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ヒストリアの王位継承の儀が無事に終わり、彼女がリヴァイを殴ったことは確かに驚いたけれど、きっとかつてリヴァイに胸ぐらを掴まれた時の仕返しなんだろうとわかった。彼女は彼女なりに落とし前をつけて、女王として民衆に向き合うことを決めた。
それはとても強くて...すごいこと。

クリスタとしての彼女ではなくて、ヒストリアとして...彼女はすごく強くなった。

みんなそれぞれ強くなってる。わたしたちは何かを失っても...それでも戦い続けなくちゃいけない。わたしも自分と向き合わなくちゃいけない。

つかの間の日常。わたしたちは巨人と戦うことが日常かもしれないけれど、無事に本部に帰ってこられてリヴァイと2人で過ごすことのできる時間。

きっとこの時間は長くは続かないだろうけれど。けれど、こうやってこの日常に帰ってこられたことに安堵の息を短く漏らした。

「リヴァイ。わたしのお話、聞いてくれる?」

「.....あぁ」

リヴァイは小さく、短くいつものようにそう返事をしたけれど、目線はわたしに向けられたままだ。そしてわたしはいつものようにリヴァイと机を挟んで向き合う形で座った。

「...わたしの一族はね、昔...『天使すら堕とした一族』って呼ばれていたんだって。人道から外れた実験をしていて、そのためなら手段も選ばない。

わたしを作るために...たくさんの人が死んだ。そうして生まれたのがわたし。そしてわたしは対巨人用の人間なんかじゃなくて、本来のわたしが作られた目的は人間同士の争いに使うため。

この見た目も、思考もすべて敵を油断させるために遺伝子に組み込まれたものだ、って言われた。

そのあとはリヴァイも聞いたとおりのお話。わたしも...リヴァイやケニーと同じようにアッカーマンの血が流れているということ。

リヴァイの姓はアッカーマンなんだもんね。わたしの姓は...未だにわからないけれど。それでもいいって、たとえ今までの全てが遺伝子の影響があったとしても...わたしはわたしだ、ってそう思ってる。でも...でもね。今までのこと全てがわたしの意志じゃないとしたら、それはとても悲しい...って思う。

リヴァイは...このお話を聞いてどう思った?」

これを伝えているとき、リヴァイは決してわたしから目をそらさずに聞いてくれた。そして最後にそう投げかけるとリヴァイはゆっくりとまばたきをしてから口を開く。

「そりゃあ全く...今更な話だろうが。

ナマエよ。お前はこれまでもこれからも、ナマエのままじゃないのか?今までのお前はお前じゃないと?」

「そんなことない...!わたしはわたし...!何があろうと、今までのわたしは全部...わたしが選んで生きてきたわたし自身の道がある...!」

不安だった。どれだけ自分を信じても、自分が自分としてそこにあるのか、信じたくても怖くて不安で。でも...そうか。わたしにはわたしの人生がある。

それは変わらない事実。そこにはちゃんとナマエとしての自分がいて、殺戮兵器なんかじゃない。

「ナマエはナマエだ。これまでもこれからも。

例えお前と同じ思考を持つ奴が現れたとしても、そいつは決してお前なんかじゃねぇ。ナマエはこの世界にたった一人で、代わりなんていねぇよ。だからこそ俺達はお前を信じるし共に戦える。

お前が自分を自分だと信じられないとしても、俺がお前を信じてやる。それだけでお前は自分を信じるには十分だと思うが」

リヴァイはそう言って、いつもより荒くわたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「ナマエ、顔を上げろ」

そう言われて1度下を向いた顔を上げてリヴァイと視線を合わせる。

「ハッ.....。ひでぇツラだな」

そんなことを言われたのでキュ、と眉間にシワが寄り頬を膨らませた。

「そ、そんなことないもんっ!」

「その発言も遺伝子とやらのせいか?」

さっきの言葉はいつも通りのわたしを取り戻させるためだったと気づく。リヴァイの遠回しの優しさに助けられてばかりだ。そんなリヴァイにわたしはつい笑顔がこぼれた。

「...ううん。リヴァイ、ありがとう。

そうだよ...わたしはわたし。これまでもこれからも。それにリヴァイがいてくれるから。リヴァイがいてくれるから、わたしはわたしでいられる。

もう...だいじょうぶ」

何を言われようと、わたしは変わらない。わたしとそっくりな人がいたとしても、それはわたしじゃない。きっともうだいじょうぶ。

調査兵団のみんなが...リヴァイがいるから。わたしを信じてくれている人がいるから、わたしも自分を信じられる。

姓も必要ない。わたしがナマエであることは絶対に変わらないのだから。


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