17


撤退命令が出た。女型の巨人は逃してしまい、多くの兵士の命を失ってしまった損害は大きい。

「さぁ、早く戻ろう」

馬を置いてきた場所へと戻る。その時、ポツリと頬に冷たい何かがあたった。

「.....雨...?」

「ぶ、分隊長!!」

雨のような何かがあたった時、モブリットがやけに焦ったような声を出す。彼の目線は私の頬に注がれていて、つられるように私は雨粒のあたった頬に手を伸ばしそこを触れる。

すると、指先がぬるりと変な感触を拾った。
頬から手を伸ばし、指先を見るとそこは赤く染まっていたのだ。

「...え!?血!?」

驚いて声を上げると再びポツリと血が垂れてくる。

「上から.....?」

その血は生い茂る木の上から垂れてきている。恐らく垂れてきているのは人間の血だ。もしかして、誰か怪我をしたのだろうか。そう思って上を見上げた。

「.....!
あれは、立体機動装置.....ですか...!?」

「.....うん。誰か、木の上にいる」

立体機動装置のワイヤーが木に引っかかっているのが見えた。血を流している本人が生きているか死んでいるかはわからないが、調査団兵士だろう。とりあえず様子を見なければならない。

私は立体機動に移ってそこへ向かう。

「ちょっとハンジさん!?」
「誰か怪我をしているかもしれない!すぐ戻るから!」

モブリットにそう伝えて急いで怪我人のいる元へと向かう。そして、目的地へ着いた時私は言葉を失った。

「.......ナマエちゃん...?」

ナマエちゃんだ。彼女が血を流していた本人。

彼女の脇腹にはブレードが突き刺さり貫通している。貫通した刃から伝って垂れているのは、彼女の血液。

「なんでナマエちゃんがここにいるんだ...!?エレン達と行動を一緒にしたハズじゃ...!?

とりあえず急いで手当てしないとこれはまずい...!」

ナマエちゃんを抱えて下へと降りるとモブリットが待っていた。

「分隊長!

.....ナマエちゃん...?まさか、血を流していたのはナマエちゃんなんですか...!?なぜ...!」

「間違いないよ。それよりも早く手当てしないとこの状況はまずい。どうしてこうなったのか考えるのは後だ。

モブリット、今から私はナマエちゃんに刺さってるこのブレードを抜く。抜いた瞬間、恐らく大量に血が流れ出すハズだ。
モブリットは急いで流れる血を止血して欲しい...!」

「分かりました!」

呼吸が浅い。私が見つけるまでに多くの血を失ったせいか、顔も青白く唇が紫色になっている。このまま血を失い続けたら確実に彼女は死んでしまう。

刺さった刃を一気に抜く。するとやはりドクドクと血が流れ出した。モブリットは刃が刺さっていた場所を布で押さえ付け、止血を試みる。

「.....っ。血が、止まりません...っ!」

「.....ナマエちゃん、君はまだ死ぬときではないよ」

しばらくして先程より流れる血の量が減ったのを確認して包帯を巻く。壁内に戻るまで持つだろうか。

「頑張ってくれ.....ナマエちゃん.....!」

****

「オイ.....!ナマエはどうなった...!?」

「ちょっと、落ち着いてリヴァイ!
ナマエちゃんなら奥の部屋にいるから...!
リヴァイだってケガをしているんだから安静にしてないと...!」

ナマエちゃんの容態を確認し終わり彼女の部屋から出た途端にリヴァイが酷い形相で、焦ったように私の胸倉を掴みながらそう問いつめた。

彼だって負傷している。実際、戦力を2つ。いや、それ以上を一時的に失ったのはかなりこちらとしてはキツイことだ。

「...悪い」

パッと腕を離しナマエちゃんの眠る部屋へと入っていくリヴァイ。彼のあんな焦った姿はあまり見たことがなかった。

リヴァイに続いて私も部屋へと入る。そこには、出会った頃よりも顔色を失って、今にも消えてしまいそうな姿をしたナマエちゃんがいた。

「.....ナマエ」

リヴァイが声を掛けるも彼女からの返事はない。至る所に傷があり、頭や脇腹に包帯を巻いたその姿はあまりにも痛々しい。

「...奇跡的に、木に立体機動装置が引っ掛かって地面に体を強打するのは回避出来た。でも、恐らく巨人に投げられた時に手から離れた刃が脇腹を貫通したんだ。

出血量が多すぎて傷の治りが早いナマエちゃんですら、これからどうなるのかわならない...。
それに、何故ナマエちゃんだけ巨人に投げられたのかもわからない」

ナマエちゃんの容態は本当に良くない。ハッキリ言って、最悪の場合回復せず死んでしまうかもしれないのだ。

死人のような姿をしているナマエちゃんの頬へリヴァイは手を伸ばし触れる。触れた時、少しだけリヴァイの表情が歪んだ。

「.....ナマエ。いつまで寝てやがる...」

リヴァイの言葉が虚しく部屋の空気に溶けた。


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