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状況は最悪だ。超大型巨人は落下の衝撃と同時にその体を一気に蒸発させた。その熱と風圧で下にいた僕らは一時再起不能になるダメージを受けた。
上にいた仲間もしばらく近付けないほどの一撃だった。
その中で、
辛うじて見えたのがエレンが鎧の巨人に敗北する姿だった。鎧の巨人だけがあの衝撃に耐えることができたんだ。エレンはうなじごと鎧の巨人に齧り取られた。
熱風が少し収まると同時に超大型巨人の残骸からユミルを抱えたベルトルトが現れた。ユミルと一緒に口に入れた兵士の立体機動装置を着けていたのだ。ベルトルトはユミルを抱えて鎧の巨人の背中に飛び移り、エレンとユミルを連れて去っていった。
それから...もう5時間程経ってしまった。
ハンジ分隊長やその他の上官が重症で動けない。ナマエさんも未だ目を覚まさない。
目を覚ましたミカサだって無傷じゃない。
エレンはいつも僕らを置いて1人で突っ走っていく。いつもそうだ。
「...私はただ...そばにいるだけでいいのに。
...それだけなのに...」
そんな僕らを励ますかのようにハンネスさんが声をかけてくれたのと同時に野戦食糧を手渡す。
ハンネスさんはそれを、うまくもまずくもねぇ...いつも通りだと言った。
「まぁいつものことじゃねぇか。あのワルガキの起こす面倒の世話をするのは。昔っからお前らの役目だろ?
腐れ縁ってやつだよ。まったく...。お前らは時代とか状況は変わってんのに、やってることはガキンチョの頃のままだぜ」
ハンネスさんは続けてエレンの信念の強さ、どんな相手だろうと僕らが来るまで手こずらせ続けるだろうと話した。
「あの何でもない日々を取り戻すためだったら...俺はなんでもする。どんだけ時間が掛かってもな...。
俺も行くぞ。お前ら3人が揃ってねぇと俺の日常は戻らねぇからな」
そうだ。僕らは日常を取り戻さなくちゃいけない。
握っていた野戦食糧を僕とミカサは口に運び、噛み砕く。生きろ。戦うために生きるんだ。
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「来た」
「壁の上を馬で駆けて来るとは...」
ミカサの声に顔を上げると、多くの兵士が馬に乗ってやってきた。
「クリスタ。やっぱり君には残ってほしいんだけど...」
「何度も言ってるけどそれは無理。ユミルが攫われたのにここで待つなんてできない。2人にはわかるはずでしょ?」
「クリスタの言う通りだぜ...アルミン」
クリスタの言葉に続けてコニーが口を開いた。
「俺達には奴らを追いかける理由が多すぎだろ。俺はまだ信じらんねぇからよ...。ライナーもベルトルトも敵だったなんて、奴らの口から直接聞くまでは...」
そうコニーが言い終わった時、1人の兵士が反応した。
「エルヴィン団長!!憲兵団まで...!」
兵士達が団長の元へ向かい、歓喜の声を漏らす。そんな中わずかに呻き声のようなものが聞こえた。
「.....う、...っ」
「.......!ナマエさん!?」
頭を押さえながらナマエさんがゆっくりと起き上がる。急いでナマエさんの元へ駆け寄ると腕を伸ばしてきたので手を貸しナマエさんはまだおぼつかない足取りで立ち上がった。
「.....ありがとう、アルミン。...もう、大丈夫」
「そ、そんな...!まだ怪我の具合が...!」
「ナマエ」
「...エルヴィン」
歩きだそうとしたナマエさんの腕を掴んだその時、団長がナマエさんの元へと歩み寄り声をかけた。その声に頭痛からか俯いていた顔をナマエさんは上げる。
「その体で、動けるのか」
「動ける...。わたしは大丈夫。大丈夫だから.....絶対に行く」
エルヴィン団長を見つめるナマエさんの瞳は見たことの無い色に染め上げられていた。強い信念。恐らく誰が止めてもナマエさんは行く、そう感じる瞳をしていた。
「そうか」
団長がそういった時、ハンジさん!?と呼ぶ声が聞こえた。
「ち...地図を...」
地面にから起き上がれないままにハンジ分隊長はそう言った。そして開かれた地図のとある場所を指さす。
「ここに...小規模だが巨大樹の森がある。そこを目指すべきだ...。
まぁ...鎧の巨人の足跡は隠しようがないと思うけど...。多分...彼らはここに向かいたいだろう」
「なぜだ?」
「賭けだけど...巨人化の力があっても壁外じゃ他の巨人の驚異に晒されるようだし、あれだけ戦った後だからエレンほどじゃなくても...えらく消耗してるんじゃないか?
アニも寝込んでたらしいよ。
彼らの目的地をウォール・マリアの向こう側だと仮定しようか。さらに...その長大な距離を渡り進む体力が残ってないものと仮定してみよう。
どこか巨人の手の届かない所で休みたいと思うんじゃないか!?巨人が動かなくなる夜まで!
夜までだ!!
夜までにこの森に着けばまだ間に合うかもしれない!!」