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訓練兵団における訓練は、一応調査兵団兵士であるわたしからしても過酷だ、と思う訓練がたくさんあった。命綱を教官が故意に切って状況を見る訓練なんて、見てるこちらからしても本当に怖くて見られるものじゃなかった。
雪山訓練では過酷なコンディションと山による低濃度の酸素で多くの兵士が離脱する。こういう訓練は、わたしも一応指導員という立場であるために一切の手助けを許してもらえない。
訓練兵のみんなも命懸けでこの訓練に挑んでいる。その思いを無駄にしてはいけないのだ。
けれどやはり体力には差があって瀕死状態になってしまう兵士も少なくはない。その場合に置き去りにするのか、手を差し伸べ目的地の山小屋まで連れていくかの判断もその兵士たちに委ねられる。
それは過酷で残酷だけれど、巨人を前にして戦い、適切な判断をするためには必要なことなのだろうと思う。
「アルミン...!頑張って...!」
「っ...ナマエさん.....」
アルミンは体力がほかの兵士より圧倒的にない。このまま遅れをとっていてはほかの兵士とはぐれてしまう。さすがにそんな状況になってはいけないので、手助けを許してはいけないと言われたけれど一緒に行動するくらいは許されるだろう。
「ナマエさん、手助けをしてはいけないのでは...」
「これは手助けじゃないよ。わたしがちょっとペース落として歩きたいだけ!
大丈夫!頑張って山小屋目指そう!」
「...っはい...!」
遅れをとっている兵士にはなるべく話しかけ、意識をはっきりさせるよう促す。これが手助けと言われてしまったら、もう今後わたしを訓練に参加させないでくださいと言ってしまおう。
みんなで雪山を越えることを目指す。
そんな厳しい訓練もどうにか少ない離脱者で済んだ。
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今日はいよいよ1番得点へと繋がる実践訓練の日。立体機動装置を使い、かつてわたしがお手本の際に使用した巨人を模した板のうなじを狙う。要は殺傷能力を測る試験だ。
これで高い得点を獲得すれば10番以内も夢ではないので、この試験を重要視している兵士は多い。
わたしは教官ではないので兵士たちを評価する権利があるわけではないけれど、それでも今まで頑張ってきたみんなの動きをしっかりと確認したいので教官と同じように立体機動装置で木の枝に移動しそこから観察する。
思っていたとおり、アニやミカサ、ベルトルトはうなじをしっかり抉って立体機動での動きも問題がなかった。
コニーやサシャも連帯性には欠けるかもしれないけれど、それでも申し分ないほどに動けている。
ジャンは本当に立体機動の動きが上手いと思う。それはきっと立体機動装置の仕組みをきちんと理解しているからだ。
エレンはその努力があるからこその結果、と言えるほど頑張っていたし今回の動きも十分問題はなかった。
「みんな、おつかれー!上から見ていたよ!」
「あっ、ナマエさんじゃないですか!
何か差し入れとかは.....」
「あるわけねぇだろ、芋女」
「い、芋女とは何ですか!忘れたと思っていたのに!」
みんな試験が終わってもいつも通りで安心する。
「元気そうでよかった!
上から見ていたけれど、みんなすごく良く動けていてびっくりしちゃった!」
「ありがとうございます、ナマエさん。
でも、俺ちょっと気になったんだが...マルコ、お前は1番に目標を見つけても他に譲っているように見えた。
憲兵団になりたいんだろ?得点が欲しくないのか?」
それは上から見ていたわたしも気になっていたことだった。マルコにはマルコなりの考えがあると思っていたのであえて聞くことはしなかったけれど。
「技術を高め合うために競争は必要だと思うけど、どうしても...実戦のことを考えてしまうんだ。
1番遅い僕が注意を引いて他の皆に巨人の後ろを取らせるべきだとか、今回の殺傷能力を見る試験じゃ意味ないのに...」
そこまで考えていたことにわたしは目を丸くした。みんながより多くの得点を稼ごうとする中、その判断をすることは、とても勇気がいること、だと思う。
「なるほどな...つまりお前は根っからの指揮役なんだよ」
適役だと思うぞ、とエレンは付け加えた。そしてお前の指揮する班に入りたい、と言いサシャも私も、と言う。
この後、トロスト区で襲撃想定訓練が行われる。そこでは班に分けられて行動するのだけれど、その班の指揮役はマルコが適役だとみんなは言った。
「間違っても死に急ぎ野郎の班には入れられたくないな。10秒も生きていられる気がしねぇ...」
「ちょっと待て...それは誰のことを言ってんだ?」
「また始まっちゃいましたよ、ジャンの遠回しな愛情表現が...。
あ、でも私兵士になったらナマエさんの班に入りたいです!」
「わたし班持ってないよ」
「ナマエさんの班とか、小さくて指揮役が見えなくなるんじゃねえか」
「.....ジャン?」
「ほら、また!ジャンは愛情表現下手くそですねえ!素直になればいいじゃないですか!」
「うるせぇな、芋女!」
「またっ、また、芋女!!いい加減忘れてください!」
「なぁ、死に急ぎ野郎って誰のことだ?」
「「えっ」」
「ふふ、にぎやかだねぇ」