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適性訓練後、エレンはどうやらお友達に教えてもらっているらしい。
そんなやり取りが目に入ったので、わたしは彼らに近付いた。
「勉強熱心だね」
「ナマエ副兵士長っ!」
ざっ、と彼らはわたしに向かって敬礼をする。やっぱりこの行為がわたしに向けられるのがイマイチムズムズする。
「挨拶した時も言ったけど、そういうのはいいよ〜。
それよりも、エレン、で合ってるよね?
適性検査を見た時から気になってたんだけど、あのぶら下がり方...」
「あ、はい...。なんか、上手くできなくて...。
ミカサとアルミンからコツ、教えて貰ったんでこれからあげてもらおうと思ってて。
上げてくれアルミン!」
わたしが何かを言う前にエレンはそう言ってしまう。
「ちょ、ちょっと待って!」
その瞬間、エレンは地面へと真っ逆さまになった。
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「エレン」
「ナマエ副兵士長...?」
自分はなぜ姿勢制御訓練すら出来ないのか、同期の仲間たちに一通りコツを教えてもらったあと、ナマエ副兵士長が声をかけてきた。
「ふ、副兵士長とか、そんな呼び方じゃなくていいよ...!頭の怪我、大丈夫?」
「え...?じゃ、じゃあナマエさん...?
あぁ、怪我は...はい。
あの、どうしたんですか」
じっと俺の顔を見つめてからナマエさんは口を開く。
「エレン、今からちょっと時間いいかな」
そうして連れてこられたのは訓練装置の前。
ミカサとアルミンも引き連れて。
「誰でもいいからわたしの前に立ってて」
「ナマエ副兵士長は、立体機動装置も使えるんですよね...?これをやる必要はない気がしますが...」
アルミンがそう言うが、もっともだ。この訓練ができて立体機動装置が使えるのだからナマエさんはできて当たり前だ。
「アルミン...だよね?副兵士長じゃなくていいって、みんなにも伝えておいて。
そうだよ。わたしは立体機動装置も使えるしこの訓練もできる。
...でも、わたしの考えが正しければわたしもできない」
「ど、どういう意味ですかナマエさん!」
わけが分からず俺が声を荒らげるとナマエさんは、見ればわかるよ、と笑ってそう言いアルミンに上げるよう伝えた。
「.....い、いきます」
「うん」
ゆっくりとナマエさんの体が上がっていく。その瞬間、ナマエさんの体が勢いをつけて傾いた。
「.....わっ!
ミ、ミカサありがとう.....」
ナマエさんの体は地面と接触することなくミカサに支えられた。
「...なぜ。ナマエさんは、調査兵団兵士のはず。これが出来ない訳が無い」
ミカサの言葉にナマエさんは頷く。
「そう。
つまり、エレンの装置だけ壊れてる。
大丈夫!明日、エレンはいつも通りこの装置を使って。
エレンの汚名返上はわたしに任せて!」
おやすみ!そう言ってナマエさんは戻り、俺達もそれぞれ部屋に戻った。
「おい、お前!さっきまでどこ行ってたんだよ!?」
ジャンにそう声をかけられる。
「.....あぁ。ナマエさんに呼ばれて...ちょっとな」
「おい、エレン!お前、副兵士長にそんな呼び方したらダメだろ!」
コニーが噂を信じてか、そんなことを口にする。
「いや、ナマエさんが副兵士長って呼ぶなって皆にも伝えておけって言ってたんだよ。
噂は噂だったな。ナマエさんは全然優しいぞ」
そしてナマエさんの言葉を信じて明日を待った。
****
「エレン・イェーガー、覚悟はいいな?
立体機動装置を操ることは兵士の最低条件だ。できなければ開拓地に戻ってもらう...いいな?」
「はい!」
「すみません!キース教官、ちょっといいですか!」
心地の良い高い声がその場を揺らす。
「ナマエ副兵士長。なんだ」
その言葉で前に出てきたのはナマエさん。
「おそらく、エレンの姿勢制御装置は壊れています。確認をお願いしたいのですが」
その瞬間、皆が一様にザワつく。
「ほう.....」
キース教官は俺を一通り見たあと、ワグナー、と言った。
「イェーガーとベルトの装備を交換しろ」
ベルトを交換し、昨日のように上げてもらうとなんの問題も無く姿勢を保つことが出来た。
「.....ナマエ副兵士長の言う通り、貴様の使用していたベルトの金具が破損していた」
「...で、では...適正判断は...!」
「問題無い...修練に励め」