15


「な...何が...!」

エレンは駆け出した直後、巨人化した。けれどその様子はいつもとは違くて、結晶のようなものがエレンの体から出ている。そしてそれが柱を作っていく。

.....あれは...硬質化...?

「全員、エレンの影に入れ!!」

リヴァイの声にわたしたちはハッとして走り出しエレンの影に入る。

上を見上げるとエレンが生み出した柱はわたしたちを覆うように網のような形になり、落ちてくる地面を塞いでいる。

「これが...硬質化の能力.....」

****

しばらくすると落石は止んだ。しかしわたしたちはここから脱出しなければならない。エレンは未だ巨人の体から出てこない。

硬質化したせいで、いつものように体から出てこられないのだろう。ジャンとミカサがエレンの皮膚を壊して出すことを試みていた。

そしてサシャとコニーは立体機動で上への出口を確保している。それぞれがそれぞれの仕事をこなしている。

.....なのに、わたしは...。

「おい、ナマエ。怪我はねぇのか」

ぐっと唇を噛んだ時、リヴァイがわたしにそう声をかけた。

「...うん。

.......それなのに、何もできなくてごめんなさい。わたしの不注意で捕まって、ガスまで抜かれて...」

「それはお前の不注意じゃない。俺が別行動をしろと伝えたからだ。
どんなにお前が強くても相手も悪かった。

.....だが、無事で何よりだ」

リヴァイはそう言って、するりとわたしの髪に指を滑らせた。そして何も言わず短くなったわたしの髪の毛先をつまんで見つめる。

「リヴァイ?」

「...髪、切っちまったのか」

その言葉にわたしは一瞬目線を下にずらし、ケニーから逃げた際にとっさにポケットに入れたリボンを取り出す。そのリボンで左側の髪の毛束を少し取り、短く三つ編みにして結ぶ。

ずらした目線を再びリヴァイに戻し、微笑んだ。

「似合わないかな?」

わたしの言葉にリヴァイは少しだけ笑った。

「.....いや、悪くない」

リヴァイがくれた言葉にわたしは破顔する。その時、ミカサのエレンを呼ぶ声が聞こえた。

「エレン.....エレン!!」

硬質化した巨人の体からようやくエレンが出された。

「エレン!!よかった...!」

わたしたちはエレンの元へと駆け寄る。

「兵長〜〜〜。

出口を確保しましたぁー」

「よくやった」

そして上からはサシャの声。出口を確保したらしいサシャは上から降りてきた。

サシャはエレンを見つけると小走りでやって来た。

「エレン.....。

無事にほじくり出せたんですね!」

「工事が必要だったがな」

「おかげでみんな助かりました!」

サシャは両手と両膝を床に付け、何やら長い言葉を一息でエレンに向けて言っていた。一方のエレン本人はサシャの言葉より硬質化した自分の巨人化した体が気になるようだった。

「これは...」

「硬質化.......ってヤツだろ。

お前を巨人から切り離しても、この巨人は消えてねぇ。.....結構なことじゃねぇか」

エレンはリヴァイの言葉に何も言わなかったが、直後何かを思い出したように声を上げた。

「そうだ!あの瓶は!?

俺.....、とっさに『ヨロイ』の瓶を飲み込んで巨人に...」

エレンがそう言った後、ヒストリアは燃えた布切れを手に持ち口を開いた。

「ロッド・レイスの鞄を見つけたけど...。

鞄の中も、飛び散った他の容器も...、潰れたり蒸発したりしてもう残ってない」

「.....そんな」

エレンは少し俯いて呟いた。そんなエレンに対してリヴァイが言葉を投げかける。

「いや.....、まだ他の場所にあるかもしれない。この瓶の中身を取り入れたお前は、これまでどうしてもできなかった硬質化の力を使って...、天井を支え崩落を防ぎ俺達を熱と岩盤から守った。

お前にそんな教養があるとは思えねぇが、お前は一瞬でこれだけの建物を発想し生み出した。

...まったくデタラメだが、あの壁も実際にこうして建ったんだろう。

つまりこれでウォール・マリアの穴を塞ぐことが可能になった。

敵も味方も大勢死んで、さんざん遠回りした不細工な格好だったが、俺達は無様にも...この到達点に辿り着いた...」

みんな、ここにたどり着くまでに大勢の人間とやり合って来たのだろう。わたしやエレン、ヒストリアがここに捕まっている間、たくさんの敵を殺して...味方も傷付いて。

そうしてようやくここにたどり着いた。

「ところで...あの巨人は」

静かな空気を打ち破ったのはサシャだった。そしてそのサシャの発言にわたしたちは巨人化したロッド・レイスを思い出す。

その直後、上で待機していたコニーがリヴァイを呼んだ。

「兵長大変です!!早く来て下さい!!」

「そうだな.....。まずはここを出てからだ」

その言葉と共に、エレンと目線を合わせるようにしゃがんでいたリヴァイは立ち上がり歩き出した。エレンは床に座り込み、頭に手を当てたまま動かない。

「...エレン、大丈夫?動ける?」

「あ.....はい...」

「それにしてもお前...、ひでぇ面してるぞ」


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