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「本当はよぉ、あんたは小ぇ頃に殺す予定だったんだ。初めての客、あいつはただの客じゃなくて嬢ちゃんを殺すために送り込んだ人間だったが...そいつすら意図も容易く殺しちまったんだからな。
俺はそれを聞いた時心底驚いたぜ?まさかこんなに早く力に目覚めるとは思ってもみなかったからなぁ。どうせ逃げてもすぐ死ぬだろうし生かしてみるのも面白ぇと思って生かしてみれば、調査兵団に引き抜かれたっつうんだから、本当に人生何が起きるかわからねぇな?」
ケニーはたんたんとこれまでのことをわたしに話してくる。けれどその言葉たちはわたしの耳から零れていくばかりで自分の中で消化しきれない。
わたしは結局なんなのか。誰かを救うために戦ってきていたのに、本当のわたしが求められていた存在像は人を殺戮するため。
今までの思考もすべてわたしのものではない。そこにわたしの意志は本当にあったのだろうか。
誰かを護りたいと思うのも、愛しいと思うのも...すべて。すべて...わたしの感情ではないのだろうか。
手元にあるリボンに目をうつす。リヴァイを護りたいと、どんなときも一緒にいたいと、大好きだと思ったのは...わたしの感情じゃない...?
もしかすると、初めて人を殺したあの日、本当のわたしは死んでしまって、そこからはただの殺戮兵器としてのわたしがあるだけで。わたしが消失した瞬間だったのじゃないか。
「すっかり落ち込んじまったみてぇだが、人類の為にも、俺の夢の為にも死んでくれ...嬢ちゃん」
カタカタと震える手で握るナイフから音がする。これで首を切ってしまえば一瞬だ。これで人類が救われる、そういうことだろう。
首に刃をくい込ませるとピリ、と痛みが走る。その時、ふとリヴァイの言葉が頭をよぎった。
死ぬなと言ってくれたリヴァイの言葉が。
.....いやだ。死にたくない...。わたしはリヴァイともっと一緒にいたい。
「おいどうした?死ぬのが怖くなったか?どっちにしろ死ぬんだ。巨人化した仲間のどちらかに喰われるよりかは今死んだ方が楽だと思うぜ?」
再びナイフを握る力を強くしたその時だった。
「もう!これ以上.....私を殺してたまるか!!」
ヒストリアの言葉が耳に入り、ハッとして顔を上げる。
...違う。今までの思考もぜんぶ、全部作られたものじゃない。わたしの考えだ。わたしの意志だ。そこにわたしの一族に縛られた何かなんてない。
いつだって、どんな時だってみんなは、リヴァイはわたしを信じてくれた。受け入れてくれた。そこには確かにわたしがあった。それに...わたしがわたしじゃなければ、きっとみんなに出会えてない。
わたしは...わたしだ...!その事実を誰にも否定なんてさせない!わたしはリヴァイのところへ帰るんだ!!
「一族のしがらみなんて.....クソくらえだ.....ッ!!!」
ナイフを一気に振り上げて下ろす。
その瞬間、髪を引っ張られていた感覚が消えた。そして周りには髪の毛が舞う。
「オイオイ...!まさか髪の毛切っちまったのか!?
どうせそんな抵抗したところでもう助からねぇよ。ガスもねぇのにどうやって逃げるつもりだ」
「わたしは...エレンとヒストリアを連れて逃げる...!!」
「ハッ.....ハハハ...!おもしれぇ!好きにしろよ!!」
わたしは駆け出してエレンとヒストリアの元へ向かう。
「ナマエさんッ!!無事だったんですね!?」
「ヒストリアこそ無事!?」
「わ...私は!それよりナマエさん...髪が...!」
「いいから!エレンの元へ急ごう!!」
ヒストリアはこくりと頷いて黒いカバンを手に持ち上にいるエレンの元へ向かう。
「...!?ナマエさん!?ヒストリア!?
な、何を.....!」
「エレン逃げるよ!!」
ヒストリアがそう言うと鍵を手に持ちエレンを縛っている鎖を解き出す。
「オイ!?
お前が俺を食わねぇとダメなんだよ!!お前は選ばれた血統なんだぞ!?俺は違う!!俺は何も特別じゃない!!俺がこのまま生きてたらみんなが困るんだ!!
早く俺を食ってくれ!!もう辛いんだよ生きてたって!!」
「うるさいバカ!!泣き虫!!黙れ!!
巨人を駆逐するって!?誰がそんなに面倒なことやるもんか!!むしろ人類なんか嫌いだ!!巨人に滅ぼされたらいいんだ!!
つまり私は人類の敵!!わかる!?最低最悪の超悪い子!!
エレンをここから逃がす!そんで全部ぶっ壊してやる!!」
「エレン!!わたしは...エレンが生きててないと困るから!そんなこと言わないで!!
エレンはエレン!!それだけで特別!!わかった!?
ヒストリア!その鍵貸して!」
「わかりました!!」
「な.....?ナマエさん!?」
ヒストリアから鍵をもらってエレンの鎖と足枷を外そうとする。
.....この鍵じゃない。どれだ...足枷をとる鍵...!
カチャカチャとした音が余計にわたしを焦らせる。早く...早く...!
「.....!これだ...!」
鍵穴にひとつの鍵が刺さった。その瞬間、わたしたちの目の前には見たこともないほどの大きな巨人が現れた。