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「撃てー!!!」
声とともに響き渡る大砲の音。ロッド・レイスの巨人へと向けて大量の大砲を駐屯兵団が撃ち込み、わたしたちはそれを静かに見守っていた。
「さぁ...どうだ?」
エルヴィンの試すような低い声が煙とともに消えていく。巨人の周りの煙が晴れた時、わたしたちが目にしたのは先程と形状が何ら変わりのないロッド・レイスの姿だった。
「地上の大砲は更に効果が薄いようだ」
「当たり前だ.....。
壁上からの射角にしたって大してうなじに当たってねぇじゃねぇか。どうなってる?」
「寄せ集めの兵士。掻き集めた大砲。付け焼き刃の組織。
加え、ここは北側の内地だ.....。ウォール・ローゼ南部最前線の駐屯兵団のようにはいかない。だが今ある最高の戦力であることには違いない」
「あぁ...そりゃあ重々承知している。何せ今回も俺ら調査兵団の作戦は博打しかねぇからな。
お前の思い着くものはすべてそれだ」
リヴァイの言うことは嫌味じゃない。それでもわたしたちはエルヴィンの指示を信じるし、それに従う。
「...それで何度もわたしたちは前に進めてるのも事実だよ」
小さくポツリとわたしが呟いた時、ハンジのエルヴィンを呼ぶ声が聞こえた。
「持ってきたよー!!
ありったけの火薬とロープとネット。まだ組み立てなきゃいけない。
あと『コレ』」
そう言ってモブリットが火薬の入った樽を二輪の荷台に乗せて、樽の側面には槍のような針がついた物を持ってきた。
「1回撃てば引き金が固定されて立体機動装置と同様に巻き取り続ける。
で.......砲撃はどうなの?」
「セミの小便よか効いてるようだ」
「じゃあ.....本当に『コレ』使うの?」
ハンジの質問に答えあぐねているとエルヴィンから声がかかる。
「では、リヴァイ、ナマエ、ジャン、サシャ、コニー。
あちら側は任せた」
「了解!!」
「わかった!」
****
「撃てー!!
よし!!うなじの肉を捉えてる!!次で仕留めるぞ!装填急げ!!」
作戦を実行するため、エルヴィンの指示通り大砲を撃ち続けている駐屯兵団の元へとわたしたちは向かった。
駐屯兵団は大砲を撃ち続けているが巨人の反応を見るところ、やはり効果は見られない。
.....それに、もう壁の真下まで来てる。
その時、突然熱風がわたしたちを襲った。
「熱ッ!!」
「クソッ、まずいな」
「.....風向きが...変わった...!」
風向きがこちらに向いたことで巨人を纏っている熱風がらこちらに流れてきている。そのせいで何も見えない。
「隊長!!何も見えません!!」
「くッ.......!すぐ下だ!!撃てー!!」
合図で再び一斉に撃ち込まれる大砲。けれど巨人へ大砲を撃ち込むことはもう叶わなかった。
「遅かった...!」
巨人はゆっくりと起き上がり、伸ばした手でわたしたちのいる壁を掴んだのだ。壁は巨人の手で簡単に破壊されていく。
「うっ...冷た」
「我慢しろ」
リヴァイが容赦なく水を被せる。冷たいけれど、これなら少しの熱風でも耐えられそうだ。こちらの準備はできた。
「退避ー!!退避しろぉぉおおおおお!!!!
クソ.....突破される.......!俺の育った街が.....。終わりだ.....」
そう呟いた駐屯兵団の隊長の袖をわたしはクイ、と引っ張った。驚きと恐怖に染まった顔で彼はこちらを振り返る。
「だいじょうぶ」
「下がってろ、駐屯兵団。後は俺達が引き受ける」
刹那、わたしたちの向かいでは眩しい光が発生した。これはエレンが巨人化した合図。どうやら向こうも準備が整ったらしい。
サシャが用意した爆薬の装置の取っ手を手に持ち、エルヴィンの合図を待つ。
瞬間、信煙弾が撃ち上げられた。攻撃開始の合図。巨人に針が刺し込まれ、サシャは取っ手を離す。
巨人の左手へとソレがぶつかった瞬間、ソレは爆発を起こした。右手にもアルミンが発射した爆薬がぶつかり、同時に爆発を起こす。その衝撃で巨人は態勢を崩した。
.....最初の段階は成功した。残るは次の段階.....わたしたちの切り札、エレンだ。
****
「口の中に火薬を入れて、うなじごと吹き飛ばす...ってこと?」
「そうだ」
わたしの質問にエルヴィンは静かに頷いた。そしてリヴァイが続ける。
「確かにあの高熱なら起爆装置が無くても勝手に燃えて爆発するだろう。
.........巨人が都合良く口をアホみてぇに開けといてくれればな」
確かに、巨人が口を開けてくれている保証はどこにもない。これはきっといつものエルヴィンの『賭け』だ。
「そうだ...。うなじの表面で爆発しても効果は望めない。必ず内側から爆発させなければならない。
目標はその自重ゆえか顔を大地で削りながら進んでいる。つまり『開く口』すら無いのかもしれない。
それが今回の賭けだ」
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「エレン!!!」
エルヴィンの声がこちらにも届いた。
それはきっと一瞬の出来事で。けれどわたしには爆発が起きるまでの時間がゆっくりと見えた。
目の前の光景にわずかの間わたしは息を飲んだ。エルヴィンの読み通り。巨人はエレンが入れた爆薬によって爆発し、その体はバラバラになって四方へと飛び散った。
「総員!!!立体機動でとどめを刺せ!!」
エルヴィンの声を合図にわたしたちは一斉に立体機動に移り、壁上から飛び散った巨人の肉片へと狙いを定めて飛び立った。
「.....これじゃない...!」
こんな巨体でも...本体は縦1m幅10cmの大きさしかない。本体を破壊しないと...!また体を再生させて、あの高熱の盾を生み出す...!
この機を逃しちゃいけない...!
「これも.....違う!」
飛び散った肉片の数が多すぎる...!いったいどれが...ロッド・レイスの本体...!?
再び肉片を斬るためにアンカーを刺した時、その横をヒストリアが通り抜けた。
「ヒストリア...?」
ヒストリアが1つの肉片を斬ったその瞬間、再び爆発が起きた。
その爆発はロッド・レイスが確実に消滅したこと、ヒストリアがとどめを刺したことを示すもの。
そしてそれは真の女王がその手で巨人を...実の父親を討ち取った瞬間だった。