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ヒストリアが女王となってから2ヶ月余りが経った。しかし当のヒストリア本人は女王というよりも、孤児院の院長の方がよっぽど板についている。

これがヒストリアが女王になると決意した一つの理由だ。地下街から壁の端から端まで調べ上げ、孤児や困窮者を牧場に集めて面倒を見る。王室の公費や没収した議員の資産を牧場の運営に回したり貧困層の支援に当てる。

これには地下街出身の兵長とナマエさんの後押しがあったらしい。最初こそ帰属勢の反発を恐れたものだが結果的に民衆の支持をより固めることになった。

個々の利益を優先し人類の存続を脅かした罪。兵団は、議員一族及び関係者は爵位を剥奪され各地方の収容所に送り込まれた。残された貴族階級には兵団に協力する者と反する者の間で税率の格差をつけ団結を阻害した。

内乱による死者以上に人類の中枢にあたる人材を失うことになったが得た物も大きかった。

中央憲兵によって抹消されてきた技術革新の芽は一部の中央憲兵により秘密裏に保持されていたことが判明し、兵器改良の余地へと繋がった。

巨人が生み出したとされるレイス家領地の広大な地下空間の光る鉱石はエネルギーを消費しない資源として利用され、住民に還元され工業地を日夜照らし生産性を向上させた。

そしてエレンが得た硬質化の能力はシガンシナ区の破壊された門を塞ぐことに期待されるばかりではなくとある対巨人兵器を誕生させた。

****

トロスト区。
その壁上でわたしたちは新しく生み出した兵器の効果を試していた。処刑台と呼ばれるソレは、巨人がその兵器に首を突っ込んだ時、上から重石のようなものを落とし、そのうなじを潰すというもの。

そして今まさに巨人が処刑台に首を突っ込んでいる。重石がうなじに当たる場所まで巨人が首を突っ込んだ瞬間、ジャラジャラと音を立てて重石は落とされ見事にうなじに命中した。

「やった!うなじに当たったぞ。

損傷の度合いは悪くなさそうだ.....。今度こそは...」

ハンジがそう言う中、うなじを潰された巨人を見ると見事に巨人の命を絶っていた。

「やったぞ!!12m級撃破!!」

みんなからは歓声の声が沸き上がる。そんな中隣にいるエレンが急に膝をついた。

「エレン...!」

それに気づいたのは恐らくわたしとリヴァイだけで、ハンジは興奮のせいか言葉が止まらないようだった。

「やったなエレン!!これを大量に造って他の城塞都市にも.....」

リヴァイが出したハンカチを受け取り、鼻血を流すエレンの姿にハンジはようやく冷静さを取り戻したようで。

「エレン!?」

「巨人化の力を使いすぎたのかもしれない...」

「ああ。このところ硬質化の実験ばかりだったからな。

こいつが生み出す岩が無限にあるとは思わない方がいい。こいつの身を含めてな」

「すまないエレン.....。自分の発想に夢中になってしまって...」

ハンジが謝罪の言葉をエレンに伝えると、鼻血を流しながらエレンは顔を上げた。

「謝らないで下さいよ、ハンジさん。

俺がちょっと疲れたくらい何だって言うんですか。こんなすごい武器ができたんですよ?
もっと増やしましょう。誰も食われずに巨人を殺せるなんて.....。

後はウォール・マリアさえ塞げば、こいつで巨人を減らし続けてウォール・マリアから巨人を一掃できる。

早く...武器を揃えて行きましょう。シガンシナ区に」

****

「ほう...巨人の処刑台か。よくやってくれたな、調査兵団。

ウォール・マリア奪還が現実味を増してきたな。シガンシナ区への夜間順路開拓はどうなっている」

ザックレー総統がエルヴィンに対して発言した。

「はい。
現在で半分を超えた距離まで確保しました。

これもあの光る鉱石があって成し得た作業進度です。これでウォール・マリア奪還作戦を決行する日が見えてきました。

例の新兵器の実用導入を含め、およそ一月内にすべての準備が完了いたします」

エルヴィンが言い終えると小さく周りからは感嘆の声が響く。それくらいウォール・マリアを奪還に移すというのはすごいことなのだ。

そんな中、憲兵団幹部の一人が口を開いた。

「思いの外早いな。しかし失敗は許されんぞ。

何せ我々兵団が重税を課した貴族の内乱を抑えられているのも、調査兵団への破格の資金投資も、すべては失われた領土の奪還が前提なのだからな。

それをしくじればすべてのご破算だぞ」

彼の言うことは正しい。けれど...そこには命を賭してきた兵士のみんなは含まれていない。彼の言うすべては資金の問題。わたしたちは命を落としてきた兵士の使命を背負って戦っているのだ。

そんな気持ちで彼を見ていたからか、彼は短く声を上げた。わたしの視線に気づかれたのか、と思ったら彼の目線の先はリヴァイだった。

「...兵士長どの、何かご進言でも?」

「...いえ何も。おっしゃる通りかと」

リヴァイが何を思っていたかはわからない。けれど、少なからずわたしと同じように何かを思って彼を見ていたことは事実だろう。

「すべてはウォール・マリア奪還の大義の下...我々は壁の外でも壁の中でも血を流し合いました。

我々といたしましては、そのために失われた兵士の魂が報われるよう死力を尽くし挑む所存です」

エルヴィンがそう言い終えたあと、総統が口を開く。

「あぁ...。君もそろそろ報われてよいはずだ。

シガンシナの地下室に君の望む宝が眠っていることを祈っているよ」


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