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「あの...ナマエさんとリヴァイ兵長っていつもあんな感じなんですか...?」
休憩を終えて、再び掃除が再開されたが庭掃除は終わったためまた建物内の掃除しきれなかった部分を掃除するようリヴァイ兵長に指示された。
「まぁ、そうだね。普通の人の距離感をイメージしてたら驚くのも無理ないよ。
.....エレン、ナマエさんと兵長がキスすると思ったでしょ?」
悪戯に笑ったペトラさんのその言葉にドキリと心臓が跳ねる。
「えっ!いや、その.....はい...。普段から距離感は近いと思ってたんですけど、2人でいると余計に距離感がほぼゼロなんですね...」
「別に2人きりだからあの距離感ってわけでもないけどね。私達がいても普通にあんな感じだから、私達ももう慣れちゃったかなぁ。もちろん最初はビックリしたけどね!
だけどやっぱり凄いのはちゃんと公私を分けてるってところかな...。おかしいと思ったらナマエさんだって兵長に意見するし、兵長もナマエさんを叱るし。前のナマエさんが私情で発言した、って言ってた時みたいにね」
「あの時は...結構驚きました。前からナマエさん、リヴァイ兵長に意見するところは見てきましたけど、あんな風に作戦に関しては意見したりはしないと思ってたので...」
「ナマエさんの見た目のイメージからしても、リヴァイ兵長に従順、って感じがするから仕方ないよ。
それでエレン、実際にああいうやり取りを見て何かわかった?」
ああいう、というのは恐らく休憩前の2人についてだろう。思い出すだけで何処か背徳感を感じてしまう。
「わ、わかりません...。ただ、ペトラさんが言ったように特別な関係性なのはわかりました」
「あの2人の関係性を定義付けるのは不可能だと思うよ。恋人でも、家族でもない...それを超えた関係性なのかな、ってわたしは思ってる。
まぁ、結局私達は本人じゃないしね、実の所はわからないってことだよ!」
笑顔でペトラさんはそう言った。確かにそうだが、俺はあの距離感に目を慣らしていく必要がありそうだとだけはわかった。
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掃除が終わり、明日からの全体訓練に向けて早めの休息を取れということでそれぞれ早めに自室へ戻った。俺も地下室へと戻る。自分だけ地下室ということにあまりいい気分はしないが、致し方のないことだと思う。
することも無いのでさっさと寝よう、と思った時控えめに扉からノック音が聞こえた。
「.....エレン、起きてる?」
その声の主は紛れもなくナマエさんで、扉を開けると入ってもいい?と聞かれた。
「大丈夫ですけど.....。あの、部屋戻ったんじゃないんですか?」
「うん、戻ったよ。
でも今リヴァイがシャワー浴びてるから、こっそり抜け出してきた!」
その言葉に些か違和感を感じた。
「もしかしてリヴァイ兵長と部屋一緒とか.....はさすがに無いですよね」
「え?一緒だよ」
「えッ!!!!!!!」
「エレンっ、しーっ!」
思いの外大きい声が出て慌てるが、それ以前にナマエさんが兵長と一緒の部屋だということに衝撃を受ける。
「す、すみません...。
それより、どうしたんですか?何か俺に用が?」
ナマエさんはベッドに座る俺の隣を指差し、座ってもいい?と聞くので遠慮がちに頷いた。
「用事っていうか.....。エレンとお話をしに来た!仕方ないことかもしれないけれど、地下室って響きも嫌だし寂しいから...せめてエレンが寝るまででもいいからお話できたらなぁって!
あっ、でももしかしてもう寝る予定だった!?」
「あ、いえ、大丈夫です。でも、リヴァイ兵長に怒られないですか...?」
「その時はその時考える!たぶんすぐバレるだろうしね!わたしがもしリヴァイに怒られてもエレンのせいじゃないから気にしないでねー」
そう言ってナマエさんは笑った。そして、何お話しようかなぁと呟く。
「あっ、そうだ!じゃあちょっとだけわたしのお話、聞いてくれる?」
「もちろんです」
そしてナマエさんは口を開く。
「わたしね、地下街出身でエルヴィンの指示でリヴァイに連れられて調査兵団に入ったんだけど...。わたし、変わった体質?らしくて。
エレンみたいに巨人化できるとかではないけど、対巨人用に作られた人間なんだって」
「えっ.....!対巨人用...!?」
「うん。だからわたしは、小さいけど力は強かったりするんだって。
だから、エレンが酷く言われてた時に...なんとなく自分もイヤな気持ちになった。だって望んでこうなったわけじゃないから。
だけど今は、わたしはわたしでよかったなって思えるんだ。こうして、エレンや...みんなにも会えた。守りたい大切な人もいる」
「そう...だったんですね。やっぱり...ナマエさんは優しいんですね」
俺がそう言うとナマエさんは目を丸くした。
「優しくなんてないよ!
みんなよく、わたしは優しいから戦いが好きじゃないように見えるって言うけど全然そんなことない。
必要となれば...もし、わたしの大切な人を傷付けるなら...人だって殺してしまうと思う。
だからもし今エレンが裏切ろうとして変な動きを取れば、簡単にエレンの骨の1本や2本は折れるよ」
「.....えっ」
「あ、いやっ、それは冗談だけどね!?冗談っていうか...エレンはそういうことしないってわかってるから!」
どうやら冗談でも無いらしい。ナマエさんが先程からやたらと口にする大切な人、とはリヴァイ兵長のことだろうか。
「その...大切な人ってリヴァイ兵長のことですか?」
「.....うん。でも、わたしにとっての大切な人はエレンも大切だし、この班のみんなも大切。一緒に時間を過ごしてくれたみんな、わたしにとっては守りたい大切な人。
.....だけど、やっぱり1番リヴァイを傷付けられるのはイヤ。そんな簡単に傷つけられるような弱いリヴァイじゃないけどね!」
人類最強?なんだもんね!とナマエさんは笑顔で言った。ナマエさんもその名を背負っていることには背負っているのだが。
「ナマエさんはリヴァイ兵長のことが本当に好きなんですね」
「うん!大好きだよ!ハンジも、エルヴィンも...もちろんエレンだって好きだよ!
でも、リヴァイがいなかったら今のわたしはいないから、わたしにとってリヴァイは特別!」
ここに来てから1番の笑顔でナマエさんはそう言った。そして数分後が経った。
「.....ナマエさん...!寝るなら部屋に戻った方が...!」
「うぅん.....もどる.....」
そう言いながらもウトウトと今にも目を閉じそうに目を擦るナマエさん。その姿はどう見ても.....子供だ。
次第にコクリと頭が揺れ出し、いよいよやばいと感じる。もしここで寝られると俺が兵長に殺されかねない。だが、安易にここから出るのもまた前のようなことが起きかねない。
「ナマエさん.......っ!」
俺が情けない声を出した瞬間、ノックもなしに扉が開かれる。そして遠慮もなしに部屋へと入ってきたリヴァイ兵長。そして兵長はナマエさんの前に立つ。
「ナマエ」
そう呼びナマエさんは薄らと目を開く。
「..リヴァイ.....?」
「いつまでここにいるつもりだ。エレンに迷惑をかけるんじゃねぇ」
「い、いえ...俺はそんな...」
兵長にそう言われてナマエさんは眠たそうに目を擦りながら俺の方を見て、エレン...ごめんね...、と言った。
そして兵長は屈んでナマエさんに近付く。そしてゆっくりと意識のはっきりしていないナマエさんを抱き上げた。
「ナマエが邪魔した。お前もさっさと寝ろ」
「あ.....はい.....」
パタンと静かに閉じられた扉の音のあと、部屋に1人残された俺は何を見せられたんだ、という気持ちでしばらくそのままベッドに座っていた。