短い話・ダンガンロンパ | ナノ

ゴールはいらない


ある日から、石丸と戸叶の距離が妙に開いたことに気が付いた。
顔を合わせれば分かりやすく顔を逸らすし、お互いがお互いの話題を避けていた。
何時も一緒にいる大和田と不二咲も変に気を遣っている。
これは何かあったなと思いながらも、これは下手に無闇に関わることではないとみんな思ったようで、様子見の日々。
そんな中で、やはりオレは我慢が出来なかった。
戸叶が毎日決まった時間にひとりになるところを狙って、オレは直接彼女に聞くことにした。
深呼吸してからオレは美術室の扉をノックした。
ノックをしてしばらく、「どうぞ」という戸叶の返答があった。
何故か緊張しながら、オレは美術室に入る。

「し、失礼、しまーす……」
「……あ、なんだ、桑田くんか」

来客がオレと分かると、戸叶は少しガッカリした様子だ。
その様子はまさに待ち人来たらずという感じで、やはりオレは戸叶の待ち人ではないのだと思い知らされる。
そしてオレの心でも読み取ったかのように、戸叶は唐突に話を切り出した。

「石丸くんに、想いを伝えたんですよー」

わざとらしい明るい声に、オレは胸が苦しくなった。

「へ、……返事はっ?」

オレも、無意図的に明るい声になってしまった。
そんなオレの妙な違和感に気付いているのかいないのか、戸叶は薄く微笑んだ。

「ちょうど1週間前に想いを伝えて、1週間以内に答えをくれなければ忘れてってお願いした」
「そ、それで……」
「期限は今日の就寝時間まで。結果は絶望的だよね」
「いやっ……そ、そんなこと……!」

“ない”と言い切れたら楽だった。
正直なところは分からないのだから、根拠のない大丈夫は戸叶を傷付けるだけだ。
そしてオレの本心としては……戸叶には悪いが、石丸とくっついてほしくない。

「も、もし石丸にフラれたら、戸叶どうすんだよ?」

って、オレはいきなり何を聞いてんだッ!!

「自殺する」
「そ、そうか、それは……って、うええぇぇッ!?」
「……ふふっ、冗談」
「し、心臓に悪い冗談を言うなよ!」

オレはたまらず人差し指で戸叶の額を小突く。
戸叶は少し痛そうだったが、どこか嬉しそうだった。

「なんか、久しぶりにこんなバカっぽいやりとりした」
「そりゃ大和田も不二咲もお前らに気ぃ遣ってんだから当然だろ」
「……ありがと、桑田くん」
「何の礼だよ……」
「君もそれならモテるよって話」

それは決して、“戸叶にモテる”のではなく“他にモテる”と言うことなんだろう。

「私そろそろ帰るよ。失恋状態でいい絵なんか描ける訳がない……」

そそくさと絵具などの片付けを行う戸叶の横顔は少しだけ顔色が悪かった。
恋をすれば人は変わる。
いい方にも、悪い方にも。
ふとそんなことを考えてしまって、更に苦しくなった。

「たぶん、2度と恋をしたいとは思わない」
「は?」

立ち上がった戸叶はいきなりそんなことを言った。
戸叶はオレを見て、あの時と同じように綺麗に笑う。

「さっきの、答え。石丸くんに告白断られたら、どうするか……」

そして戸叶はいくつかのスケッチブックを胸に抱きしめながら、美術室を足早に去っていった。
「2度と恋はしない」というのは、冗談ではなく本心だろう。
それは恋をして痛い目を見るという意味以上に……石丸以上に好きになれる人は現れないという意味が強いように思う。

「あーあっ!戸叶が石丸にフラれたら、オレが戸叶にいい恋させてやるんだけどなーっ!」

わざと声を大きくして廊下に放ったその言葉が戸叶に聞こえたのかは分からない。
ただ、聞こえていたとしたら戸叶は何を思うのか。
いつものように「君は軽い人だ」と笑うだろうか。
それとも、オレの真剣な想いに気付いてくれるだろうか。

最低だとは思ったが、オレは願わずにはいられない。

石丸、どうか戸叶の純粋で真剣な想いを蹴ってくれ。
そうしたら、悲しんでいる彼女をオレが受け止めて見せるから。



ゴールはいらない
(オレから言わせればゴールなんてないんだ)
(ゲームセットという“終わり”があるだけだから)


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