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「ガスを蒸しすぎだ。
お前の体なら遠心力がかからない分、機動力があがる。そんなにガスを蒸す必要は無い」
「う、うん!」
あの日からわたしはリヴァイと訓練漬けの毎日だ。たまにハンジも教えてくれる。訓練はすごくキツくて大変だけど、これがわたしの役目なら頑張るしかない。
立体機動装置の使い方はだいぶ慣れて、前よりも自由に動けるようになった。
立体機動での移動は嫌いじゃない。まるで鳥になった気分になれるから、むしろ好きだ。
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「あ、あれ?」
「もう一度だ。立て」
気が付けばわたしは地面に転がされていた。
空中での移動や持久戦などは得意だけれど、どうにもわたしは格闘術が苦手らしい。リヴァイの持っている短刀を奪うだけ、そう言われたけれど、それが簡単に出来ることではなかった。
リヴァイがすごく強いって言うのもあるのかもしれないけれど、それでも1度も勝ったことがないし、そもそも歯が立たない。
「もっと相手の動きを読むことに意識をしろ。
力に任せて無鉄砲に突っ込んでも意味が無い」
「う.....はい.....」
やっぱりリヴァイはすごい。実力もあるのに、的確な指示を出せるくらい相手のことを見てる。
わたしももっとがんばらなければ、と思う。
「リヴァイ、もう1回...」
「いや、無闇にやっても意味が無い。少し休憩にしろ」
訓練に夢中になっていて気付かなかったけれど、意識してみると確かに少し疲れていた。
「うん、そうする...」
木陰に移動して座り、ひと休みする。さわさわと木の葉っぱが擦れる音に目を閉じて耳をすませてみた。数秒経って目を開けてみるとリヴァイがわたしの顔を覗き込んでいた。
「わっ、ビックリした...。どうしたの?」
「訓練中、その長ぇ髪は邪魔じゃないのか」
どうやらリヴァイは訓練している時にあちこちに動く髪の毛を気にしていたらしい。
「ちょっと邪魔だけど...。切った方がいいかな?」
「.....いや。
ナマエ、ちょっと立て」
「...?」
リヴァイの言われた通りに立つとリヴァイはわたしの髪の毛に触れた。
「動くんじゃねえぞ」
「う、うん」
じっとしているとリヴァイはわたしの髪の毛を器用に結い上げていく。
「終わるまでこれ持ってろ」
そう言って何かを渡される。
渡された手のひらに目を移すとわたしは目を見開いた。
「ね、ねぇ、リヴァイ!これ、これ.....!」
「...おい、動くんじゃねぇ」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
怒られてしまったのについ笑みが零れる。リヴァイが渡したのは、いつか街に出かけた時に見た赤いリボンだった。あの頃は、あのリボンが欲しい、なんて言うことは出来ないと思っていたのと、訓練の忙しさですっかり忘れていたのだ。
...いつ買ってきてくれたんだろう。
リヴァイはちゃんとわたしの目線に気付いていてくれたというのがとても嬉しかった。
「ねぇ、リヴァイ」
「なんだ」
「ありがとう」
「.....。
それ渡せ。もう終わる」
素っ気ないけれど、リヴァイなりの優しさだってわかるからどんな態度でも嬉しい。
リボンを渡して、リヴァイは器用にまとめてくれた髪を結っていく。
「.....次からは自分でやれ」
手で崩れないように触れてみるとサイドの1束を編み込んでそれと後ろの髪を下の方で1つにまとめられていた。あまりの器用さに驚く。
「こ、こんな髪型、リヴァイみたいに器用じゃないからわたしにはできないよ...!」
「出来る出来ないじゃない。やれ、と言っているんだ」
「う、ぅうう...。がんばる...」
「.....休憩は終わりだ。訓練を続ける」
「うん!」