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「やろう」
「で、でも無茶かもしれない...!」
「ううん、今はそれに賭けるしかないよ!わたしたち3人であの奇行種に群がる巨人を倒して補給所まで誘導すればいいんだよね?」
「そう、です.....」
「とりあえずやるしかねぇだろ!」
そしてわたしたちは一斉に奇行種に群がる巨人たちを排除していく。奇行種の近くを動いてもソレはわたしたちに興味を示さない。
一体、どういうことなんだろう。故意に、巨人だけを倒す巨人...。しかも、倒す時の動きはまるで.....。
「.....エレン?」
「...ナマエさん?今.....」
怪訝な顔をするミカサに声をかけられ、ハッとする。まさか。どうしてわたしは巨人のことをエレン、だなんて思ったんだろう。人間が巨人になんてなれるわけがないのに。
「ご、ごめん!そんなわけないよね.....」
「よし、一通り巨人は倒したぞ!本部に突っ込みましょう!!」
「うん!」
勢いをつけ、窓ガラスを破り本部へと突っ込んだ。
「っっ!」
ガスは残り少し、ギリギリで間に合った。顔を上げるとそこには焦ったような顔をしたジャンがいた。
「ミカサ...!?ナマエさんまで...!」
「やったぞアルミン!!お前の作戦成功だ!
皆!!あの巨人は巨人を殺しまくる奇行種だ!!
しかも俺達には興味がねぇんだってよ!!」
そしてコニーはここまで来た経緯とアルミンの作戦を伝える。その話を聞かされるみんなの表情は驚きの色を隠せない、そんな表情で。
「巨人に助けてもらうだと...?そんな夢みてぇな話が.....」
「夢じゃない...!!」
ミカサの発言にわたしは頷き、続ける。
「夢でもなんでも、あの奇行種に暴れてもらうことが...わたしたちが生き残るための最善策、だよ...!」
****
アルミンの作戦はこうだ。
補給所を占拠している8体の巨人が"通常種"ならば、リフトを使って人間を投下すればそこに集まってくる。
その時、リフトにいる人間が8体の巨人の顔に向けて同時に発砲し視覚を奪う。そして...天井に隠れていたわたしを含む8人が一気に巨人に切りかかる、というものだ。
その作戦を聞いたみんなは、やるしかない、と口々に言い、覚悟を決めたようだった。
アルミンは自分の作戦が最善策なんだろうか、と言っていたが現状を打破するためにはこれで行くしかない。
「大丈夫...!全力を尽くすだけだよ。
アルミンは、自分が思っているよりすごいことに気付いた方がいいよ」
「え.....?ど、どういうことです、ナマエさん...」
その時、リフトの準備が整ったと声がかかった。
わたしはアルミンに笑いかけ、また後でね、と声をかける。
「けどよ...立体機動装置も無しで巨人を仕留めきれるか?」
ライナーがそう言うのも無理はないと思う。自由に動くための立体機動装置がない状態で、狙いが外れてしまえば、この作戦は失敗してしまう。
「でも...たぶん大丈夫。
3〜4m級は狙いやすい、はず!何かあったらわたしが援護するから!」
笑顔でライナーにそう言うと、結婚しよ、と聞こえた気がした。.....結婚?
そしてわたしたちが天井に隠れ、準備が整いリフトが降ろされていく。大丈夫、巨人の数は増えてない。
巨人がギリギリまで引き寄せられたタイミングを狙い、一気にみんなが巨人目掛けて発砲した。
その瞬間、わたしたちは一斉に巨人に向けて刃を振り下ろす。
「倒した...ッ!」
思い切りうなじを切り、巨人が倒れたことを確認する。みんなへと目を向けた時、コニーとサシャが巨人を倒しきれなかったことに気がつく。
「コニー!サシャ!」
怯えて動けなくなった2人の元へ急いで向かう。
「よけてッ!!」
ザシュ、と巨人を倒すことが出来たが、サシャの方向へと倒れていく巨人。急いで声をかけて、どうにかサシャは避けきれたのでほっとする。
「ナマエさぁぁあああん!!助かりました!!!」
「サシャ、大丈夫!?」
「大丈夫ですぅうう!!」
「よかった!ほら、立って!」
コニーの方を確認するとミカサが倒してくれたようだった。
アルミンの作戦は無事成功して、巨人を全部仕留めることができた。そして補給作業へと急いで移り、みんなの足りなくなったガスや刃を補給する。
一通り完了し、次にここから一斉に脱出する。みんな次々とここから出ていき、わたしは1番最後に全員が出たことを確認したら脱出する、と伝えた。
そして人数が残りわずかになった時、ミカサがこの建物の屋根へと移動した。アルミンがミカサの名を呼ぶ。
どうしたのか、とわたしたちはミカサの元へ向かう。
「あの巨人.....」
ミカサが指をさした方へ目をやると、あの奇行種が巨人に食べられていた。
「共食い.....?」
共食いなんて今まで見たことがなかった。巨人は人間を捕食するもの。それ以外には目もくれない、と教えられてきたのだから。
体が再生できていない。どうして...。
そう思っていると、突然ライナーが奇行種を助ける、と言い出した。ジャンは正気か!?と彼に言ったが、アニが味方になる可能性があるとしたら、と言う。
「味方.....だと...!?本気で言ってるのか!?」
すると、もう1匹巨人が現れ、奇行種の元へと向かって行く。このままでは、本当に奇行種が食べられてしまう。
その時、奇行種が耳を塞ぎたくなるほどの大きな声を出す。驚きと恐怖で見てることしかできないわたしたちの傍で奇行種はやってきた巨人たちを次々と倒していく。
...あっという間に奇行種は巨人を倒してしまった。わたしたちが呆然としていると、奇行種が突然膝をつき倒れ込む。
「さすがに.....力尽きたみてぇだな」
「もういいだろ...?ずらかるぞ!
あんな化け物が味方なわけねぇ。巨人は巨人なんだ」
ジャンがそう言うもわたしたちの耳には届かない。手に汗が滲み、心臓がうるさいほどに動く。
.....巨人から、人が。
ううん、.....エレンが出てきたのだから。
ミカサがエレンの元へ駆け寄り抱きしめ、大声で泣き出す。
奇行種の動きを見た時、なぜだかエレンだと思った。けれど、人間が巨人になるなんてありえない、そう思っていたのに。それなのに、たった今、エレンが巨人から...出てきた。
「.....どういう、こと...」