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今日はついに訓練兵のみんなが所属兵団を決める日だ。エレンはすでに調査兵団となっているから、エレンを抜いた104期生みんながそれぞれ自分がどこに所属するか決めなくてはいけない。
わたしは特別指導員として彼らに関わりがあるから、彼らがどの道へ進むのかこの目で見守りたいと思い、エレンたちとともに参加することにした。
壇上にはエルヴィンがいる。調査兵団の勧誘について話すのだろう。
「今回の襲撃で失った物は大きいが、これまでに無いほど人類は勝利へと前進した。
それは周知の通り、エレン・イェーガーの存在だ。彼と諸君らの活躍で巨人の侵攻は阻止され、我々は巨人の正体に辿り着く術を獲得した。
彼に関してはまだここで話せることは少ない。だが間違いなく我々の味方であり、命懸けの働きでそれを証明している」
そしてエルヴィンは続けてエレンの家の地下室についての話もした。そこたどり着けば巨人の支配から脱却できる手がかりが掴めるだろう、と。
けれど、そこを調べるためにはウォール・マリアの奪還が必要となる。トロスト区の扉が使えなくなったため、カラネス区から遠回りで向かうしかない。4年かけて作った大部隊の行路も全てがムダになった、と彼は続けた。
「その4年間で調査兵団の9割以上が死んだ。4年で9割だ。
少なく見積っても我々が再びウォール・マリアに大部隊を送るにはその5倍の犠牲者と20年の歳月が必要になる...。現実的ではない数字だ」
つまり、調査兵団は常に人が足りない状態にあるということ。生きて帰ってくる人より、死んでしまう人が多いのだから。
さらには次の壁外調査に新兵も参加させるというのだ。新兵が最初の壁外調査で死亡する確率は5割程度。それを越えた人が生存率の高い優秀な兵士となっていく、そう言った。
「この惨状を知った上で自分の命を賭してもやるという者はこの場に残ってくれ。
もう1度言う...。調査兵団に入るためにこの場に残る者は近々殆ど死ぬだろう。自分に聞いてみてくれ。人類のために心臓を捧げることができるのかを。
そして解散の前に一言、諸君らに向けてナマエ副兵士長から言葉を貰う」
会場が重たい雰囲気に包まれる中、突然わたしの名前が呼ばれたことに驚く。そんなこと聞いてない!
「ナマエ」
エルヴィンがこちらを見て、催促するかのように声をかける。わたしはゆっくり前に進みながら何を話すか考えるけれど、緊張で何も考えられない。
気がつけばみんなの前に立っていて、視線が一気に集まる。エルヴィンが話していたことは事実だ。それ以上にみんなに怖いことを話す必要はないだろうし...。
「え、っと。みんな...お久しぶりです。
エルヴィンはさっきのようなことを言ったけれど、わたしは.....みんなそれぞれの選択が間違ってるとは思いません。この日のためにみんな頑張ってきたのだから、進みたい道に進むべきだと思います。
もちろん調査兵団に入ってくれたらわたしは嬉しい!けれど、事実はさっきエルヴィンの言った通り。
だから、それぞれみんな後悔のないような選択をしてください。そこに正解や間違いなんてないと思うから...」
話し終え、ドキドキとした胸をなで下ろす。エルヴィンが小さな声でありがとう、と言ってくれたので笑顔で返す。
「.....以上だ。
他の兵団の志願者は解散したまえ」
エルヴィンのその言葉と同時に集まっていた人の列が崩れ、まばらになっていく。ここまで言ってしまったからきっと、残る人は相当絞られる。
移動する人が確認できなくなった時、エルヴィンは再び口を開いた。
「君達は、死ねと言われたら死ねるのか?」
「死にたくありません!」
どこからかそんな声が聞こえる。
「そうか.....。皆.....良い表情だ。
では今!ここにいる者を新たな調査兵団として迎え入れる!
これが本物の敬礼だ!心臓を捧げよ!」
「ハッ!!」
あれだけの話を聞いて、怖くない人なんていない。そんな中、覚悟を決めて調査兵団入団を決めた彼らは本当にすごい。
「第104期調査兵団は敬礼をしている総勢21名だな。
.....よく恐怖に耐えてくれた...。
君達は勇敢な兵士だ。心より尊敬する」