11.5
シャワーを浴び終え、部屋に戻るとそこにはナマエの姿はなかった。どこに行ったのかは検討がつく。エレンのところに行ったのだろう。
エレンが地下で就寝することをナマエが知った時、寝る前にエレンの所へ行ってもいいかと聞かれた。駄目だと伝えた時、ナマエにしてはやけに素直にわかったと答えた辺りから、エレンのところに何も言わずに行くのだろうということはわかっていた。
30分も経てば戻ってくるだろうと思い仕事を片付けていたが戻ってくる気配がない。
ナマエのことだ。話し込みすぎて時間を忘れたんじゃねぇか、とも思ったがそういうことに関しては遅くなりすぎる前に戻ってくる。
「....何してやがる」
さすがに遅すぎる、そう思い部屋から出てエレンの元へ向かう。
****
エレンの部屋にノックもせず入るとそこには困惑した顔のエレンと、エレンの横に座り寝かけているナマエの姿があった。船を漕ぎ、エレンの元に倒れそうになっている。
ナマエの前に立ち、名前を呼ぶと薄らと瞼を開き俺の名前を呼ぶ。
「いつまでここにいるつもりだ。エレンに迷惑を掛けるんじゃねぇ」
そう言うとナマエがエレンへ謝罪の言葉を述べる。だがまだ意識がはっきりしていないのか再び瞼を閉じ眠りに入ろうとする。
この状態になるとナマエは何をしても起きない。
屈んでナマエを抱き上げアホ面をしているエレンに邪魔をしたと言い退出する。
部屋に戻る途中でナマエを見ると完全に眠ったようだった。ナマエが特別指導員として訓練兵団の元へ行く前も何度かこうして話しの途中で寝落ちするナマエを連れて帰るために抱き上げて移動したことがあった。
その時もこうして確実に俺の腕の中に移動した途端眠り出す。ナマエと出会ってから5年が経ち、成長はしたが本質はいつまでも変わらないということだろう。
部屋に戻りベッドにナマエを降ろす。顔に流れた髪を耳に掛け、しばらくナマエの顔を見つめる。
普段から笑顔をあまり絶やさないが、誰よりも誰かが傷付くのを嫌い、その為ならば自分が傷付くことも厭わない。偶に他人の苦しみを自分の苦しみのように背負って無茶をする。
俺が目を離したら、どこまでも無茶をするだろう。だからナマエから目を離せない。まぁ、離すつもりも無いが。
俺がナマエを守ってねぇと、いつでも矢面に立つだろう。自分が傷付いてでも誰かを守る。
もし誰もナマエを守る奴がいなくなった時でも、俺はナマエを守る。
「...ナマエ。お前は...無茶してまで何を守りたい」
答えるはずもない。寝ている奴に話しかけても意味が無いのはわかっていた。だからさっさと仕事を終えようと眠るナマエに背を向けた時、裾が引かれた。
「...リヴァイ」
振り向くとナマエが薄く目を開け、こちらを見ていた。
「わたしね、リヴァイがすごく大切なんだよ。リヴァイは特別なの...。リヴァイがわたしのこと大事にしてくれてるのも知ってるよ。リヴァイが強いことも知ってる。
でも、わたしはわたしの大切な人を守りたいの。リヴァイはすっごく強いから...みんな守らなくていいって思うかもしれないけど...。わたしはそうは思わないよ。だから、わたしはリヴァイを守りたいって思うんだ...」
そう言ってナマエは緩く微笑み再び瞼を閉じる。力が抜けて裾を離し、落ちていこうとする手を掴む。その手は自分のものと比べても遥かに小さい。
「...こんな小せぇのに守りたいって意志だけは1人前だな...」
握った手をベッドへと戻し1人静かにそう呟いた。
****
「エレン、昨日は本当にごめんね...!
今日は寝ないようにするね.....」
「えっ、今日も来るんですか」
「毎日行こうと思ってるよ?」
「ま、またナマエさんが寝ちゃったら、次こそ俺、ただじゃ済まされない気がするんですけど...」
「ただじゃ済まされない?」
「オイ、ナマエ。エレンの所には30分経ったら戻ってこい。
戻らなかった場合は、エレンがナマエの代わりに罰を受ける」
「罰!?だ、ダメ!ダメだよっ!
わかった!絶対30分経つ前に戻るからエレンいじめないで!」
「虐めてるのはお前だ」
「えっ!?イジめてないよ!」
「(これ以上ナマエさんが俺の前で寝たりしたらリヴァイ兵長の眼力で殺されかねない...)」