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「ナマエ、待っていたよ。
先日の壁外調査、ご苦労だった。少々荒いやり方だったが今回で君の意思が固まったようだな」
あの壁外調査を終え、わたしはまたかつてのようにエルヴィンに呼ばれた。わたしの隣にはリヴァイもいて。
「エルヴィン。
わたし、ようやく何のために戦うのかわかった。
自分で気付けないなんてバカだけど...、わたしは、大切な人を守るために戦う。
まだまだ迷惑をかけたり、足でまといになっちゃうかもしれないけど...わたしを、これからも使って欲しい...!」
握った手に力がこもる。エルヴィンはわたしから目を逸らさずに聞いてくれた。そうして静かに頷く。
「もちろんそのつもりだ。
これは賭けだったが、やはり前回の壁外調査にナマエを参加させて正解だったようだ」
わたしはこのことをエルヴィンに言うために来た。しかし、エルヴィンは何のためにわたしを呼んだんだろう。
「.....おい、エルヴィン。濁してねぇでさっさと要件をナマエに伝えろ」
「.....そうだな。ナマエにはこれからも調査兵団として、壁外調査に参加してもらう。これは決定事項だ。
そこで、君の調査兵団での役割を決めようと思う」
「.....役割」
確かに調査兵団はみんながそれぞれ役割を持っている。そして班にも所属している。けれど、わたしは班に所属していないし、特に役割もない。
「そうだ。
この役割はまだ14歳になったばかりの君には大きいかもしれない。だが、この役割は君が担う事が重要になってくると考えた。
ナマエ。君は、本日付けから副兵士長だ」
「ふく、へいし、ちょう」
エルヴィンの言葉を繰り返す。副兵士長。その役割の責任の重さはどれほどなのか、あまりわたしにはわからないけれど、リヴァイが兵士長だと聞いた。
だとすれば、わたしのこの役割はそれなりの重みを持つ、ということ。わたしに、できるだろうか。
.....いや、やるんだ。
「ナマエ、やってくれるか」
「.....もちろん」
****
わたしの副兵士長という立場は、調査兵団にも市民にもあっという間に浸透して行った。
きっとわたしが女で、それもまだ小さい子供だから、注目を浴びたんだろう、とハンジは言っていた。
.....身長が小さいだけで、子供ではないけれど。
初めての壁外調査から、わたしは何度も壁外調査に参加している。班の所属はエルヴィンにわたしに任せる、と言われたのでリヴァイの班に入りたいと言ったらリヴァイにものすごく反対された。
けれど、その反対を押し切ってどうにか今はリヴァイの班にいさせてもらっている。
あの日から気持ちがきちんと整理されて、戦う目的が出来たからかわたしは戦いに迷いがなくなった。日々討伐数を稼ぐ日々だ。
そんな兵士として少し成長したわたしだけれど、調査兵団内での扱いはあまり変わることがなく、頭を撫でられたり、お菓子を恵んでもらったり。
それはそれですごく嬉しいから全然構わないけれど。
そんな日々を過ごしてまた1年、と時間は流れて行った。そして新しく年が明けたばかりの頃、またわたしはエルヴィンに呼び出されていた。
「今年から新たに104期生が訓練兵として入団する。
そこで、今回ナマエには特別指導員として彼らの教育を任せたい」
「ええっ!
ま、まって!わたし、学はないし年齢もそんなに違わない人達に教えられるほど偉くないよ...!」
「いや、ナマエには主に実技を担当してもらう。その他、座学に関しては104期生と共に授業を受けるといい」
わたしはもちろん訓練兵を経ていないから技巧もあまり得意ではないし、いろいろな知識が足りないのは事実だ。今回、特別指導員として参加し、104期生と共にきちんと基礎を学ぶのはいいかもしれない...。けれど...。
「リヴァイと離れるのがそんなに嫌か?」
「え?」
「そう顔に書いてある」
わたしは今、どんな顔をしているんだろう。
エルヴィンの言っていることは図星だ。今までずっとリヴァイと共に過ごしてきた。特に副兵士長になったから、壁外調査などでもリヴァイと一緒に行動するのが基本だ。だから、リヴァイと離れるのは...寂しい。任務にも参加出来ないという事だ。それも3年間も。
「.....本当のことを言うと寂しい。
でも、誰か、じゃなくて、わたしがやらなくちゃいけないんだもんね」
「.....そうだな。
ナマエにはこう伝えたが、実のところ俺もナマエと紅茶を飲みながら話す時間が無くなってしまうと考えると寂しいよ。リヴァイだって、ハンジだってそうだろう。
だが、これは君に頼みたい。
休日の日には、戻ってくればいい」
「.....うん、わかった」
そうだ。そんな遠い場所へ行く訳では無い。わたしはわたしのできることをするだけだ。