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5年前、超大型巨人出現によってウォール・マリアが突破されたと、かつてリヴァイから聞かされた。5年前はちょうどまだわたしは地下にいたからその惨劇を目の当たりにしていない。
けれど、今まで見てきた巨人とは桁違いの大きさに息を飲んだ。すると視界の端でエレンが超大型巨人に向かっていっているのが映った。
「エレン...!」
大声で名前を呼んだけれどその声はエレンに届かなかったようで、直後うなじを狙ったエレンは熱風に飛ばされてしまった。
しかしどうにかアンカーを壁に刺して無事だったのでほっとする。
そして急いでエレンたちの元へ向かった。
「エレン!大丈夫だった!?
超大型巨人は...」
「...ナマエさん...!は、はい!
超大型巨人は...5年前と同じように消えたんです...」
消えた。そんなことがあるのだろうか。突然現れて突然消える。今までそんな巨人、見たことがない。いや、今までが通用しないのがこの世界だ。
「何をしているんだ訓練兵!
超大型巨人出現時の作戦は既に開始している!
ただちにお前らの持ち場につけ!
そして"ヤツ"と接触した者がいれば本部に報告しろ!
ナマエ副兵士長も持ち場についてください!」
「「ハッ!
先遣班の健闘を祈ります!」」
「わかりました!」
カンカンカン、と街中に警鐘が響き渡る。そして、混乱した人々と誘導する声。たくさんの音が入り交じり、余計に混乱を生んでいる。
今、最悪なことに調査兵団は壁外調査のため出払ってしまっている。ここにいる調査兵団の兵士はわたしだけだ。住民の安全を確保するために、わたしは後衛部に配属されるだろう。
「ナマエ副兵士長は、駐屯兵団の精鋭部隊と共に後衛部をよろしくお願い致します!!」
「了解しました」
この状況に多くの訓練兵も混乱し、恐怖を感じているだろう。残された調査兵団のわたしがどれだけ動けるかにかかっているかもしれない。
そう考えていると、エレンとミカサが何やら言い合っているようだった。
...きっとミカサは後衛部に配属された。けれどエレンと離れたくないから...。
その直後、エレンの頭突きがミカサを襲った。この状況ではそれくらいしなければ、冷静になれないかもしれないからエレンの判断は正しいかもしれない。
「...ミカサ」
「ナマエさん.....」
エレンとミカサの元に歩み寄り声をかける。ミカサの顔は不安の色を残していて、いつもの凛としたミカサではなかった。
「今は、冷静になってこの状況と向き合おう?」
「...すみません、私が冷静じゃありませんでした。
エレン......頼みがある。...1つだけ.....どうか、死なないで」
それだけを言うとミカサはこちらに向き直り、行きましょう、と言った。その表情はいつものミカサで、けれどどこかにまだ不安の色を残したような、そんな顔をしていた。
「急ごう!」
「...はい」
****
「わたしは住民から離れたところで巨人を倒しているから、ミカサは避難状況を確認してきて!」
「...わかりました」
なるべく住民に巨人を近づける前に倒してしまいたい。
屋根の上から周りの状況を確認する。
前衛部が倒しそびれた巨人が真っ先に住民へと向かってくるのが見えた。少なくない巨人の数に、巨人が多数侵入してきたのか、それとも前衛部がもしかしたら壊滅状態になっているのか、状況は読めないけれど、今は巨人を倒すことが優先だ。
「...っ!!」
巨人のうなじを一気に削ぎ落とす。大丈夫だ、この数ならわたしだけでも倒せる。そして次々に巨人を倒していた時、近くにいたことに気付けなかったのか、1匹の巨人が真っ先に住民に向かっているのが見えた。周りにいる兵士に目もくれず走るその様子はおそらく奇行種のそれで。
「...っまずい!」
急いで移動するも、間に合わない、そう思った時ミカサが一気にその巨人を仕留めた。
その光景に安堵し、住民に目を向けると様子がおかしい。避難が明らかに遅いのだ。
「...避難が遅れてる.....」
その原因は明白で、避難に使うはずの入口が荷台によって塞がれていた。商人だ。商人が原因で、住民の避難が遅れてる。
住民の避難よりも自身の利益しか見えない人間に静かな怒りが込み上げ、一歩足を踏み出した時、ミカサがわたしを静止した。
「ナマエさんは、巨人を倒してください。
...私が行きます」
「.....ごめん、冷静になれって言ったわたしが冷静じゃなかった。ありがとう、ミカサ」
怒りに身を任せるところだった。急いで再びわたしは巨人の方へ向かった。