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その後、わたしたちはトロスト区へと戻りエレンやキース教官の記憶を元にエルヴィンへと報告をした。

「...つまり、エレンの父、グリシャ・イェーガーは『壁の外から来た人間』である可能性が高いと...」

報告をひと通り聞いた後、エルヴィンはそう言った。

「そう...。アニやライナー、ベルトルトと同じように彼は巨人の力を持っていたしね。

でもその3人と違うのは...、壁の中の人間に協力的だったってこと」

「調査兵団に興味を持ってたって話なら、もっと協力してくれてもよかったんだがなぁ」

そんな意見にハンジは、どうかな...と応えた。

「物知りなグリシャさんならレイス家に受け継がれる思想の正体すらも何か知っていたのかもしれない。

であれば...、王政に悟られまいとして情報を広めることはしなかった。
しかしウォール・マリアが突破された瞬間、彼は王政の本体であるレイス家の元まですっ飛んで行き、正気の沙汰に及んだ。

おそらくはこの壁に入ってから独力で王政を探るなどしていたんだろう。いずれにしても、すさまじい意識と覚悟がなきゃできることじゃない。

そんなお父さんが、調査兵団に入りたいと言った10歳の息子に見せたいと言った家の地下室...。死に際にそこにすべてがあると言い遺した地下室...。

そこには一体何があると思う?」

「言ってはいけなかったこと...」

ハンジの問いにエルヴィンは小さく呟いた。そんなエルヴィンの発言に静かに聞いていたわたしだったけれど、少し目を見開いてエルヴィンを見つめてしまう。そんなわたしに構うことなくエルヴィンは言葉を続けた。

「...イヤ、グリシャ氏が言いたくても言えなかったこと。

つまり初代レイス王が我々の記憶から消してしまった『世界の記憶』.....だと思いたいが。

ここで考えたところでわかるわけがない」

エルヴィンはそう言って目線を下げ、何か思うところがあるようだった。それはなんだかいつものエルヴィンらしくなくて。しかしそれも一瞬で、再び目線を上げるといつもの調子で口を開いた。

「本日ですべての準備は整った。

ウォール・マリア奪還作戦は、2日後に決行する。地下室には何があるのか?知りたければ見に行けばいい。

それが調査兵団だろ?」

ハンジたちの表情を見ると、穏やかな笑顔を浮かべている。そして、彼らは今日の夕食についての話や、教官の隠匿罪についてなど、明るい調子で語っていた。

でもわたしは...、エルヴィンが気になって仕方がない。ハンジたちに続いて団長室を退室しようとする足取りが重く、それでも部屋から出て少し歩くとリヴァイがいないことに気がつく。

そして団長室の扉は閉じられていて。それはつまり、リヴァイはエルヴィンに話があるということ。

盗み聞きが悪いことだということは知っている。知っているけれど、どうしてもエルヴィンの今日の雰囲気が気になり、団長室の扉を背にして膝を抱えて座る。

そうしていると、微かにリヴァイとエルヴィンの会話が聞こえた。

リヴァイはエルヴィンにここに残れと言っている。けれどエルヴィンは...自分がやらなければ意味がない、と。

それでもエルヴィンを止めようとするリヴァイの考えは、きっと...エルヴィンを失いたくないという気持ちだけじゃない。

周りに気を使うような選択をしているのなら、エルヴィンについて行く気はないと言っている気がした。そこにエルヴィンの意思はあるのか、と。

「この世の真実が明らかになる瞬間には、私が立ち会わなければならない」

なぜかわたしはその言葉に胸が苦しくなって、じっとしていられなくなり立ち上がり少しだけこの場を離れたくなり早足で歩き出した。

****

コンコン、と扉をノックする。部屋の中から返事が聞こえて扉を開いた。

「...ナマエか。何か用でも?」

先程までのリヴァイとの会話を聞いていたとは知らないエルヴィンは、いつもの様子でわたしにそう尋ねた。

けれどわたしはいつも通りではいられなくて。グッと手のひらを握りしめながら、言葉を紡ぐ。

「エルヴィン...わたし、悪い子で私情を捨てられないダメな子だから...。リヴァイみたいに頭がよくないから...。

だからッ、わたしは...エルヴィンには奪還作戦には参加して欲しくない...ッ!」

わたしはきっと泣きそうな顔をしているんだろう。言葉もうまくまとまらなくて、ちゃんと伝えられているのかわからない。それでも今伝えたいことを伝えないと、後悔する。

伝えても、エルヴィンの意思が変わるなんて期待してないけれど。

わたしの言葉にエルヴィンは柔らかく微笑んだ。その表情に、わたしの唇が震えたのがわかる。

「...聞かれてしまったのか。そうか...。

ナマエ、すまないがその頼みには答えられないよ。私が行かないと意味がない。私が...行かなければならないんだ」

そう言って笑ったエルヴィンは、椅子から立ち上がりわたしの元へ歩み寄って優しく手のひらをわたしの頭へと置いた。

その行為に目頭が熱くなるのがわかって、エルヴィンの胸元に飛び込む。すると、エルヴィンは片方しかない腕でわたしを抱きしめ返した。

「...ナマエ、すまない。今では前のように、両腕で君を抱き締め返すこともできない。

こんな手負いの兵士が戦場へ行くことのリスクも承知だ。だが...、わかってくれないか、ナマエ」

「...わかってる...、わかってる...。

わたしが...何を言っても...エルヴィンの意思が...っ、変わらないことも...!でも...っ、何かあった時に、前みたいにッ、護れなかったら...って...!

いやなの...!いやなの...、ごめんなさい...。ごめんなさい...っ...!わたし...っ、リヴァイみたいになれなくて...っ」

嗚咽を混じらせながらボロボロととめどなく流れる涙とともに言葉も溢れ出す。これじゃあまるで、大人を困らせる子供だ。けれどそんなわたしをエルヴィンは責めることもなく、優しく背中をさすってくれる。

「ナマエ...、ありがとう。
本当に君は優しい子だ。君がナマエで良かったよ。

頼む、ナマエ。俺を、信じてついて来てくれ」

「...もちろん...っ...。

わたし、エルヴィンを...、信じるよ」

涙が止まらないけれど、顔を上げてエルヴィンの瞳を見つめながらそう言うと、エルヴィンは少し目を細めて優しく微笑んだ。


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