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「貴様は何者だ!?」
そんな怒号が先程からずっと飛び交っている。
「うわぁ...あんなの受けたの...?」
「あぁ...そうですね。通過儀礼ですよ」
「あ、あれは怖い.....」
「な、何言ってるんですかナマエさん.....。
私からすればリヴァイ兵士長の元で訓練する方がよっぽど怖いと思いますが.....」
「えぇっ?そんなことないよ!リヴァイ優しいよ!?」
「.....そ、そうですか...」
あの怒号には過去の自分を否定し真っさらな状態から兵士として育てるための必要性があるらしい。でもやっぱりあれは怖いから、わたしは訓練兵にならなくてよかった...かもしれない。
「うわっ!い、痛そう...」
少し離れたところで見ていたけれど、頭突きされている人がいたり、敬礼が逆だったのか頭を持ち上げられてる人もいた。
そんな中、1人変わった行動をとっている子が目につく。
.....いも?
芋を食べているのだ。なんで、しかもどこから...。
その子は物凄く教官に怒られていた。
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「なぁ聞いたか?」
芋女が走らせてるのを眺めながら確かコニー、というやつが声を上げた。
「あぁ?なんだよ」
「.....副兵士長が訓練指導に来るらしい」
「副兵士長って、ナマエ副兵士長か?」
ナマエ副兵士長と言えば、俺たち訓練兵や市民の間でも有名人だ。女で、しかも俺達とそう変わらない年齢なのにリヴァイ兵士長と同じ一個旅団並みの力を持つ調査兵団の実力者。彼女に憧れて調査兵団に入団する女性も少なくないと聞いた。
「.....そうだ。
でも、ナマエ副兵士長って鬼のように怖い人だって聞いたことないか?
リヴァイ兵士長とは犬猿の仲で出会ったら巨人討伐どころではなくなる...とか。」
「.....い、いやそんなの噂だろ」
1度壁外調査へ行く前のナマエ副兵士長を見たことがあるが、本当に小さくてそんな風には見えなかった。変な噂に踊らされるより直接会った方が話は早いだろう。
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「おい貴様ら!本日からこの訓練に特別指導員としてナマエ副兵士長が見てくれることになった!敬礼!」
キース教官の声で1歩前に出ると整列させられていた訓練兵たちはみんな一斉に右手を胸に当て、敬礼をする。
「え、えっと...敬礼とか固いのはいいよいいよっ!
今日から主に実技でみんなのことを指導させてもらう、ナマエ...です。指導するのは実技だけで、座学とかはみんなと一緒に受ける予定です。
みんなとは仲良くなりたいのでよろしくね」
こういう形で視線を集めることに慣れていないのでつい言葉がうまく紡げない。それでもみんな真面目に聞いてくれてほっとする。
そうして初めの適性訓練から始まった。
「今期は期待できそうな人が多いですね...」
「そうだね。特にあの女の子はブレもないし凄いなぁ」
「し、しかし...彼は...」
「.....素質というものだろう。
人並み以上にできることがあれば...人並み以上にできないこともある」
確か彼はエレン・イェーガーだったはず。
彼はどんな原理だかわからないけれど、逆さまにぶら下がっていた。
「何をやってるエレン・イェーガー!!
状態を起こせ!!」
.....あんな体勢に、普通はなるのかな。
少しばかり胸がつっかえた。