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人里離れた兵舎。そこにわたしたち、再編されたリヴァイ班が身を置くことになった場所。

「時間は十分にあったはずだが...」

「あちゃー...」

ついそんな言葉が漏れた。エレンを見ると頭に手をあてていたので、きっとみんなに掃除をしろと言ったけどみんなはリヴァイの潔癖さを知らないから掃除が甘かったんだろうと理解できた。

「まぁ...いい...。お前らがナメた掃除をしていた件は後回しだ。状況を整理し方針を固めるぞ。

まぁ...この短ぇ間には色々あったが、当初の目標が変わったわけじゃねぇ。要するにウォール・マリアにある穴を塞げさえすりゃいい。

おい、アルミン。上手くいきゃ素早く壁を塞げると言っていた話だ...。アレをもう一度言って聞かせろ」

そしてアルミンは巨人化したエレンが硬質化する能力を使い、それを現場でうみ出せれば塞げると言った。その作戦は、従来のように荷馬車で資材を運ぶ必要もない。天候次第では巨人の活動しない夜に現場を目指すやり方も考えられる。

馬だけならトロスト区からシガンシナ区まで一晩で駆けることができる。

「この理想が叶ったら...ウォール・マリア奪還に掛かる作戦時間は...

1日以下です」

何度聞いてもすごい作戦だと思う。この作戦が成功すれば、損害もほとんどないはず。

「改めて話してみてもやっぱり、雲を掴むような話に聞こえましたが」

「その雲を、雲じゃないものにできるかはこいつ次第だがな」

そう言ってリヴァイはエレンを見た。

「えぇ...承知しています」

「聞いたかハンジ。こいつはやる気だ。そして実験の場を見繕うのはお前だ」

「あぁ...もちろん。私が生きている内は、それは...私の役目だ」

「ハンジ...?」

なんだろう。いつものハンジと様子が...。いや、ハンジだけじゃなくて、リヴァイ班以外の他のみんなも様子がおかしい。

「今、駐屯兵団は総動員で壁を哨戒している。そりゃ、とてつもない労力だ。城壁都市の警備が手薄になるばかりか、治安の維持すらままならない。街は今、この状況に輪をかけて荒れている。

ウォール・マリアを奪還しなければならない...。以前よりも強くそう思うよ。皆を早く安心させてあげたい...。人同士で争わなくても生きていける世界にしたい。

だから...一刻も早くエレンの力を試したい。今度は恐れずに試そう。硬化の能力はもちろん、巨人化の詳細な情報を。特に...、巨人を操ったかもしれないって...すごい可能性だ。

もし本当にそんなことが可能なら、この人類の置かれている状況がひっくり返りかねない話だよ!だから!グズグズしていられない!早く行動しないと...いけない!

...だけど。まだエレンにはしばらく身を潜めておいてほしい...」

「え?」

「それは...なぜですか?」

みんなが目を丸くする中、エレンとアルミンがハンジに問う。

「それが...。我々が思って以上に状況は複雑なようなんだ」

「何だ.....。俺はてっきりお前らがここに来た時から全員がクソが漏れそうなのを我慢してるのかと思っていた」

「わたしも様子がおかしいと思っていたけれど...。ねぇハンジ、どうして?」

「ニック司祭が死んだ」

「.....え?」

「今朝トロスト区の兵舎の敷地内で、ニック司祭が死んでるのが発見された。

死因はわからないけど、殺されたんだ。
ニックは中央第一憲兵団に拷問を受け、殺されたんだ。

ウォール教は調査兵団に助力したニックを放っとかないだろうとは思っていた...。だから正体を隠して兵舎にいてもらってたんだけど...。

まさか...兵士を使って殺しにくるなんて...。私が甘かった...。ニックが殺されたのは私に責任がある」

イヤな静寂がその場を包む。その静寂を破ったのはアルミンだった。

「拷問って、憲兵はニック司祭を拷問して...、どこまで喋ったのか聞こうとしたのですか?」

「だろうな...レイス家とウォール教の繋がりを外部に漏らしてないかってことと...、エレンとヒストリアの居場所を聞こうとしたんだろ」

そしてモブリットが、この情報はエルヴィンとピクシス、全調査兵団にも共有されているため中央憲兵は逆に我々から監視される立場になったため下手なマネはできないだろう、と言った。

ここの場所もバレてないだろうということも付け加えた。

「それで...、エレンの実験をよそうって考えてるのか、ハンジ」

「あぁ...。エレンの巨人の力が明るみになった時から、中央の"何か"がエレンを手に入れようと必死に動いてきた。

しかし...、今回の騒動以降はその切迫度が明らかに変わってきている。それまで踏み込めなかった領域に土足で入って来て兵団組織が二分しかねないようなマネをしでかした。それも壁の中のすべてが不安定なこの時期にだ...。

この状況を普通に考えれば、ライナー達のような"外から来た敵"の仲間がずっと中央にはいたってことになる。

つまり我々が危惧すべきことは、壁の外を睨んでいる間に背後から刺されて致命傷を負うことだ」

「それで?俺達は大人しくお茶会でもやってろって言い出す気か?」

「室内でできることはまだ色々あるよ...。編み物とか...。.......今だけ頼むよ」

今だけ?今だけ、なんてきっとない。

「"今だけ"は違うよ、ハンジ。

きっとここはすぐにバレる。時間が経って諦めるようなものじゃない...」

「まったくだ。逃げてるだけじゃ時間が経つほど追い詰められる。

ハンジ...お前は普段なら頭の切れる奴だ。だがニックが殺されたことに責任を感じて逃げ腰になっちまってる。

ニックの爪は何枚剥がされてた?」

「.....は?

わからないよ。...一瞬しか見れなかったんだ...。でも、見えた限りの爪は全部剥がされてた」

「ほう...。喋る奴は1枚で喋るが...、喋らねぇ奴は何枚剥がしたって同じだ。

ニック司祭...。あいつはバカだったとは思うが、自分の信じるものを最後まで曲げることはなかったらしい。

ニックが口を割らなかった可能性が高いとなれば、中央の"何か"は調査兵団がレイス家を注視してるってとこまで警戒してない...かもしれん。

まぁ...俺に言わせりゃ今後の方針は2つだ。

背後から刺される前に外へ行くか、背後から刺す奴を駆除して外へ行くか。

お前はどっちだ、ハンジ?刺される前に行く方か?」

ハンジは苦しい顔をする。ハンジがニック司祭の死に責任を感じているのは事実だ。...でも、そのことに責任を感じ続けて逃げることを優先していてはダメだ。わたしたちには戦う選択肢しか残されてない。

しばらくしないでハンジは顔を上げる。その表情は来た時とは違って、自分の中で決断した顔で。

「両方だ。どっちも同時に進めよう」

「...まぁ、エルヴィンならそう言うだろうな...」


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