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「じゃあ、お仕事頑張ってね!」

「あぁ」

リヴァイとそんな短い言葉を交わしてわたしはエルヴィンの元へ向かった。

コンコンとノックをするとエルヴィンから返事が返ってくる。ゆっくり扉を開けるとエルヴィンは椅子に座ってわたしのことを待っていたようだった。

「リヴァイからは聞いている。

そんなに固くならなくて構わないよ」

「う、うん...」

座って構わない、と言われたので近場のソファに腰かける。リヴァイやハンジとは違った雰囲気がエルヴィンにはあったので、少し緊張してしまう。

じっとしてもいられないので、何をしていいかを聞くと散乱した書類をまとめて欲しいのと、少し掃除をしてくれないか、と言われたので指示に従う。

「それが終わったら自由にして構わないよ」

「じゃ、じゃあエルヴィンの部屋にある本、読んでもいい...?」

そう言うとエルヴィンは少し目を丸くした後に微笑んで構わない、と言ったので急いで仕事に取り掛かった。

散らばっている書類はまとめて、リヴァイに教わったように掃除をする。リヴァイの綺麗好きは最初こそはビックリしたけれど、それももう慣れてむしろくまなく綺麗にしないとわたしも気が済まなくなっていた。

「.....よし!」

さて本を読もう、と適当に1冊を手に取ってソファに戻る。エルヴィンはわたしが掃除をしている間にもずっと書類とにらめっこだ。

けれど、本を取ってソファに座った時にエルヴィンは顔を上げた。

「終わったのか。ナマエ、ありがとう。

自由にしていいと言ったが、もう昼時だ。
休憩にしよう。少しナマエと話したいこともあるんだ。

付き合ってくれないか?」

「うん、もちろん!」

「ナマエは紅茶を上手に入れられるとハンジから聞いたよ。

私にも入れてくれないだろうか」

その言葉が嬉しくて大きく頷く。

****

「本当にナマエは紅茶を入れるのが上手なんだな」

「えへへ、ありがとう。

リヴァイに教えてもらったからだけど...」

エルヴィンと机を挟んで向かい合う形でお昼をとる。エルヴィンのことを最初は堅い人だと思っていたけれど、いろんな話をしてくれるし意外と笑う。

そう考えていると、エルヴィンは紅茶を1口飲んでティーカップを置きわたしを見た。

「...エルヴィン?」

「ナマエ、ここでの生活は辛くはないか?
本来なら、君を連れ出すように命令した私は君に恨まれても仕方がないことをしたと思っている。

...俺は、自分のしたことが正解なのかよくわからない」

エルヴィンは目を伏せてそう言った。確かにわたしはここには連れてこられたのかもしれないけれど。でもこれはわたしが選んだことでもある。

「エルヴィン、あのね、わたしここに連れてこられてよかったって思ってるんだ。

...リヴァイにも言ったんだけど、どのみちきっとエマとクラウスは悪い人に殺されて、わたしはその人たちを殺してたと思う。

でもあそこで、エルヴィンがリヴァイに頼んでわたしのところに来てくれなかったら、憎しみでもっと人を殺してたかもしれないし、死んじゃってたかもしれない...。

だから、エルヴィンやリヴァイやハンジやここのみんなと会えたのも運命なのかな、って!
みんな優しくしてくれるし、わたしエルヴィンにありがとう、って言いたいよ!」

そう言うとエルヴィンの目が見開かれる。

「ナマエ.....。

はは、君って子は...。なるほどリヴァイが可愛がるのもわかるよ」

ありがとう、とエルヴィンはそう言うとわたしの頭を優しく撫でる。

「あと、エルヴィンはすごく頑張ってるよ。
わたし、まだ調査兵団のこと、よくわからないけど...。

リヴァイだってエルヴィンのことはすごく信頼してるし、エルヴィンにしか出来ないこと、あると思うんだ...。

だから、エルヴィンのやってることは正解だと思う!」

エルヴィンはなぜだかありがとう、と言って眉毛を下げて笑った。

「ナマエといると元気と自信が貰えるよ。

お礼と言ってはなんだが、ナマエに特別に美味しいものをあげよう」

「おいしいもの?」

「ああ。ナマエはこれを食べたことがあるか?」

そう言ってエルヴィンが出したのは綺麗な薄い茶色の何か。...甘い匂いがする何か。

「こ、これ...何?」

「バウムクーヘン、だよ」

バウムクーヘン、そう呼ばれたものを手に取って口に運ぶ。1口かじった瞬間、甘さが口に広がった。

「お、おいしい...!あまい...!」

「そうだろう?
ナマエの入れてくれた紅茶にもよく合うよ」

バウムクーヘンはとっても美味しくて、1口で人を幸せに出来る魔法みたいだった。

幸せにホクホクしているとエルヴィンはわたしの名前を呼んだ。

「これから君には過酷な運命を背負わせてしまう。時には捨てる判断も必要になるだろう。

もう少しで訓練も始まる。それだって戦いに向いている身体の君にも楽なことではない。

それでも、俺の下についてくれるか?」

真面目な声でそう言うエルヴィン。
そんなの、ここに来た時から答えは決まっている。

「もちろん!」

「感謝するよ」

わたしとエルヴィンは小さな約束を交わした。


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