか?明日もベッドで十分な睡眠を取れると...思っているか?
隣にいる奴が.....明日も隣にいると思うか?
俺はそうは思わない。そして普通の奴は毎日そんなことを考えないだろうな.....。
つまり俺は普通じゃない、異常な奴だ...。異常なものをあまりにも多く見すぎちまったせいだと思ってる。
だが明日...ウォール・ローゼが突破され、異常事態に陥った場合、俺は誰よりも迅速に対応し、戦える。明日からまたあの地獄が始まってもだ。
お前らも数々見てきたあれが.....、明日からじゃない根拠はどこにもねぇんだからな。
しかしだ。こんな毎日を早いとこ何とかしてぇのに...、それを邪魔してくる奴がいる。俺はそんな奴らを皆殺しにする異常者の役を買って出てもいい。そりゃ顔面の形を変えてやるくらいのことはしなくちゃな。
俺なら巨人に食われる地獄より人が殺し合う地獄を選ぶ。少なくとも...人類全員が参加する必要は無いからな。
だがそれさえも...、俺達がこの世界の実権を握ることがもしできたのなら、死ぬ予定だった奴がだいぶ...死ななくて済むらしい...。結構なことじゃねぇか...。
すべてお前次第だ、ヒストリア。
従うか、戦うか。どっちでもいい選べ...。ただし...、
時間がねぇから今すぐ決めろ!!」
「やります!!
っ私の...次の役は女王ですね...?やります、任せて下さい」
「...よし、立て。
頼んだぞ、ヒストリア」
「はい」
その時のリヴァイの表情は、嫌われ役を買って出てもいいと言ったわりにはそれに矛盾したような表情をしていて。
けれどリヴァイは何かを守るためなら自分の信頼を捨ててもいいと思えるくらい強い人なのも、わたしは知っていて。
わたしは、リヴァイが世界中から敵意を向けられたとしても.....わたしだけは。
わたしだけは...、リヴァイの味方だよ。