短い話・ダンガンロンパ | ナノ

問答無用の君派




大和田クンは「男」という言葉が似合う人だ。
見た目も、性格も、価値観も。
昔ながらの男という感じで、女の子は自分の後ろに従わせたいタイプ……なのだと思う。
「大和田クンって料理するの?」となんとなく訊いてみた時なんかは恐ろしかった。
「何で男が料理するんだ」と怒られた。
実際に大和田クンが料理をするのかは不明だが、「料理は女がするもの」と古風な考えを持っている彼は決して他人に「料理をする」とは言わないのだろう。できるにしろ、できないにしろ。
まあとにかく、大和田クンというのは今時にしては珍しい男であって、そして不良で、ボクからしてみれば少し怖い。
この学園に入学しなければ、人生で接点もないような人だ。
その件の大和田クンに、ボクは今、物凄い形相で睨まれていた。

「苗木よぉ……、テメェ、正直に答えろよ?」
「う、うん……、何?」

場所は決まっていつもの食堂。
ボクと大和田クン以外には誰もいない。
逃げるに逃げられない状況だ。

「苗木……お前は犬派か?それとも猫派か?」
「……は?」
「オラァッ!さっさと答えやがれ!ちなみに俺は犬派だ!」

何を言われるのかとひやひやしていたが、予想もしていなかった彼の言葉にボクは唖然とする。
しかしこのままだんまりという訳にもいかないので、ボクはあわてて答えた。

「ボ、ボクも犬派だよ。実際、犬を飼っていたこともあるんだ」

ボクの答えに大和田クンは満足したようで、ボクと大和田クンは犬の話題で盛り上がる。
主に大和田クンが一人で盛り上がっている、という感じだが、その表情は随分と無邪気なものだった。
案外話が合えば、大和田クンは普通に話せるし、その時は怖いとは思わない。
唯一怖いものがあるとしたら、“不用意で不注意な一言”ってやつだ。
何かの言葉がきっかけで、大和田クンが機嫌を悪くするというのはざらだ。
それかほんの少しだけ怖くて、ボクは会話を楽しいと思う一方、相槌しか打てない状態にもなる。
誰か、もうひとりくらい来てくれないものか……。
ボクのそんな切実な願いが通じたかのように、その時、食堂の扉が開いた。

「あれ。大和田くんと苗木くんだー。変な組み合わせだね」

しかも食堂に入ってきたのは、救世主。
戸叶流火さん……、大和田クンの幼馴染みであり、彼に堂々と物申しができる貴重な人物。

「戸叶さん……!どうしたの?大和田クン捜してた?」
「うん、それもあるけど、」

戸叶さんはニコニコしながらそれが自然であるかのように、大和田クンの隣に腰かける。
戸叶さんによって、大和田クンの雰囲気が穏やかなものへと変わった。
これなら、仮に何か間違えてボクが失言を漏らしてしまったとしても、戸叶さんのおかげでなんとかなりそうだ。

「君たち、何の話してたの?君たちに共通の話題なんてなさそうなのに」
「犬の話してたんだよ。苗木、ガキの頃に雑種犬飼ってたんだと」
「へぇ、雑種……それは可愛いだろうね」
「うん。可愛かったよ。戸叶さんも、やっぱり犬が好きなの?」
「嫌いじゃないよ。まあ、私は猫派なんだけどね」

悪気のひとかけらも感じられない戸叶さんの笑顔に、ボクの周りの空気は凍り付く。
ぎこちない動きでボクは大和田クンを見た。
不機嫌になるかと不安になったが、ボクの想像は大きく外れて、大和田クンは笑っていた。

「ああ、そうだなぁ……猫かぁ。猫もいいなぁ……」
「うん。冬とか、一緒に寝ると暖かいしね」
「フカフカしてんもんな。猫もいいよな」

どうやら、別に犬派だからといって、猫派を敵視している訳ではないようだ。
ちょっとビビって損したかもしれない。

「大和田クンって猫も好きなんだね」
「ああッ!?悪ぃ、のかよ、猫も好きで……!?」
「い、いや……何も言ってないし……」

前言撤回、しよう。
大和田クンの怒りの法則がボクにはまったく分からない。
ひとつだけ分かったのは、戸叶さんには甘いこと。
女の子だからと言うのもあるのかもしれないが、戸叶さんにだけは妙に態度が違う。
幼馴染みで、妹分ともなれば、そういうものだろうか。

「んで流火。お前何で食堂に来たんだ?」
「うん?……うん、おなかすいちゃってさ。大和田くんに何か作ってもらおうと思って。そしたら食堂に辿り着いた」

ボクは再び凍り付く。
「料理なんて男のすることではない」と言う大和田クンに「料理をしてほしい」とは。
戸叶さんは怖いもの知らずか。

「おう、何か食いたいもんあるのか?」

……あれ、怒らない?

「おにぎり食べたいなぁ。本当はオムライスが食べたいんだけど……、おにぃ以外のオムライス以外はあんまりね」
「そもそもンな小洒落たもの作れねーよ」
「それもそうだ」
「んじゃ、ちょっと待ってろ」

え……、えええええ。
いいんだ!?特に何か文句言うことなく料理しちゃうんだ!?

「……?おい苗木。何変な顔してんだよ」
「い、いや……大和田クンって、料理するんだと思って」
「それは俺をバカにしてんのか?」

してないしてないとボクは必死に首を横に振る。
大和田クンはそれで納得してくれたのか、それとも戸叶さんがいる手前、大人しくしているのか、不機嫌そうな顔のまま、彼は厨房の奥へと消えていく。

「はーっ、おなかすいたーっ」

大和田クンが見えなくなると、戸叶さんはそんなことを言った。
なんとなくボクが彼女へ視線を向けると、目が合う。
彼女は年相応とは言い難い、随分と幼い笑顔を見せた。

「苗木くん、大丈夫だった?」
「え?」
「大和田くん。殴られたり、怒鳴られたり、しなかった?」
「ああ……うん。大丈夫だよ。大和田クンだって本気では……ない、はずだしね」
「うん。大和田くんには悪気はない。善意もないが。……それを理解して接してもらえたら、嬉しいな」

戸叶さんはまるで大和田クンを弟にでもするかのように、そう言った。
普段は戸叶さんの方が妹って感じなのに。

「大和田くんはねー、子供だからね。だから自分の考えに反するものには分かりやすく腹を立てるし、同意されたら喜ぶ。ガキだって言ったらそこまでだけど。でも、好きなものを語る彼の表情は見ていて飽きない」

戸叶さんは楽しそうに続ける。
ボクは、彼女の次の発言に、息を飲んだ。

「だから、大和田くんをからかうのはやめられない」

“からかう”。
その一言に、ボクは背中に冷たい汗が伝うのを感じた。

「本当は私にも“犬派”だって言って欲しいのが丸分かりなんだよ、大和田くん。でも彼自身だって猫が嫌いじゃないから、強く切り返さないでさ」
「……戸叶さんもしかして……、大和田クンの反応見たさに彼が求めてる答えを言わないの……?」
「……?そうだよ?」

……戸叶さんって、もしかしたら冗談抜きで恐ろしい子なのかもしれない。
ボクが割りと本気でそう思ったとき。

「好きな子は、いじめたいものなんでしょう?」

ボクの感情を読み取ったように、戸叶さんは堂々言い放つ。

「……戸叶さん、聞いてもいい?」
「何?」
「戸叶さんって……結局何派なの?」
「基本的にね、動物派なんでも好きなんだ。犬でも猫でも、それこそ、人間も」

ボクは嫌な予感がした。
そしてその予感は、見事までに的中した。

「だから私は、大和田くん派なんじゃない?」


問答無用の君派
(その想いは恋愛などそういったものではないのだろう)
(恋愛だとしたら、ここまで狂的な訳がない)


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