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「オイ止まれ!!てめぇに言ってんだ、聞こえねぇのか馬鹿野郎!!
今すぐ止まれ!!ロッド・レイス、お前だ!!このチビオヤジ.......
...ッ!!」
最後の言葉でエレンがリヴァイに睨まれていたのは置いておいて、馬車でロッド・レイスに並走しながらエレンが声をかけても前にエレンが巨人を操ったようにロッド・レイスは動くことはなかった。
「反応がない.....」
「...そうだね。
あの時は叫んだ以外に何かやらなかった?」
「あの時は.........必死で...。
あ.....」
ハンジの問いにそう答えてから何かを思い出したようにエレンは腕を振りかぶった。
「止まれ巨人!!!」
「反応は.....無いね...」
エレンは何度も腕をブンブンと振りながらそう言っていたけれど、当のロッド・レイスには何も聞こえている雰囲気はなかった。
そんな時、聞きなれた声が聞こえた。
「リヴァイ」
「エルヴィンか?」
聞きなれた声の主はエルヴィンで、馬に乗ってこちらに駆けてきた。
「皆は?」
「ハンジのみ負傷だ」
「おーい、エルヴィン」
「エルヴィン!!」
「団長!」
「大事には至ってないようだな。
.....皆、よくやった」
エルヴィンがわたしたちを見つめてそう言い、わたしはその言葉に少しだけ安心感を覚えた。
「エレンの『叫び』は効いてねぇ...。報告事はごまんとあるがまず.....」
「あの巨人は?」
リヴァイの言葉に被せるようにエルヴィンは質問をする。あの巨人とは言わずもがな、わたしたちの目の前にいる巨人。
「ロッド・レイスだ。
お前の意見を聞かねぇとなぁ.....団長」
****
急ぎ足でわたしたちはオルブド区へと移動をした。ロッド・レイスはゆっくりと、けれど着実にオルブド区へと向かってきている。
「何を考えているエルヴィン!!
住民を避難させず街に留めるだと!?夜明け時にはもうあの巨人はここに到達するのだぞ!!」
「あの巨人は奇行種です」
「それが何だというんだ!?」
駐屯兵団の兵士がエルヴィンの胸ぐらを掴みながら捲し立て、ハンジの言葉にも耳を傾けない。
あの巨人は奇行種で、より多くの人間がいる場所へと吸い寄せられる。それも小さな村では目もくれず、城壁都市に反応するほどに極端。
「なので今から急にウォール・シーナ内へ避難させれば、目標はそれに引き寄せられウォール・シーナを破壊し突き進むでしょう。
果ては最も人々の密集した王都ミットラスに到達し、人類は破滅的被害を被ることになります」
その被害の大きさは計り知れない。わたしたちの頭には悪い予想が過ぎる。
「...何だと?」
「つまり...、あの巨人はこのオルブド区外壁で仕留めるしかありません。
そのためには囮となる大勢の住民が必要なのです」
けれど民の命を守ることこそがわたしたち兵士の役目、存在意義。それが変わることはないし、巨人を仕留め損ねても誰も負傷者を出さないように尽くすだけ。
「オルブド区と周辺の住民には緊急避難訓練と称し、状況によってオルブド区内外へ移動させやすい態勢を整えます」
エルヴィンの発言に、捲し立てていた駐屯兵団の兵士は苦い顔をした。
「やるしか.....ないようだな」
「目標はかつてないほど巨大な体ですが、それ故にノロマで的がデカい。
壁上固定砲の砲撃は大変有効なはずですが、もし...それでも倒せない場合は.....
調査兵団最大の兵力を駆使するしかありません」
エルヴィンはちらりとエレンへと目を向けそう発言した。
****
「ナマエ、体は動くのか」
「見てのとおり、だよ!
みんなが...助けに来てくれたから。わたし、助けられてばっかりだ。
みんなが戦って傷ついて...そうしてようやく王政が傾き始めた...。その間わたしは...」
悔しさで俯きながら手のひらを固く握ってしまう。手のひらに自身の爪が食い込む痛みすら忘れて握りしめていたその手をリヴァイは掬いとった。
わたしは驚いて俯いていた顔を上げる。
「リヴァ.....」
「何も出来なかった、とか言うんじゃねぇだろうな?確かに俺達は戦った。多くの人間を殺して、仲間も殺された。ナマエ...お前やエレンやヒストリアを奪還するためにな。
その間にお前は何も出来なかったか?それは違うだろうが。
捕まっている間に何があったかなんて俺の知るところでは無いが.....エレンとヒストリアを守るために自分を犠牲にして戦ったのはナマエ、お前だ。
お前はどれだけ調査兵団が...俺達がお前を必要としているのか、俺達を助けているのか自覚した方がいい」
「え.......?」
驚きで力の抜けたままに握られていた手のひらをリヴァイは優しく解いた。そしてふわりと優しい手つきでわたしの髪の毛に指を滑らせる。
「まだ戦いは終わってねぇ。今回も俺達は生き残る。ゆっくり話をするのはその後だ。
前にも言ったが、俺はお前が早々に死なれるのは困る」
「.....そう...だね。
まだこんなところで死ねないよ。ようやく血族のしがらみから解放されたんだから」
胸の内にあった黒い何かが静かに消えた。そうだ。わたしはリヴァイと約束したんだ。約束を守るためには必ず生き残る。
リヴァイはいつものように荒く、けれど優しくわたしの頭を撫でてから口を開いた。
「...そろそろ行くぞ」
「うん...!」
待機しているみんなの元へ行くと、そこには立体機動を身につけたヒストリアがいた。それをリヴァイが見逃すわけもなく。
「おい、ヒストリア。
お前は戦闘に参加できない。安全な場所で待機だと命令されはずだ。
そりゃ何のつもりだ?」
「自分の運命に決着をつけに来ました」
「...あ?」
リヴァイから目を背けることなくヒストリアは力強い目でそう言った。
「逃げるか戦うか.....選べと言ったのはリヴァイ兵士長、あなたです」
リヴァイはきっと、ヒストリアにその言葉を言った時のことを思い出している。リヴァイは、中途半端な覚悟で言っていない彼女の発言を無下にできるような人じゃない。
「.........。
あぁ.....クソ。時間がねぇ.......
来るぞ」