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トロスト区内に閉じ込められた巨人の掃討には丸一日を費やし、その間壁上固定砲は絶えず火を吹き続けたという。壁に群がった巨人の殆どが榴弾によって死滅し僅かに残った巨人も主に調査兵団によって掃討された。

その時、巨人2体の生け捕りに成功したらしい。

「君が昏睡状態だった3日間に起きたことはこのくらいか...。

エレン、何か質問はあるか?」

俺の目の前には、調査兵団実行部隊のトップ、エルヴィン団長...とリヴァイ兵長、そしてナマエさんもいた。

「あ...あの...ここはどこですか?」

手を動かそうとした時、ジャラ、という音で自分の腕が鎖によって拘束されていることに気が付く。

「見ての通りだが地下牢とだけ言っておこう。
今君の身柄は憲兵団が受け持っている。先程ようやく我々に接触の許可が下りた」

「これからどうなるんですか!?

あと.....俺と一緒にいた訓練兵は!?」

ミカサとアルミンの姿が頭を過ぎる。自分がこの状況だと、あの2人も何をされているかわからない。

「話を聞いているよ。あの2人以外にも君の過去を知る者すべてにね。

もちろん、ナマエからも話を聞いた」

エルヴィン団長はちらりとナマエさんへ目を移す。ナマエさんはここに来てから1度も口を開くことはなく、ただ黙っていた。その表情はいつものナマエさんではなく、まるで影を落としているようだった。

ナマエさんが調査兵団のジャケットを身にまとっていることに気が付く。自由の翼を背負う彼女を見たのは特別指導員として挨拶した時以来だ。それ以来、訓練兵団のジャケットを着ていたの。そうだ。ナマエさんも調査兵団なんだ、と再認識する。

「これから我々がすることは、あまり今までと変わらないな」

スっとエルヴィン団長は見覚えのある鍵を取り出す。

「あ...。その鍵は.....」

「ああ...君の持ち物だ。後で返すよ。

君の生家、シガンシナ区にあるイェーガー医師の家の地下室。そこに巨人の謎がある。

そうだね?」

「はい...おそらく.....。
父がそう言ってました」

「お前は記憶喪失で親父は行方知れずか...。随分都合のいい話だな.....」

ここへ来てから何も言っていなかったリヴァイ兵長がそう言った。

「リヴァイ、彼が嘘をつく理由は無いとの結論に至ったはずだ。

まだまだわからないことだらけだが...今すべきことは君の意志を聞くことだと思う」

「...!俺の意志ですか...?」

エルヴィン団長は俺の生家を調べるためにはウォール・マリアの奪還が必要となり、破壊された扉を塞ぐためには巨人の力が必要となる。運命を左右するのは巨人だ、と言った。

「君の意志が"鍵"だ。
この絶望から人類を救い出す"鍵"なんだ」

「お...俺が.....」

ぐらりと頭が揺れる感覚がした。その時、フラッシュバックのように今まで巨人によって命を落としてきた人々の姿が浮かぶ。

「おい...さっさと答えろグズ野郎。お前がしたいことは何だ?」

「.......調査兵団に入って.....とにかく巨人をぶっ殺したいです」

「ほぅ...悪くない...。

エルヴィン、コイツの世話は俺が責任を持つ。上にはそう言っておけ...。

俺はコイツを信用したわけじゃない。コイツが裏切ったり暴れたりすればすぐに俺が殺す」

リヴァイ兵長は俺に近づきながらそう言う。殺す、その言葉に思わず息を呑んだ。

「上も文句は言えんハズだ...。
俺以外に適役がいないからな...。認めてやるよ、お前の調査兵団の入団を...」

****

エレンが憲兵団に拘束され、ようやく彼に会うことができた。エレンは3日間も昏睡状態だったから、何があったのかしらない。巨人によって多くの兵士の命が絶たれたこと。.....大切な仲間を失ったこと。

だから、いつもの調子でエレンと向き合うことができなかった。エルヴィンから3日間の話を聞いた時エレンはとても狼狽えていた。それも無理はないと思う。

リヴァイにどうしたいのか聞かれた時、エレンの瞳には燃え上がるような、そんななにかがあった。リヴァイもそんなエレンに気が付いたのか彼を調査兵団に迎え入れると言った。

「もう少しの間だけここで辛抱してくれ。
我々がなんとか話をつけてみる」

エレンをまだここから出してあげることができない。その状況が、酷くわたしにはつらく感じた。

「エレン.....」

「ナマエさん.....?」

鉄格子に近付き、エレンに声をかけると驚いたように彼は顔を上げた。

「ごめんね」

今は、これしか言うことができない。どうにかしてでも憲兵へなんてエレンを引き渡すことはしない。

「おいナマエ。もう行くぞ」

「.....うん」

リヴァイの声に答え、エレンから離れる。先を行くエルヴィンとリヴァイの元へ合流し、リヴァイの横を歩く。

わたしには何も出来ない、自分の無力さに気持ちが沈みつい俯きながら歩いていると、頭に重みを感じた。驚いて顔を上げるとリヴァイがわたしの頭に手を置いていた。

リヴァイはそれだけすると、何も言わないでまたわたしの前を歩き出す。たったそれだけのことだけれど、わたしが顔を上げられるのには十分で。

後悔はしない。わたしたちはただ前を見て進むだけなんだ。


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