18


「遅ぇな...。

エルヴィンの野郎共...待たせやがって。憲兵が先に来ちまうぞ...」

部屋には俺とリヴァイ兵長、2人だけの空間だった。本来ならきっともう1人、ナマエさんがここにはいたはずなのに。

「大方...クソがなかなか出なくて困ってんだろうな」

「ハハハ...。

今日は...よく喋りますね」

「バカ言え。俺は元々結構喋る...」

撤退して壁内に戻ってからもずっと気持ちは晴れないままだ。その理由は明確で。

「...すいません。

俺が...あの時...選択を間違えなければ、こんなことに...。兵長にもケガまで...」

「言っただろうが。結果は誰にもわからんと」

「その...ナマエさんは...」

ずっと気になっていたことだった。ナマエさんはどうなったのか。

俺が彼女の名前を口にすると、少しだけリヴァイ兵長の瞳が揺らいだように見えた。

「...ナマエはまだ目が覚めねぇらしい。寝坊どころの話じゃねぇな。いつもならアイツが寝坊することなんて無いんだが...」

そう言ってリヴァイ兵長は紅茶を一口飲んだ。俺が聞けたのはナマエさんの容態が深刻だということだけだった。

これも、俺のせいだったんじゃないか。ナマエさんは仲間の犠牲を目の前にして飛び込んで行き、投げ飛ばされた。最初から俺が選択を間違えなければナマエさんだってこうはならなかったはずだ。

そう考えていた時、部屋の扉がノックされた後開かれた。

「遅れて申し訳ない」

「いえ.....。

アルミン?ミカサも...」

エルヴィン団長と共に入ってきたのはアルミンとミカサだった。

「女型の巨人と思わしき人物を見つけた。

目標は普段、ストヘス区中で憲兵団に所属している。今度こそ目標...女型の巨人を捕らえるために作戦を立てた。

決行日は明後日。その日に我々とエレンが王都に招集されることが決まった」

前回の壁外調査で女型の巨人を捕らえることが出来ず、更には多くの死者と甚大な被害を被った。つまり俺が王都へと招集され、憲兵団に引き渡されるかもしれない。

「これらすべての危機を打開すべくして作戦は立てられた。これにすべてを賭ける。次は...無いだろう」

作戦は憲兵団に護送される際、ストヘス区中で俺が抜け出す。そして女型をおびき寄せ、地下で巨人化させることなく捕獲する。

これが成功すれば当然招集の話は無くなる、と団長は言う。王都の意識も壁の防衛に傾くはずだ、と。

...これさえ成功すれば一発で状況が好転する。そもそも女型が誰か特定できているんなら成功は堅くないか?

「やったな」

俺がアルミンやミカサにそう言うと2人は硬い表情をする。

「女型の正体だが...。

それを割り出したのはアルミンだ。この作戦を立案したのも彼で、私がそれを採用した。

女型と接触したアルミンの推察によるところでは、いわく女型は君達104期訓練兵団である可能性があり、生け捕りにした2体の巨人を殺した犯人とも思われる。

彼女の名は.....」

その時、扉の向こうからバタンと音がした。俺達は驚き扉を見る。

「まさか.....」

リヴァイ兵長がそう言うや否や立ち上がり扉の取っ手に手を掛け、扉を開いた。

するとそこには苦しそうに顔を歪ませ、脇腹に手を当てながら歩いてきたであろうナマエさんが壁に手を付き床に座り込んでいた。

「おい、ナマエ...お前.....」

「.....アニ」

「え...?」

リヴァイ兵長の言葉を遮るようにしてナマエさんはアニ、と言った。その言葉に俺は勝手に言葉が零れていた。

「アニ.....なんでしょう.....?アルミン。
女型の巨人.....の、正体.....」

リヴァイ兵長に支えられる形でナマエさんは歩きながらそう言った。その両目には涙が溜まっていて、その涙は痛みによる涙ではない、違う理由による涙のような気がした。

「アニが...?
何で...そう思うんだよ.....アルミン」

「女型の巨人はエレンの顔を知ってるばかりか、同期でしか知りえないエレンのあだ名『死に急ぎ野郎』に反応を見せた。

何より大きいのは2体の巨人を殺したと思われるのがアニだからだ...。あの2体の殺害には高度な技術が必要だから使い慣れた自分の立体機動装置を使って...検査時にはマルコの物を提示して追及を逃れたと思われる」

「は.....?どうして...マルコ...が出てくる?」

「わからない...。僕の見間違いかもしれない...」

「.....は?」

アルミンの意見を俺は上手く自分の中で咀嚼できない。そんな中、兵長が他に根拠が無いのかと聞いた。

それに対しミカサがアニは女型と顔が似ていると思った、と言う。

「は!?何言ってんだ!そんな根拠で.....」

すると突然ナマエさんが、わたしは...と口を開いた。

「わたし...、女型に投げ飛ばされる前に女型と目が合ったの。その時に...どうしてだかアニだと思った。わからない。どうしてそう思ったのか...。

でも、女型がわたしを掴む前、確実に一度躊躇した...」

俯いたままナマエさんはそう言った。ナマエさんが言い終わったのを確認したようにリヴァイ兵長が口を開く。

「つまり...証拠はねぇがやるんだな...」

「証拠が無い...?何だそれ...何でやるんだ?

どうするんだよ、アニじゃなかったら...」

「アニじゃなかったら...アニの疑いが晴れるだけ」

「そうなったらアニには申し訳ないと思うよ...。

でも...だからって何もしなければエレンが中央のヤツの生贄になるだけだ」

アルミンもミカサもここにいる、誰もが女型をアニだと思っている。

「アニを...疑うなんて、どうかしてる...」

「エレン。アニと聞いた今、思い当たることは無いの?

女型の巨人と格闘戦を交えたなら、アニ独特の技術を目にしたりはしなかったの?」

ミカサのその言葉にアニの動きと女型の動きが重なる。あの、アニ特有の動きが目の奥で嫌という程鮮明に思い出された。


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