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目の前に現れた大きな巨人。これはきっと...ロッド・レイスの巨人...!!
ロッド・レイスが巨人になった反動でこの空間とわたしたちを強風が襲う。飛ばされそうになるのをぐっとエレンを掴んで耐える。
その間にもわたしは必死にエレンの足枷を解く鍵を探していた。
「.....そうだ!!レイス家が...巨人なったんなら、俺がこのまま食われちまえばいい!!
もういい...、ナマエさんも、ヒストリアも...!!逃げてください!!」
「嫌だ!!」
「だから...何で...!!」
「私は人類の敵だけど...、エレンの味方。いい子にもなれないし、神様にもなりたくない。
でも...自分なんかいらないなんて言って、泣いてる人がいたら...。そんなことないよって、伝えに行きたい。
それが誰だって!どこにいたって!私が必ず助けに行く!!」
ヒストリアがそう叫んだ。
「...エレン。わたしね、いらない人間だって言われたの。人類の脅威だって。
でも、そうだとしても...自分が自分をいらないと思っても、誰かがわずかでもわたしを待ってくれている人がいるのならそれだけで、わたしがわたしであることを許せるの。
エレンが自分をいらないと望んだとしても...わたしはエレンが必要。それはエレンの力が必要なわけじゃない。エレン・イェーガーがいなくちゃだめなの!!」
そう言葉を吐いた時、ガチャ、と音を立ててエレンの右脚の足枷が解けた。
「解けた.....!!ッ!」
その瞬間、今よりも強い風がわたしたちを襲い、足枷が外れた反動でヒストリアが飛ばされた。
「ヒス...トリア.....ッ!!」
飛ばされて転がっていくヒストリアの姿が視界の端を通り過ぎていく。風が強くて助けに行くこともできない。このままわたしが手を離してしまえばエレンの元へは戻れない...!!
「く.......ッ...!」
あとどれだけ耐えればいい。強風で捕まっているのがやっとだ。立体機動装置も使い物にならない。じわじわと腕の力が抜けていくのを感じていた。そう思った瞬間、するりと手が滑りエレンの体からわたしが離れる。
「.......あ...ッ!」
体が宙に浮き、転がる衝撃を耐えるために反射的に目をギュッと瞑った。しかし来るはずの体全身を打ち付ける衝撃は来ることがなく、誰かの腕のようなもので支えられている感覚を感じた。
ゆっくりと目を開ける。
「...........リヴァ...イ.....!!!」
「ナマエ、今すぐにでもお前の無事を安堵したいが...。何せこの状況だ。...鍵を貸せ」
「.....うん!!」
「兵長!!みんな!!」
飛ばされたわたしの体をリヴァイが受け止めてくれていたのだ。そして飛ばされたヒストリアはミカサが受け止めている。他のみんなもわたしたちを助けに来てくれた。
リヴァイはわたしを壁際にいるミカサとヒストリアの元へ運びエレンの元へ向かう。
「ヒストリア大丈夫!?ミカサありがとう...!」
「ナマエさんこそ...!!」
「...!ナマエさん.......、いえ。それよりも急がないと...。敵が来る前にこの天井が崩落します」
「急げ!!」
ジャンの声がここまで届く。その時、おそらくエレンの拘束が解かれ、リヴァイとコニー、ジャンはエレンを抱えて走り出す。
「ッ!!よけろ!!」
そしてその瞬間、今までエレンがいた場所に天井の一部が崩れ落ちた。
「エレン!!みんな!!」
エレンを抱えた3人はわたしたちのいる壁際まで急いで戻る。そしてリヴァイが口を開いた。
「.....何だこのクソな状況は。
超大型巨人ってのよりデケェようだが...」
その巨人は天井を押し上げ、その反動で天井はさらに崩壊していく。
「このままじゃ...!!」
逃げ道がない...!!このままじゃ、わたしたちは崩壊した天井に潰される...!
それにこの場所は地下にある。つまり、天井が崩落してしまえば、地面が落ちてくる...!わたしたちは地面に潰される...!!
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巨人化するか?いや...地面が落ちてくるんだ...。巨人の体程度じゃ防げない...。みんな潰れてしまう...。
目だけを動かして皆の表情を伺えば、皆が俺を見ていた。でも、皆の期待に答えられない自分の不甲斐なさに悔しくなる。
「〜〜ッ!!ごめん、皆...。
俺は役立たずだったんだ...。そもそもずっと...最初から、人類の希望なんかじゃなかった...」
溢れる涙で滲む視界の端に、ふとあるものを捕らえた。それは小さな瓶のような形のもの。そこには文字が書かれていた。
「.....ヨロイ?」
「何だ?悲劇の英雄気分か?
てめぇ、一回だって自分の力一つで何とかできたことあったかよ?」
ジャンがいつものようにそう言った。
「弱気だな...。初めてってわけじゃねぇだろ、こんなの」
「別に慣れたかぁねぇんですけどね!」
「エレンとヒストリア...ナマエを抱えて飛ばなくたって脱出は厳しい」
「リヴァイの言う通りこのままじゃ脱出もできないし、何よりあの巨人の熱で近づけば絶対にやけどじゃ済まされない」
「それでもイチかバチかで飛び抜けるしか...!」
サシャがそう言ったがもう逃げ場はない。
「ダメだ...もう逃げ場は無い...」
「じゃあ何もせずにこのままみんなで仲良く潰れるか焼け死ぬのを待つの?
私達が人類の敵だから?」
ヒストリアが俺の目を真っ直ぐに見つめてそう言った。その言葉に俺は何も返せなくなる。そんな中、兵長が再び口を開いた。
「毎度お前ばかり...すまなく思うが、エレン。
好きな方を選べ」
その兵長の言葉に、かつて...女型と対峙した時にした選択を思い出す。あの時は仲間を信じて...先輩方を信じる道を選んだ。でも今回は...。今回だけは...。
俺は『ヨロイ』と書かれた小瓶を手に持つ。
ごめんなさい...。
最後に一度だけ...許してほしい。
「うぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!」
自分を信じることを。