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「今日は特別な夜だが、くれぐれも民間人には悟られるなよ。
兵士ならば騒ぎすぎぬよう、英気を養ってみせろ」
そんな言葉が耳に入らないくらい、みんなの目はテーブルの上にのせられたモノに釘付けになっていた。
「え...?肉...?なに?
これ.....肉?」
「マジかや.......」
「今晩はウォール・マリア奪還の前祝いだ、
乾杯!!」
その言葉を皮切りに、みんなは声を上げながら夢中で食材たちに手を伸ばした。
それはもう、奪い合いさながらの光景で。
「てめぇ、ふざけんじゃねぇぞ芋女!!
自分が何をしているのかわかってんのか!?」
ジャンの声が聞こえたのでそちらに目を向けると、肉の塊まるごとをサシャが掴みかぶりつき、それをコニーが止めている様子が繰り広げられている。
...コニー...止めているというより、首を絞めてる...。
「やめてくれ、サシャ...。
俺...お前を殺したくねぇんだ...」
「一人で全部食う奴があるか!?
あああああああああぃ!食ってる食ってる食ってる!!!」
ジャンがサシャから肉を奪い取った途端、今度サシャはジャンの手のひらにかぶりついた。
「サシャ!?そっちの肉はジャンだ!!
わかんなくなっちまったか!?」
「調査兵団は肉も食えなかったのか...。
不憫だな」
そう言ったマルロの顔にサシャが拳を入れた。
どうやらサシャは無意識で動いているらしい。
「オイ...負傷者が出てるぞ...」
その言葉にハンジが肉を食べながら返答した。
「誰だ。肉を与えようって言ったのは」
「すいません...。奮発して2ヶ月分の食費をつぎ込んだのがよくなかったようです」
そんなやり取りを聞きながら、ふと思う。
「でも...。なんだか、今のみんなは年相応だよ」
ひと時の、戦いから離れることのできる時間なのだ。
****
サシャは柱に括りつけられ、みんなは無事に食事にありつけるようになり食事を取っている。
そんな中、ジャンがエレンに挑発するような発言をした。
「一番使えねぇのは、一にも二にも突撃しかできねぇ死に急ぎ野郎だよ。なぁ?」
「ジャン.....、そりゃ誰のことだ?」
そのやり取りはなんだか久しぶりで。かつては毎日のように繰り広げられていたやり取りのはずなのに。
「.....お前以外にいるかよ?死に急ぎ野郎は」
「それが最近わかったんだけど、俺は結構普通なんだよな...。
そんな俺に言わせりゃあ、お前は臆病すぎだぜ?ジャン」
2人は静かに睨み合った直後、席から立ち上がりお互いの胸ぐらをつかみ合う。
「いい調子じゃねぇか、イノシシ野郎!!」
「てめぇこそ何で髪伸ばしてんだ、この勘違い野郎!!」
新しく調査兵団に入団した人からすれば、大事に見えるそれも、彼らをよく知るわたしたちからすれば見慣れた光景。
エレンとジャンは殴り合いながら、言葉を交わす。
「...マジな話よォ...。
巨人の力が無かったら、お前何回死んでんだ...?
その度に...ミカサに助けてもらって...!!
これ以上死に急いだら.....
ぶっ殺すぞ!?」
そう言ってジャンはエレンの鳩尾に一発拳を食らわせる。
「...っそれは、肝に.....
銘じとくから!!お前こそ!!母ちゃん大事にしろよ!?
ジャンボォォオオオオ!!」
いつもならすぐに止めに行くミカサは、今回はどうやらその気はないらしい。わたしも同じだ。
今回は、止めなくていい。少しの間だけでも、かつての彼らに戻れるのなら。
殴り合いのさ中、わたしはアルミンにずっと思っていたことを口にした。
「アルミン。今さらなんだけど...どうしてアルミンは調査兵団に入ったの?」
「え?」
「あっ...えっと、急でごめんね。
でも、どうしてだろうって。エレンには巨人を駆逐するって明確な意志と、ミカサにはエレンを守る意志。それは知ってるんだけど、アルミンはどうしてだろうって」
わたしがそう聞くと、アルミンは視線をずらして柔らかく微笑んでから応えてくれた。
「僕.....壁の外の世界を...、海を見たいんです」
「うみ?」
聞きなれない単語にわたしは首を傾げた。
「はい。
壁の外には、海っていう商人が一生かけても取り尽くせないほどの巨大な塩の湖があるんです。
他にも、炎の水、氷の台地、砂の雪原...!壁の外の世界には、僕らがまだ見たことのない世界が広がっているんです!
僕はそれを見てみたい、そう思ったから調査兵団に入ったんです」
「壁の外にはそんな世界が広がってるの!?」
驚きのあまり、少し声が大きくなってしまった。それにアルミンは驚いたのか、目を丸くする。
「おかしいと...思わないんですか?」
「...?どうして?
だって、この世界はわたしたちが知らないことばかりで溢れてるんだよ?ましてや壁の外の世界!
あるに決まってるよ、海!すごいなぁ...!見てみたい!」
「ナマエさん.....、ありがとうございます」
そのありがとうの意味がわからず、疑問符を頭に浮かべていた時、エレンとジャンの殴り合いが終わらないのを見兼ねたのか、リヴァイが2人に蹴りと殴りをいれて、強制終了させた。
「...お前ら全員はしゃぎすぎだ。もう寝ろ。
...あと、掃除しろ」
「.....了解!!!」