20


女型の巨人を捕獲する作戦を話し終えた後、部屋にはわたしとリヴァイだけが残された。

お互い何も話さない時間がしばらく続く。その時間はとてもゆっくりで穏やかさすら感じる時間だった。そしてわたしより先にリヴァイが口を開く。

「.....随分と遅い目覚めだったな。もうとっくに朝は過ぎちまったが」

その言葉にゆっくりとリヴァイの方に顔を向け、笑う。

「うん.....。ごめんね...、朝寝坊しすぎちゃった」

そう言うとリヴァイは、はっ、と小さく笑う。

...あぁ、幸せだ。生きてる。わたしも、リヴァイも。それだけでわたしは幸せなんだ。

「傷は痛まねぇのか」

「痛い。すっごく痛い。でも...わたし、リヴァイに呼ばれた気がして、目が覚めたの。

それに、女型の巨人...アニのことも伝えなくちゃって思って...。だいじょうぶ、生きてる限りわたしのこんな傷なんてすぐに治せるよ」

こうやってじっとして話しているだけでも本当は体中鈍い痛みが走ってる。けれどそれ以上に、わたしはリヴァイといることを望んでる。

「そうか...。

お前がハンジに抱えられて運ばれた時、死人みてぇな顔をしていた。本当にこのままお前が死んじまう気がした。

呼びかけても反応はねぇ。触れるとひでぇくらいに体温が感じられなかった。

...俺は、あの時...ナマエ。お前をエレン達と共に行動をさせなけりゃこんなことにならなかったんじゃねえかとすら思った...俺らしくもねぇ。

だからナマエ。俺は...お前に早々に死なれるのは困る。無茶はしてもいいが、死ぬな」

リヴァイの真っ直ぐな瞳と目が合う。わたしはその言葉に大きく頷き1粒、また1粒と涙がとめどなく流れる。

「...うんっ...!絶対死なない...!」

リヴァイの指先が目尻に触れて溢れる涙を掬う。そしてリヴァイの片方の手のひらがわたしの頬を包む。その手をわたしは両手で包み、笑う。

「でもわたしはリヴァイが死んじゃったら困るから、リヴァイこそ死なないでね...っ。絶対...絶対に」

「.....あぁ。約束しよう」

****

わたしの涙が止まったのを確認してリヴァイはわたしの名前を呼んだ。

「明後日の招集に、俺はエルヴィンと共に行動する。だがお前はここで留守番だ」

「...うん。わかってるよ。

でもリヴァイもケガしてるんだから...無理はしないでね」

「お前じゃねぇから安心しろ」

頭に手を置かれ、わしゃわしゃと撫でられる。

そしてエレンが王都に招集される日、つまり作戦決行日となった。

部屋の窓から外を眺めながら、アニについて思いを馳せる。アニは...殺されてしまうんだろうか。わたしは、アニが巨人だなんて受け入れたくなかった。
アニと面と向かって話したあの日、彼女はどこか寂しそうな顔をしていた。その理由が...こんな事実だったなんて。

アニと対立なんてしたくなかった。けれど、アニが人類の脅威である存在ならば、戦わなければいけないんだろう。それが、わたしたち調査兵団の使命だから。

エレンも...ミカサもアルミンも、ほかの兵士のみんなもどうか無事でいてほしい。

ケガはだいぶ治って、普通に生活するぶんには支障が出ないほどには回復した。けれど念の為ということで、作戦には参加出来ない。
そのことに酷く歯がゆさを感じた。

その後、ベッドの中で静かに本を読んでいると招集がかかった。何事だろうと兵士についていくと地下に連れていかれた。そこにはリヴァイやほかのみんなもいて。

みんなの視線はただ一つ。水晶のようなものに注がれていた。そこへ近づいた時、ドクリと心臓が嫌な音を立てる。

「.....アニ...?」

水晶の中にはアニがいた。
困惑と絶望の狭間の感情に包まれていた時、1人の兵士が慌てた様子でわたしたちの元へ来た。

「ウォール・ローゼが!突破されました!!」


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