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わたしたちはエルミハ区に到着した。
そこには避難する人々で溢れかえり、その表情は不安の色一色で染め上げられている。
その中には親とはぐれてしまった子供の泣き声や、親を呼ぶ子供の声も混じっていた。
「こっから先はもう巨人の領域になるよ」
「エレン、馬には乗れそう?」
「えぇ...体の力が戻ってきました...。ナマエさんこそ、怪我の具合は...」
「わたし?わたしは大丈夫!戦うには問題ないくらいには塞がったし!見る?」
ワイシャツの裾に手を掛けるとエレンがわたわたと慌て出す。
「いやっ、ちょっとナマエさん!?」
「...おい、ナマエ。やめろ」
やけに怖い顔をしたリヴァイに裾に伸ばした手を掴まれてしまった。
「じょ、冗談だよ?!」
「エレン、西側のリフトに馬が用意してある。急ぐぞ。
ナマエちゃんも、急いで!」
モブリットの言葉に頷き馬の元へ向かおうとしたがハンジは動こうとしない。モブリットが声をかけると、ちょっと待って、と言い司祭に歩み寄る。
「...何か、気持ちの変化はありましたか?」
ハンジの質問に司祭は相変わらず何も答えない。
「時間が無い!!わかるだろ!?
話すか黙るかハッキリしろよ!お願いですから!!」
痺れを切らしたハンジが声を荒らげた時、司祭はようやく重たい口を開いた。
「私は話せない。他の教徒もそれは同じで変わることはないだろう...」
「それはどうも!!わざわざ教えてくれて助かったよ!!」
吐き捨てるようにハンジはそう言い司祭に背を向けた。けれど司祭は言葉を続ける。
「.....それは、自分で決めるにはあまりにも大きなことだからだ。我々にはあまりにも荷が重い...。
我々は代々強固なる誓約制度を築き上げ、壁の秘密をある血族に託してきた。
我々は話せない。だが...、壁の秘密を話せる人物を教えることならできる...」
「責任を...、誰かに押しつけて自分達の身や組織を守ってきたってこと?」
ハンジの問いに司祭はそうだ...、と答えた。
「その子は...3年前よりその血族の争いに巻き込まれ、偽名を使って身を隠している。
その子はまだ何も知らないが...、壁の秘密を知り公に話すことを選べる権利を持っている。
今年調査兵団に入団したと聞いた...」
その言葉にわたしやエレン、ミカサ、アルミンは息を呑む。
「その子の名は.....」
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「え...」
「あ、あいつが...?」
狼狽えるわたしたちにハンジは誰...?と聞く。おそらくまだ104期生を把握しきれていないから。
「彼女を連れてこい。彼女なら我々の知り得ない真相さえ知ることができるだろう。
...その上で、それを話すかどうかは彼女次第だが...。
私ができる譲歩はここまでだ。後はお前達に委ねる」
まさか、わたしたちと共に過ごしてきた人物の中にそんな重要なことを知っている人間がいたなんて。
「その子.....104期だから、今は最前線にいるんじゃ...」
ハンジの言葉にエレンが行きましょう!と言う。
「とにかく現場に急がないと!」
「待って!まだ104期生全員の名前を知らないんだけど...」
「あの104期生の中で1番小さい子ですよ!ナマエさんよりは少し大きいです!」
「うっ.......」
エレンの言葉がグサリと刺さる。
...まぁ事実なのだけれど...。
「金髪の長い髪で.....えーと、あと、かわいい!
ナマエさんとは身長は近いですけど違う系統な感じです!」
「.....?わたし?」
「ユミルといつも一緒にいる子です」
その時、ユミル、という言葉にハンジが反応した。
「え.....?ユミル?」
巨人発見より17時間後、わたしたちは各々、松明を掲げながら馬に乗って移動していた。
ハンジは地図を見ながらある目的地を目指すことを指示する。
「ここの塔からなら壁が見渡せそうだ。南西の壁近くにある古城だ...。
まずはこの、ウトガルド城を目指そう」