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「ナマエさん!無事だったんですね!」

「アルミン、ありがとう!そっちも無事みたいでよかった」

出口である岩肌を登っていると、地上にいたアルミンがこちらに手を差し伸べてくれた。その手を握りわたし自身も地上へと這い上がる。

「巨人はどうなったの...?」

言葉を続けている途中で目線を遠くにずらした時、わたしたちは息を飲む。地面が大きく陥没し、崩れ落ちていたのだ。

地上に上がってきたわたしたちは何も言えずその地獄のような光景を見ることしかできなかった。

「この世の終わりかと思ったよ。

突然地面が割れて陥没したと思ったら、あれが這い出て来たんだから」

アルミンが遠くを見つめながらそう言った。そしてアルミンの目線の先には巨人が地面に這いつくばって歩いている姿がある。

「あれが...巨人?」

エレンがぽつりとそう呟いたのをアルミンが拾った。

「色々大変だ。超大型巨人の倍ぐらいあるし、よほど高温なのか...、奴が近付いた木々は発火している。何より近くの人間...、僕らに興味を示さない...」

「奇行種.....ってことか?」

アルミンの言葉にみんなは少し驚いた顔をした後、ジャンがアルミンにそう質問する。

「元の人間の意志で操っていなければだけど...。

何があったの?」

アルミンの問いに誰も答えることはせず、代わりにリヴァイが口を開いた。

「あの巨人を追うぞ。

周囲には中央憲兵が潜んでいるかもしれん。警戒しろ」

****

わたし、エレン、ヒストリアと負傷したらしいハンジは荷馬車に乗り、それ以外のみんなは馬に乗ってロッド・レイスを追う。

「.....ハンジ...怪我は...」

わたしの言葉にハンジは苦しそうに顔を歪めながらもこちらを見て微笑んだ。

「...大丈夫さ。ナマエちゃんが無事で何よりだ。

...さて...。つまり...、エレンの中にある巨人の力を仮に『始祖の巨人』の力としようか...。『始祖の巨人』の力はレイス家の血を引く者が持たないと真価を発揮できない。

しかし、レイス家の人間が『始祖の巨人』の力を得ても『初代王の思想』に支配され...、人類は巨人から解放されない。

.......へぇ、すごく興味ある」

ハンジは横になりながらこれまでのことを端的にまとめ、エレンの巨人とヒストリアの血筋との関係性について話した。

「初代王の考えでは、これが真の平和だって...ことだよね?」

「...本当、面白いことを考えてるじゃないか」

わたしの言葉にハンジは笑いながらそう言う。そのハンジの言葉に対してエレンが続けた。

「つまり...まだ選択肢は残されています。

俺をあの巨人に食わせれば、ロッド・レイスは人間に戻ります。完全な『始祖の巨人』に戻すことはまだ可能なんです」
「...そんな!」

エレンの言葉に過剰に反応したのはミカサで。ロッド・レイスを人間に戻して『始祖の巨人』の力を彼に譲る。エレンにはそうなる覚悟ができているということなのかもしれない。

「そうみてぇだな。

人間に戻ったロッド・レイスを拘束し、初代王の洗脳を解く。これに成功すりゃ人類が助かる道は見えてくると...。

そしてお前はそうなる覚悟はできていると言いたいんだな」

「.....はい」

誰もが息を飲み、額に汗を滲ませる。イヤに静かな時間が流れ、きっとそれは一瞬だったのだろうけれどやけに長く感じた。

「...エレン、そんなこと.......」
「選択肢はもう一つあります。

まず、ロッド・レイスを『始祖の巨人』にするやり方にはいくつか問題があります。
ひとえに洗脳を解くと言っても、それはレイス家が何十年も試みてできなかったことのようです。

また、力を得たロッド・レイスをどう拘束しようと人類の記憶を改ざんされては敵いません。
他にもこちらの知り得ない不測の要素が多分にあると考えるべきです。

むしろあの破滅的な平和思想の持ち主から『始祖の巨人』を取り上げている今の状態こそが、人類にとって千載一遇の好機なのです」

ミカサの言葉に被せるようにヒストリアはそう提案し、驚いた表情をしたエレンの方に向き直って再び言葉を続ける。

「そう...あなたのお父さんは、初代王から私達人類を救おうとした。

姉さんから『始祖の巨人』を奪い、レイス家の幼子ごと殺害したのも...、それだけの選択を課せられたから」

「父さん...」

ヒストリアに続くようにアルミンとミカサも口を開く。

「そうだよ!あのイェーガー先生が何の考えもなくそんなことするわけがないよ!」

「そう!
レイス家の血がなくても、きっと人類を救う手立てはある!

だからエレンに地下室の鍵を託した」

「地下室って?あぁ...あれですね!?つまり大事ですよね?」
「?あぁうん」

「壁の穴を塞ぐ目処がようやく立ったんだ。選択肢は一つしかねぇだろ」

ジャンが言ったのと同じように、みんなヒストリアの意見に賛成のようだった。
エレンの表情も地下にいた時よりは、いつものエレンに戻ったように見える。

「少しはマシになってきたな」

わたしが思ったことと同じようにリヴァイもそう思ったらしい。

「わたしは、ヒストリアの選択肢に賛成するよ」

「私もだ...。けど...、いいのかい?ヒストリア。

用がなければあの巨人をこの壁の中で自由に散歩させてあげるわけにもいかない。
あのサイズじゃあ拘束できそうにない.....。

つまり。

君のお父さんを殺す他なくなる」

ハンジの言葉にヒストリアは一瞬、大きな瞳をさらに大きく見開いた。その目線は遠くを歩いているロッド・レイスへと向けられる。そしてロッド・レイスから目線をずらさずにヒストリアは言葉を紡いだ。

「.....エレン、ごめんなさい。

私...あの時巨人になって、あなたを殺そうと本気で思ってた。

...それも、人類のためなんて理由じゃないの。お父さんが間違ってないって、信じたかった。

.......お父さんに、嫌われたくなかった.......」

目線を荷馬車の床板へと戻したヒストリアの瞳からは涙が一筋流れて落ちた。けれどそれも一瞬で、顔を上げたヒストリアの瞳には確かな決意が宿っていて。

「でも、もう.....お別れしないと」


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