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「な...!?
な.....何で今ごろ...!」
「落ち着け」
「リヴァイ兵長、こ...これは...!」
「みんな、ちょっと落ち着いて」
その声に振り返るとリヴァイ兵長とナマエさんが、俺に対し敵意を剥き出しで刃を構える先輩方の前に立っていた。
「エレン...!どういうことだ!?」
「は...!?はい!?」
「なぜ今許可もなくやった!?答えろ!!」
「エルド、待て」
「答えろよエレン!!どういうつもりだ!!」
「いいや...そりゃあ後だ。
俺達に.....いや、人類に敵意が無いことを証明してくれ」
「え...!?」
「証明してくれ、早く!お前には...その責任がある!」
「ねぇ、オルオもグンタも落ち着いて!」
ナマエさんが珍しく声を張るがその言葉は届かない。
「その腕をピクリとでも動かしてみろ!その瞬間てめぇの首が飛ぶ!!
できるぜ!俺は!本当に!!試してみるか!?」
「オルオ!落ち着けと言っている!」
「兵長!ナマエさん!エレンから離れて下さい!近すぎます!」
「違う」
「いいや、離れるべきはお前らの方だ。下がれ」
「なぜです!?」
「俺とナマエの勘だ」
兵長とナマエさんの言葉も虚しく次々と言葉が流れ弾のように飛んでくる。
「だから.......
ちょっと!!黙ってて下さいよ!!!」
その直後、ハンジさんがやって来て巨人化した腕の部分を触ったり繋ぎ目を見たいと言い出す。
...そうだ!さっさとこの手を抜いちまえば...!こんなもん!
ぐっと力任せに腕を引っ張る。そんな時でもオルオさんは妙なことをするな、と言った。
「ふん!!」
抜けた反動で俺は後ろに思い切り転がる。その横に兵長がやって来た。
「兵長.....」
「.....気分はどうだ?」
「……あまり...良くありません」
****
その後、わたしとエレンとリヴァイは地下へと移動した。わたしは、階段に座るエレンのの隣に腰を下ろし、リヴァイは壁に凭れて立っている。
そしてエレンがゆっくりと口を開いた。
「俺が...ここにいることで生かしてもらってることはわかってるつもりです。
俺自身が人類の天敵たりえる存在であることも...。
ただ...実際に敵意を向けられるまで...気付きませんでした。あそこまで自分は信用されてなかったとは...」
「当然だ...。俺はそういう奴らだから選んだ」
リヴァイは"生きて帰って初めて1人前"とされる調査兵団の中で、地獄のような中で、彼らは何度も生き延びて成果を残した、それは生き方を学んだからだ、と言った。
そう。壁の外はいつだってわからない状況だらけなのだ。そんな中で務めるべきなのは迅速な行動と、最悪を想定した非情な決断。
「かと言って血も涙も失ったわけじゃない。お前に刃を向けることに何も感じないってわけにはいかんだろう。
こいつを見てればわかるようにな」
「わっ」
そう言ってリヴァイはわたしの頭に手を置いた。
「だがな.....後悔はない」
その時、ハンジが呼んでいると声がかかる。
戻るとそこにはハンジと、みんなの姿があった。ハンジは上への説明に手間取ったと言う。
そしてハンジが取り出したのはティースプーン。これをエレンが出した巨人の右手がつまんでいたらしい。
そのティースプーンは巨人の手が掴んでいたはずなのに、なにも変形がない。
エレンが言うには、巨人化したのはティースプーンを拾おうとした後だと言った。
つまり、なにか明確な目的があれば巨人化する、というものなのだろう。
「私が甘かったよ.....。人に戻る方法も考え直したい。
でも次の壁外調査までは陣形の全体訓練で時間が無いし.....」
「作戦が破綻しかねないような無茶はしないってことか?」
「うん.....今回の所は」
「つまり...お前が意図的に許可を破ったわけではないんだな」
グンタがエレンに向けてそう口を開いた。
「...はい.....」
エレンがそう答えた後、何やらみんなで目配せをして頷きあう。そして手を口元に持っていき、エレンがしたようにみんな一斉に手のひらを噛んだ。
ハンジは驚いていたけれど、なんとなくこうなることは予想できていたわたしたちは何も言わず、みんなを見守る。
「ちょっと...何やってんですか!?」
「いってぇ...」
「これはキツイな...。エレン...お前よくこんなの噛み切れるな」
「俺達が判断を間違えた.....そのささやかな代償だ。だから何だって話だがな...」
「お前を抑えるのが俺達の仕事だ。それ自体は間違ってねぇんだからな!調子乗んなよ、ガキ!」
「ごめんねエレン。.....私達ってビクビクしてて間抜けで失望したでしょ...?
でも...それでも...1人の力じゃ大したことはできない。
だから私達は組織で活動する。私達はあなたを頼るし、私達を頼って欲しい。
私達を、信じて」