19
「い...、おーい、ナマエ!」
「.....っ!
...あれ、エマ.....とクラウス?」
「何ぼうっと突っ立ってんだよ!帰ろうぜ!」
「えっ...、あ...うん...。
なんだか...エマとクラウスに会うの、久しぶりな感じ...」
「何言ってんだ、ナマエ。俺達ずっと一緒だったじゃないか。ようやく地上にもこうして3人で出られた」
クラウスがそう言ったのを聞きながら、エマに手を引かれて歩く。
.....地上に、出られた?
どうやってわたしたちは地上に出られたんだっけ。
「エマもクラウスもずいぶん背が大きくなったね」
「...?なんだよ、今さら。今日のナマエ、何か変だぞ?」
「そう...だよね。あれ...なんでだろう.....」
エマに顔を覗かれる。ずっと一緒にいたハズなのに、どうしてこんなことを思うんだろう。
それに、今わたしたちはどこに向かっているんだろう。わたしの...帰るべき家はどこだったっけ。
すれ違う人々の顔は幸せに染まっている。わたしたちは壁の中にいるんだろうか?わたしたちの脅威たりえる存在はどうなったんだろう。
「ねぇ...巨人って、どうなったの?もういなくなったの?」
「巨人?何だよそれ。そんなモノ元々いないだろう」
「.....え?」
「ナマエ、夢でも見てたんじゃねえの?」
...夢?違う。確かに巨人はいたハズだ。
...でも、どこに?なんでわたしはその存在を知ってる?
「...ごめん、なんだか今日のわたし変だね。
帰ったらおいしい紅茶でも飲もう!」
そう言うとクラウスは首をかしげた。
「紅茶?ナマエ、いつそんなもの飲んだんだ?俺達、紅茶なんて飲んだことないだろう。家にもないぞ」
「そ、そんなことないでしょ...!わたし、紅茶の入れ方教えてもらったもん...!
.......あれ、誰に...?誰に教えてもらったんだろう?」
思い出せない。思い出せないことが、なんでこんなにも苦しい?
「.....大切な、人だった気がするのに...っ」
「おい、ナマエ.....って、何で泣いてんだよ!?」
理由もわからないのに両目からはボロボロと涙が溢れ出す。寂しい。苦しい。
「.......会いたい。あの人に...会いたい...っ」
あの人...?思い出せない。確かにその人はいた。温かくて優しくて...わたしの大切な人。守りたい人。なのにどうして、思い出せない...?
「帰らなくちゃ...。あの人のところに、帰りたい...っ。
会いたい.....!」
誰かがわたしのことを呼ぶ声がする。誰だろう。でも、その声は懐かしくて大好きで。目を覚まさなきゃ。あの人は、わたしを呼んでる。
「...リヴァイ...っ!!」
その瞬間、世界が眩しいほどに白色に染まった。
****
「.......っ!!!」
全身の強烈な痛みで目が覚める。声も出ないほどに体のあちこちが軋む音がする。息を吸うことすら今のわたしには体を痛めつける行為でしかない。
痛みを耐えて、落ち着いて周りを視線だけで見る。
「.....帰って...こられた...っ」
自然と涙が溢れ出す。女型の巨人に投げ飛ばされたあと、わたしは意識を失ったんだ。でもこうして、戻ってこられた。
でも悠長にじっとしてはいられなかった。わたしは、気付いてしまったんだ。女型の巨人のこと。
「...伝えなきゃ...みんなに、女型のこと...っ!」
体を動かそうとすると、動くなと言うように体が痛みという名の悲鳴をあげる。歯を食いしばり、耐えて立ち上がろうとする。
けれど全身に力は入らずベッドから崩れ落ちる形で床に叩きつけられる。
「くっ.....!」
ふらつく体をどうにか踏ん張り壁を伝って歩く。みんながどこにいるかなんて正確にはわからない。
けれど、なんとなく、わかる気がする。きっとそこにいる。
痛い。今すぐ止まってしまいたい。でも、止まってしまったら、わたしは一生後悔する。体より...ずっと心が痛い。
そして1つの扉の前にたどり着こうとしていた。きっとみんなはここにいる。
近付いていくとエルヴィンの声が聞こえた。合ってた。ここに...本当にみんないる。
その時エルヴィンが女型の巨人の正体が判明したと言い出したのを拾う。
.....伝えなきゃ!急いで...!動け、動いて...!
ぐっと体に力を入れると痛みで叫びそうだった。1歩。また1歩。着実に歩く。
しかし1歩踏み出した時、体の力が抜けて膝から崩れ落ちる。
痛みで動けずにいると扉が開かれた。そこにはリヴァイがいて。リヴァイは驚いたように目を見開いていた。
リヴァイはわたしの名前を呼ぶ。本当は、今すぐに触れたい。けれど、それよりも伝えなくちゃいけないことがある。
「.....アニ」
わたしがそう口にすると、エレンがえ?と声を出した。
「アニ.....なんでしょう.....?アルミン。
女型の巨人.....の、正体.....」