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「う〜...、ジャン...大丈夫...?」

「す...、すいません...、ナマエさん...。迷惑かけて...」

リヴァイに重い拳を入れられたジャンは、勢いよく食べたものを戻した。

お腹の痛みと、そのせいでうずくまって動けないジャンの背中をさする。
...なんだか、お酒を飲みすぎた人を介抱している気分だ。

2人としては、殴り合いをやめるタイミングを失ってしまったから仲裁に入ってもらえてよかったかもしれない。
でもリヴァイもあそこまで思い切り蹴ったり殴ったりしなくてもよかったのでは...とも思う。

「...落ち着いた?」

「.....ハイ...だいぶ...。すんません、ほんと...」

珍しくジャンが弱々しく発言したので、いよいよ本当に心配になる。

「ううん、気にしないで?

...でも、こんなこと言っちゃいけないかもしれないけれど...なんだか安心したんだ。

この数ヶ月で、色んなことがあった。それはもう、考えたくもないほどに...辛いこともたくさん。
でも、今日だけでも昔みたいにみんなが過ごせたのならそれでいい。

特にエレンは、気持ちの面でも変化を受け入れるしかなかったし、自分が変わるしかない場面もあったと思うから...。だから、正直エレンが昔みたいにジャンの喧嘩を買うとは思わなかった」

床を見つめながらぽつりぽつりとそんな言葉を紡いだ。これはジャンに話しているけれど、一方で独り言だ。自分の気持ちを外に出しておきたかっただけの独り言。

「け、喧嘩って.....。けどあれは...、俺も少し驚きました。

自分で言うのもどうかと思うんですけど、アイツが今さらあんな安い俺の挑発に乗るとも思ってなかったので...。

まぁ、アイツが乗らなければこうはならなかったんスけどね...」

ハハ...、と乾いた笑いを零しながらジャンは自身のお腹をさすっていた。

「あれはね.....。ちょっとリヴァイは加減するべきだったと思うよ...。でもリヴァイがいなかったらたぶん誰も止めてなかったと思うけど...、わたしもミカサも止める気はなかったから...ごめんね」

「いえ...そうですね...。それは否定出来ないです...」

いつも仲裁に入るミカサすら当時のふたりを止める気はなかったのだから、やはり彼女もわたしと同じようなことを感じていたんだろうと思う。

「遅いし、そろそろ戻ろうか。大丈夫?立てる?」

「はい。もう大丈夫です、すみません」

「ううん!」

そう言ってしゃがんでいるジャンの目線に合わせてわたしもしゃがみ、手を差し伸べる。ジャンは大人しくわたしの手を取ったので、わたしは立ち上がるもジャンは立ち上がらない。

「ジャン?やっぱりまだつらい?」

そう言ってわたしはジャンの顔を覗き込むようにして再びしゃがみこんだ。

「いえ...。その...、ナマエさん...」

「うん?」

言葉を濁すようにその先を喋らないジャンに、どうしたのだろうとわたしは首をかしげる。

一度閉じた口をジャンは再び開いて言葉を発しようとしたその時、コニーの大きな声が耳に届いた。

「おい、ジャン!大丈夫か!?」

走ってこっちに来たコニーは、少し息が上がっていた。

「サシャを宥めてようやく部屋に帰らせたんだけどよ.....って、ジャン、お前...」

コニーは眉根を寄せてそう言ったが、なぜそんな顔をするのかわたしにはわからない。けれどジャンはそんなコニーの言葉に勢いよく立ち上がった。

「は、はぁ!?何でもねぇよ!!

俺は平気だ!帰るぞ!コニー!!」

「ジャン、本当に送っていかなくて大丈夫?」

「はい、コニーも来てくれたんで!」

「そっか」

ありがとうございました、と言ってジャンは頭を下げて背を向けてコニーと共に歩き出した。

その背中にわたしは声をかける。

「明日も頑張ろうね!」

そう言うとジャンは振り返る。

「...はい!」

「おやすみ」

そんなやり取りをして、コニーとジャンは自室へと戻って行った。

リヴァイはもう部屋に戻っているだろうか。わたしもそろそろ部屋へと戻ろう。

****

「...おい、ジャン。お前...変な気起こすんじゃねぇぞ?下手したら、リヴァイ兵長に殺されるぞ...」

「は!?

違ぇよ、あれは...。別にそう意味じゃねぇんだよ...」

「.....?じゃあ、どう意味だよ...?」

「やっぱり、似合わねぇと思ったんだよ...。

あの人は、戦場に似合わねぇ...。そりゃあ、俺達と比べ物にならないくらい強いし、リヴァイ兵長と並ぶくらい強いけどよ...。

なんか...、似合わないんだよ。戦場でナマエさんが血に濡れて戦ってるっつうのが」

「すまねぇ...、さっぱりわからねぇ...。

確かにナマエさん、小さくて細いけどな...。めちゃくちゃ強いしそんな心配いらねぇんじゃないか?」

「強いのはわかってんだ...。

でも、なんで戦えるのかわかんなかったんだよ。あの時はそれを聞きそうになったっつうか...。

俺がもしナマエさんなら、戦うのが怖かったと思うんだよ...、今でも怖ぇけど...」

「お前が何言いたいのかはさっぱりだけど、そりゃナマエさんにも守りたいものとか信念ってもんがあるからじゃね?」

「じゃなきゃあんな風に戦えねぇか...」

「そういうことだ!

でもさっきのジャンはそれだけの気持ちで動いてるようには見えなかったぜ?

確かにナマエさん、綺麗だけどよ、まじでその気になったら死ぬのはジャンだからな」

「.....それは、まじでねぇよ!俺だって殺されたくねぇからな!」

「本当かぁ?」

「本当だ!ったく、お前もサシャもそういう話題にばっかり食いついてきやがって...」


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