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エルヴィンとの話を終えて再びリヴァイの部屋に戻ってきた。部屋に戻る途中、特に会話をすることも無くわたしはリヴァイの後ろをついて歩いた。
リヴァイはいつも座っている椅子に腰掛けたが、わたしはどうしていいか分からずそのまま立っていた。
「.....座っていい」
わたしの様子を見かねたリヴァイがそう声をかけてくれたのでずっと寝かせてもらっていたソファに腰掛ける。
「あ、明日からはわたし、何をすれば...いい...?」
エルヴィンにはリヴァイやハンジの手伝いをすればいいと言われたが正直何をすればいいのかわからない。
わたしがそう言うとリヴァイは目線を右上に向けて悩むような素振りをしてから再びこちらに目線を戻して口を開いた。
「そうだな...。
ナマエ、掃除は出来るか」
「掃除.....?掃除くらいは...」
掃除は地下街にいた時だってそれなりにやっていたので、別に出来るか出来ないか聞くほどの事でもないのでは、と思った。
「じゃあ明日はこの部屋の掃除をしてもらう。
手は抜くなよ」
「...わかった」
掃除、それだけの言葉なのに何故か妙に圧力を感じ、背筋が伸びる。
リヴァイとその言葉を交わした後、私は眠りについた。
****
「ま、また...ここに...」
夢だ。地上へ来てから毎日見る夢。真っ白な空間に最初はわたし1人だけ。でも気が付けば、エマとクラウスが現れていて2人はわたしに裏切り者だと言う。そしてエマがわたしの首に手を掛けて呼吸を止めようとする。
「かは.....っ...く、くるし...っ...やめ、て.....おね、がい...ゆるし...て.....」
「ナマエは何も見てない。見ようとしてない」
エマはそう言ってもっと手に力を込める。
「エ、マ.....クラ、ウス.......ごめ、なさ...」
苦しさで意識が遠のく寸前に夢から醒めた。
窓に視線を移すと空は明るく、太陽が登ってきたばかりのようでまだ早朝だということを理解する。
「もう目ェ覚めたのか。
.....おい、なんで泣いてやがる」
起きていると思っていなかった声の主から声がかかりビクリとする。少し髪の毛が濡れているのを見るところ、シャワーを浴びていたようだった。
.....わたしが、泣いてる...?
驚いて目元に手をやると僅かに指先を濡らした何か。自分でも気付かないうちに泣いていたのだ。
「な、なんでだろう...っ。夢でも見てたかな...覚えてない...」
適当にはぐらかす。夢でうなされて泣いていたなんて、言えなかった。
「.......今日から飯は食堂に食いに行く。
さっさと準備しろ」
リヴァイはそれ以上泣いていたことには言及せず自分の準備に戻って行った。
わたしは連れてこられてきた時の服しか無かったので、団員の方から借りてもらったという白いワンピースに着替える。茶色いブーツを履く。これは自分がずっと履いてきたものだ。
「準備、できた」
「行くぞ」
リヴァイはそれだけ言うと歩き出した。
リヴァイは歩幅をわたしに合わせてゆっくり歩いてくれているのかもしれないけれど、それでもわたしにとっては少し早くて置いていかれそうになってしまう。
するとリヴァイはちらりとわたしを見た。
「.....おい。手ぇ出せ」
「.....?」
わたしが右手を出すと、その手をリヴァイが掴む。
「.....迷子になられると困る」
リヴァイはそれだけ言ってわたしの手を握って歩く。リヴァイの手は少し冷たくて、でも不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
廊下を歩いていると、団員さんと思わしき人と度々すれ違う。その度に団員さんはリヴァイに敬礼?をしていて、もしかしたらリヴァイは偉い人なんじゃないかと思った。
そして団員さんとすれ違う度に、視線はリヴァイから私に移る。まるで珍しいものを見るかのようにみんな目を丸くする。
食堂へ着くとそこにはハンジがいた。
「あっ!ナマエちゃんじゃないか!おはよう!」
リヴァイに握られている反対の手で、少しリヴァイの後ろに隠れてハンジに手を振る。
わたしが手を振ったのを見てか、ハンジはさらに笑顔を深めた。
「なるほどねぇ〜。他の団員がざわついていた理由がわかったよ!まさかリヴァイがね...!」
リヴァイが、どうしたんだろう。わたしは頭に疑問符を浮かべていたが、リヴァイはハンジの言葉の意味をわかったようだった。
「クソメガネ、今ここで削がれてぇか」
「遠慮しておくよ!まぁ、いいじゃないか!
ナマエちゃん、こっちへおいで!一緒にご飯食べながらお話しよう!」
ハンジがそう言うので、リヴァイから手を離しゆっくりハンジの隣へ座った。
そしてその隣にはリヴァイが座り、ハンジは何故か笑った。そのハンジを見て、リヴァイの顔はすごく怖い顔になった。
「怪我、もう大丈夫なのかな?」
「.....うん。ハンジが手当てしてくれたから...。
ありがとう...。えっと、その、わたし、みんなのお手伝いするように言われてるから、ハンジも必要な時は呼んで...」
そう言うとハンジはわたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「もちろんさ!
可愛いナマエちゃんならむしろいつでもウェルカムだよ!
ところで今日は何するんだい?」
「今日は.....リヴァイのお部屋の掃除、だって」
そう言うとハンジはリヴァイの方へ向いた。
「ナマエちゃんに掃除させるのか?」
「当たり前だ。まずは掃除からだ」
わたしのイメージの中で、掃除がそんなに大変なものだと思ったことがないのでハンジがそんな深刻な顔をする理由がわからない。
「私、掃除するの、好きだよ。大丈夫」
パンをちぎって1口口に入れる。こちらに来てから、食欲があまり湧かないのは以前と変わらない。
「ナマエちゃん、本当に大変だから心してかかるんだよ。いいね?」
あまりに真面目なトーンで言われるので気圧されてうん、と頷くしかなかった。