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審議所は静まり返り、人々は恐怖の声を漏らす。そして憲兵団師団長は、銃を構えるように兵士に言う。
.....やっちまった。まずい.....。
そう思った刹那だった。
耳の鼓膜が破れたのではないかと思うほどの衝撃音と、首が軋んだ音。
.....?
何か飛んだ.....。あれ...は.....?俺の歯.....?
何が起きたのか考える間もなく、腹部、顔面、へ次々と蹴りが飛んでくる。その行為を行っているのはリヴァイ兵長だと痛みでチカチカとする視界の中、辛うじて確認できた。
そしてリヴァイ兵長は俺の頭を踏みつけ、口を開く。
「これは持論だが。
躾に1番効くのは痛みだと思う。
今お前に1番必要なのは、言葉による教育ではなく、教訓だ。
しゃがんでるから丁度蹴りやすいしな」
その直後再び俺への蹴りは再開される。
意識が朦朧とし、上手く呼吸ができない。しかしその中で確かにあるのは敵意のような何か。
「.....待てリヴァイ」
「何だ.....」
「.....危険だ。
恨みを買って、こいつが巨人化したらどうする」
「え?」
突然審議所に響いた鈴の音のような少女の声に驚き、人々は一斉にそちらへ目を向ける。
そこには目を丸くしたナマエさんの姿があった。
「恨みって.....。
だってみなさんは...これからエレンを解剖するんですよね?
なのになんで.....そんなに怯えてるんですか?」
至極疑問だ、というふうにナマエさんは目を丸くし首を傾げながらそう言った。あまりに純粋なその発言に、憲兵団も口を開けたまま何も返さない。
「はっ.....ナマエの言う通りだな。
こいつは巨人化した時、力尽きるまでに20体の巨人を殺したらしい。敵だとすれば知恵がある分厄介かもしれん。
だとしても俺の敵じゃないが.....。
お前らはどうする?
こいつをいじめた奴らも考えた方がいい。本当にこいつを殺せるのかをな」
ザワつく場の中、エルヴィン団長がある提案を口にする。
「エレンが我々の管理下に置かれた暁には、その対策としてリヴァイ兵士長に行動を共にしてもらいます。
彼ほど腕が立つ者なら、いざという時にも対応できます」
「ほう.....。
できるのか、リヴァイ?」
「殺すことに関して言えば間違いなく。
問題はむしろその中間が無いことにある.....」
審議は終わりの方向へ向かう中、憲兵団が内地の問題を提示した。その問題にエルヴィン団長は、俺が人類にとって有意義であることを次回の壁外調査で証明する、と言った。
「ほう.....壁外へ行くのか.....。
決まりだな。
エレン・イェーガーは調査兵団に託す。しかし...次の成果次第では再びここに戻ることになる」
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「いてて!!」
「ご、ごめんね!もうちょっとだから.....」
審議はエルヴィンが提案したように、エレンが正式に調査兵団に迎え入れられることになった。
それはよかったけれど、リヴァイの蹴りでエレンは血だらけだし傷だらけだ。ガーゼで消毒をしているから、結構痛むと思う。
申し訳ない、という気持ちで傷口に消毒液をつける。
わたしがエレンの手当を傍らでしている中、エルヴィンがすまなかった、と言った。
「しかし君の偽りのない本心を総統や有力者に伝えることが出来た」
「はい.....」
「効果的なタイミングで用意したカードを切れたのも、その痛みの甲斐あってのものだ。
君に敬意を.....。
エレン、これからもよろしくな」
エルヴィンはエレンに手を差し伸べる。
そしてその手をエレンは握り返した。
「よろしくお願いします」
するとエレンの左側にリヴァイがドサリと座った。その行動にエレンはビクリと体を揺らす。
「なぁエレン」
「は.....はい!」
「俺を憎んでいるか?」
「い...いえ。必要な演出として理解しています...」
「ならよかった」
その発言にわたしは少しムッとする。
「でもやりすぎ!
エレン、こんなに傷だらけだし.....歯も折れちゃったんだよ!!」
「.......解剖されるよりはマシだと思うが」
エレンを挟んでそう言うと、その言葉の後リヴァイはフイ、と目をそらす。
「あ、あの、ナマエさん.....。リヴァイ兵長の言う通りですし、俺は大丈夫ですから.....」
エレンはそう言うけれど全然よくない。本当に、審議所でエレンが気絶しちゃうかと思った。
「まぁまぁ、ナマエちゃん落ち着いて。
リヴァイも反省してると思うしさ」
ハンジのその発言にジトリとリヴァイを見る。
「.......リヴァイ、反省してる?」
「.......あぁ」
ちょっと腑に落ちないがその言葉に一応納得する。そしてハンジはエレンの折れてしまった歯を見てから、口の中見せてみてよ、と言った。
そしてエレンの口を見て、ハンジは、え?と声を出す。
「歯が生えてる」