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どうやら掃除大会はお開きになったようで、リヴァイは書類をまとめたり、サインしたり、いつもの仕事に戻った。
その間、わたしは紅茶をゆっくり飲みながらその作業をじっと見ていたけどリヴァイは特に何も言わなかった。
「.....カップ、片付けてもいい?」
お皿を洗うことくらいはずっとやってきていたし出来ると思ってそう声をかけるとリヴァイはあぁ、と言ってカップを渡してくれた。
カップを洗って綺麗に拭いて元の場所に戻す。するともうわたしの仕事は無くなってしまって、手持ち無沙汰になってしまう。どうしよう、と考えていると本棚にある本に目がいった。
くい、とリヴァイの袖を引くと書類に向けられていた視線はこちらに向けられる。
「...何だ」
「えっと...、本棚にある本、読んでもいいかな...って」
そう言うとリヴァイはちらりと本棚に目を向けてからもう一度わたしを見る。
「字、読めんのか」
こくりと頷く。
「別に構わん。好きにしろ」
それだけ言ってまた書類に目線を戻し、仕事を再開した。
「.....ありがとう」
適当に目を引いた本を手に取る。
読んでみると、わたしには少し難しくてわからないところもあった。でもその本には、この壁の外のこと、どんな生き物がいて、どんな植物が生えている、そんなことも書かれていた。
わたしはもっと色んなことを知りたくて夢中でその本を読んでいたら、手に持っていたはずの本が突然消えた。
「あ、あれ」
目線を上に向けるとリヴァイがわたしを見下ろしていた。
「おい、いつまで読んでいる。
もう夜だ。さっさとシャワーを浴びて寝ろ」
もう夜、という単語に驚いて窓に目をやると本当に日は沈んでいて夜だった。
慌てて言われた通りにシャワーを浴びて寝る準備をする。わたしにはベッドがないから変わらずソファだけど、別にそれで事が足りるから問題は無い。
いざ寝ようと思って目を瞑るけれど、思い出すのはあの夢でどうしても怖くて眠れない。そんな日々が続いていて、実際私は毎日寝不足だ。
.....寝るのが怖い。リヴァイはいつも椅子に座ってお仕事をしていて、わたしはリヴァイよりも先に寝てしまう。もしかしたら、うなされていることも気付いているのかもしれない。それを敢えて言わないのは彼なりの優しさ、なのだろうか。
「...ねぇ、リヴァイ」
リヴァイの方を向きながらわたしが声をかけるとリヴァイはこちらに目を向ける。
「あぁ?何だ」
手を握ってて欲しい、なんて言ったらきっとお仕事の邪魔をしちゃう。そのことに気付いて言うのをやめた。
「う、ううん...なんでもない、おやすみなさい」
ブランケットを頭まで被ってリヴァイに背を向けた。瞼を固く閉じているとおそらく掃除の疲れだろうか。あっという間に眠りについた。
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気がつくとまたいつもの空間で、エマとクラウスに責められる。夢は徐々に長くなっていき、ついにわたしはエマに完全に殺される、と思った。
そしてまたギリギリで目が覚める。
「.....っ、もう、やだ...」
また涙が目からぽろぽろと流れる。
窓を見るとまだ夜で、わたしは眠ってからそんなに時間が経っていないことに気付いた。
でもまた眠るのが怖くて、でもじっとしていられなくて、そっとソファから起き上がる。
リヴァイはこの部屋にいなくて、きっと寝室に戻ったんだろう。すぐ戻ってくればいい。少し、外の風に当たりたくなっただけ。
見つかったら怒られる覚悟でそっと部屋を抜け出して屋上を目指した。