短い話・ダンガンロンパ | ナノ

伽藍堂マゼンタ




「戸叶さん、いい加減本当の事を言ってくれないかな?」

江ノ島盾子の処刑が終わったところで、苗木くんがそんな事を言った。
朝日奈さんと葉隠くん、それから腐川さんがなんだなんだという顔をする。
しかし、さすがと言うべきか。
十神くんと霧切さんもなんとなく浮かない顔で私を見ていた。

「ええと……どういう意味かな、苗木くん……?」

申し訳ないが、私はすっとぼける。
正直、想定外だった。
まさか江ノ島盾子の先にいる“私”に気が付くだなんて。
江ノ島盾子が黒幕という結末に、彼女が処刑されるまでは想定内だったのに。
苗木誠の希望の覚醒と、私の正体に気付くのは想定外だった。
だから、少し戸惑っていた。

「ちょっとした疑問が残っててね……、江ノ島盾子以外の黒幕の可能性を」
「ふぅん?」
「戸叶さん、キミは……あの死体安置室での出来事、覚えてる?」
「死体安置室って、生物室のことかい?」

何か失言でもしただろうかと考え、ふと思い出す。

「生物室に来たキミは、真っ直ぐに見ていた場所があるよね。ボクが死体安置室だって分かった後にキミは言った。そして行動した―――ここに、」
「“ここに大和田くんがいるんだ”……だったかな」
「……そしてキミは、迷わず開いていた。大和田クンの遺体が入っている場所を。……その時のキミの表情、すごく、嬉しそうだった……」

ずっと引っかかっている江ノ島盾子以外の黒幕の可能性の根拠は実に薄いものだったけれど、苗木くんのことだから他にも何かあるには違いない。
ならば、もういいや。
江ノ島さんだけではずるい。
私も楽しませてもらわなければ。

「戸叶さん……キミの本当の色を見せてよ」

そして、苗木くんのその言葉が私を動かした。
まさか、苗木くんからそんな言葉が聞けるだなんて……。

「あっは……!!」

最高の気分。
苗木くんが『私の本当の色を見たい』だなんて。
いいよいいよ、見せてあげるよ。
クロだけに染まったスクラッチなど全て削って、本来の色を晒け出そうじゃないか。

「さすが……苗木くんだよ!さすがは何色にも染まらない唯一の色!さすが希望の色を一身に受けるだけあるよ!!」
「戸叶、さん……」
「では、君たちに私の色を見せてあげようか」

私は先ほどまで江ノ島さんが立っていた場所に立つ。
見晴らしがいい。
みんなの戸惑いの色がよく見える。

「超高校級の画家改めて、超高校級の絶望―――戸叶流火」

やっと名乗れたと、私はおどけたように笑う。

「でも苗木くんってバカでアホなんだ。せっかく学園の外に出られるようになったのに、わざわざ私の正体を暴こうなんて。伸ばされた蜘蛛の糸を自ら切る感じでバカだと思う」
「そ、そんな……戸叶ちゃんまで、敵、だったの?」
「あははっ……安心して、朝日奈さん。私はあくまで画家さ。それも、色しか魅せられない画家」
「え?」
「私は、江ノ島さんみたいな変態系じゃないってこと」

超高校級の絶望だからって、彼女のように絶望絶望言っている訳じゃない。
私が愛しているのは、絶望ではなく色だ。
私は色を愛しすぎて絶望しているのだ。

「ねぇ、君たちは知っているかい?このセカイの色」
「セカイの、いろ……?」
「そう。このセカイはね、灰色なんだ。沢山の色が混ざりすぎたセカイ」

別に、セカイが色に溢れることを咎める訳じゃない。
むしろセカイが美しくなるなら、このセカイは色で溢れるべき。
ただ、このセカイは汚れすぎた。

「この世の全ての色が混ざれば、黒になるはず……。でも、中途半端に灰色なんだよ……」

黒か、白か。
そう。
このセカイは白黒ハッキリさせなければならない。
何の為に私が超高校級の絶望なんてやっているかと言えば、色の為だ。
色の為に私は大好きな人たちすら切り捨てた。

「唯一色に染まったセカイを、本当はみんなにも見て欲しかった……」
「ま、待ってよ!戸叶ちゃんがそっち側だって言うなら、みんなが死んだ時の悲しみも嘘だったの!?大和田の時もッ!?」
「……まさか!私は嘘なんてついてないよ、嘘である訳がない。大和田くんが死んだ時なんて、私も死んでやろうと思ったくらいさ!」

私はこの学園で嘘をついたことなんてない。
紛れもない、純粋な色。

「分かるかな……、大好きな大和田くんが死んだ時の私の絶望……。しかもその大好きな人は血の色を見せてくれることなく、原型すら留めず死んじゃったんだよ?絶望的じゃあないですか……。血の一滴も見られなかった、肉片にも触れない、骨すら届かず……私は置いて逝かれてしまった!彼は色すら遺さず逝ってしまった!!ああっ、死体さえ残ればその血で最高の絵を描いてあげたのに!!」

私が笑いながら泣き叫ぶと、みんなはあ然としていた。
おそらく理解していないのだ。
理解ができない。
まあ、別に理解されなくたっていい。
私がいかにセカイを愛し、彼を愛し、色を愛しているかなんて……そんなの、私だけが知っていればいい。

「それじゃあ、始める?おしまいの、おしまいを」
「待って。一体何を議論するつもり?」
「決まってるじゃないですかぁ霧切さん!セカイの色を決めるんだよ!“外”の皆さんと一緒にね」
「“外”の連中……も、だと?」
「そう。視聴者参加型番組ってヤツさ。君らだけじゃ、色が極端なの」

誰もが……みんなのように美しい色を持っている訳ではないのだから。

「では、皆さん……覚悟はできたかい?」

私は髪を結っていた赤と青のリボンを解いた。
代わりに、白と黒のリボンを結う。

「さぁ……。さぁさぁさぁさぁ!」

私は、笑った。

「私のことを描いてみせてッ!!」

次に広がるマゼンタは―――私か君らか。

さてどっちでしょうか!!


伽藍堂マゼンタ
(どうでもいい話なんだけど……、私って赤い色は好きだけど血の色は嫌いなの)
(だって私には、血の色は蛍光がかったただのマゼンタにしか見えないから……)




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