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そして次の日、わたしたちは1つの部屋に集められた。
「お前を半殺しに留める方法を思いついた」
そう言ってリヴァイはチョークを手に取り黒板に図を描き出す。
「巨人化したお前を止めるには殺すしかないと言ったが、このやり方なら重症で済む。
とはいえ、個々の技量頼みだがな。
要は.....うなじの肉ごとお前を切り取ってしまえばいい。その際、手足の先っちょを切り取ってしまうが...。
どうせまたトカゲみてぇに生えてくるんだろ?気持ち悪い」
「ま...待って下さい。どうやったら生えてくるかとかわからないんです」
そのエレンの言葉にドク、と心臓がはねる。もし再生できなかったらエレンは死んでしまう。気がつけばわたしは口を開いていた。
「何もわからないエレンに、そんなことやったら死んじゃうかもしれないよ!?
エレンだって人間だもん、痛いよ...!リヴァイ、他に方法はないの?!」
わたしはその直後、しまった、と思った。私情で発言してしまったから。リヴァイはわたしを見る。
「.....ナマエ。それはお前の私情だ。何か起きてからでは遅いことをお前もよく知ってるだろうが」
「.....ごめんなさい。今のは...わたしがよくない...私情で発言した...」
そしてリヴァイはエレンに向き直る。そうだ。何が起きてからじゃ遅い。たとえそれがエレンだとしても、わたしたちは然るべき時にはエレンを切らなければいけない。
「エレン、"何の犠牲も冒さず何の犠牲も払いたくありません"と?」
「い.....いえ」
「なら腹を括れ。お前に殺される危険があるのは俺達も同じだから安心しろ」
「はい.....わかりました」
****
そしてわたしたちは移動して涸れ井戸に来た。そしてその中にはエレンがいる。
準備ができたら信煙弾で合図をして、エレンが巨人化する。もしそこで自我のない状態になっても、ここなら拘束できるだろう、とのハンジの提案だった。
井戸から少し離れたあと、ハンジが信煙弾で合図をする。けれど、エレンが巨人化することはない。
「.....?合図が伝わらなかったのかな?」
「.....いいや、そんな確実性の高い代物でもねぇだろ」
リヴァイの言葉にわたしたちはエレンのいる井戸へと戻る。
「おいエレン、一旦中止だ」
わたしは馬から降りて井戸へと近づく。
「エレンー!何かあった?」
そう言って井戸を覗き込むと、そこには手を噛みすぎて口元にまで血のついたエレンがいた。
「あの.....巨人になれません」
****
実験を中止し、エレンの傷の手当てをしたあと、みんなで休憩となった。その場は少し張り詰めていて居心地はあまりよくない。
「自分で噛んだ手も傷が塞がったりしてないのか?」
「はい...」
リヴァイの聞いた通り、エレンの手に包帯を巻いている時、前に歯が再生していたようには傷が塞がっていくということはなかった。いたって普通の傷となっていたのだ。
「.....お前が巨人になれないとなると、ウォール・マリアを塞ぐっていう大義もクソもなくなる。
命令だ、何とかしろ」
「はい.....」
リヴァイはそれだけ言ってその場を離れてしまったのでわたしもついて行く。
「リヴァイ、あんな言い方はないよ...」
「.......」
リヴァイは紅茶を飲みながら目をそらす。言い返せなくなるとリヴァイはよくこうやって目をそらすのだ。
「...でもなんで、エレンは巨人化できないんだろうね。さっきリヴァイが言ってたみたいに、100%できるものではないっていうのはわかったけど...。
あんなに血だらけになるくらいやったのに巨人になれないのは...」
「...さぁな。巨人に関しては俺達もわからねぇことばかりだってことだろ...」
「この実験でなにかわかればよかったんだけど...」
そう言った時だった。爆発音と爆風が辺りを襲う。
リヴァイはとっさにわたしを抱きかかえ、その爆風から守ってくれた。
「な、何が.....。みんなは...?!」
驚いて振り返るとそこには腕だけが巨人の体と繋がったエレンがいた。