短い話・ダンガンロンパ | ナノ

聞けよ、世界の断罪を産声を




注意事項!!


・ソウルサクリファイスパロ

・画家夢主が魔法使い

・大和田くんが夢主に救済された元魔物

・なんかいろいろ突っ込んじゃいけない

・嫌な予感がする


以上に当てはまった方はお戻りください!
もう何でもいいよ!という超高校級の寛容さを持つ方はどうぞ進んでください!


・・・


───この世界は、常にふたつのもので出来ている。

善か、悪か。

白か、黒か。

才能があるか、才能がないか。

生贄か、救済か。

『希望』か、『絶望』か。

この世界には、ふたつのものしかないのだ。

幼い頃から才能という呪いに魅入られていた私は、ずっとそんな教育を受けていた。
才能という呪いを持つ者―――“魔法使い”。
この世界で法的コロシアイを命じられた必要悪という存在。
この世界を蝕む『絶望』を殺す、この世界の『希望』。
何とでも言い表せられる。
結局“魔法使い”とは、“魔物”と言う名の『絶望』に堕ちてしまった人間を殺す役割でしかないのに……。

この世界は不安定で、常に『絶望』に蝕まれている。
『絶望』たる魔物とは、人間だった。
自らの才能に押しつぶされてしまったか、才能がない故の羨望か―――『絶望』に堕ちる理由は様々。
理由が様々だから、この世界から『絶望』は無くならないし、異形の魔物も消えない。
でも、私たち『希望』たる魔法使いが魔物とコロシアイをしなければ魔物は減らない。
だから私たちは人間であった魔物たちをクロとして生贄にしなければならない。
クロであるものをシロとして救済してはならない。
クロであるものをシロとして救うのは……禁忌であるから。

「……キンキだなんだの言う割にゃ、お前結構救済してるよな」
「……大和田くん、しーっ!ていうか、フードもっと深く被る!」

『魔法使いの心得』と表紙に書かれた本の内容を分かりやすいようにして同行人に伝えている私に対して、その同行人が何か言ってきた。
同行人が面倒臭そうにマントのフードを深く被るのを確認して、私は大きなため息をついた。

「……救済することは禁忌だけど、でもある程度は認められてる。さすがに人殺してばっかりじゃこっちも気が狂うから。だからある程度は容認してくれてて……まあ、あんまりやりすぎると“組織”が黙ってないけど」

魔法使いたちのほとんどが所属する組織―――“未来機関”は、絶望排除の理念を持つ。
ある程度の救済が認められていても、やりすぎては危険因子と見なされて、魔物と同じように『殺害要請』が出される。

「……お前って、聖極の魔法使いだったか?」
「まさか。均等の腕を持った魔法使いですよ、私は」

私はちゃんとコロシアイという仕事をこなしているし、殺しもすれば助けもする。
未来機関に目を付けられる程の救済を行った記憶はない。
それにも関わらず……。

私は『殺害要請』が出された魔法使いである。

この共にいる同行人―――大和田紋土を救済した直後に、私戸叶流火を殺せという『殺害要請』が出された。
魔物と同じように、『絶望』予備軍として排除されそうになっている。

「……大和田くんだよ。絶っ対、大和田くんのせいだよ」
「はぁ?俺を助けたのは流火の意志じゃねぇか」
「そうだよ!知ってるよ!」

私は……今まで真面目に役割をこなしてきた。
この才能という呪いを呪いながら、嫌々ながらコロシアイを繰り返していた。
救済したタイミングが悪かったのか、それともただ運が悪かったのか。
魔物だった大和田くんを救済した直後に『殺害要請』を出されてしまうなんて。

「……いや、うん。やっぱり君が原因だよ。私は程々の救済しか行ってませんでした。だから、機関から目を付けられる訳ない」

やはり大和田くんが原因だと思う。
私が知らなかっただけで実は大和田くんは結構重要な魔物だったとか。

……でも、それも考えにくい。
大和田くんは、ごくごくありふれた、嫉妬に属する魔物だった。
ごくごく普通に他者に嫉妬して、嫉妬に狂っただけの魔物であって、それを私は救済した。

通常であるはずなのに。

「魔物じゃなくて、人間だった頃に何かした?」
「おまっ……、どちらにせよ俺のせいにすりつもりか」
「そりゃそうですよ。私は立派に魔法使いしてて、兄にだけは迷惑をかけないよう生きてきたのに」

私に『殺害要請』が出されてから、私は唯一の肉親である兄に会っていない。
会える訳もないが。
兄が今どうしているのか心配で、息がつまりそう。

「……大体、君って人間だった頃の記憶がほとんどないんでしょ?」
「そうなんだよな」
「それもおかしな話だよ」

大和田くんには、魔物になったより以前の記憶―――つまり、人間だった頃の記憶がほとんどない。

“忘れられる訳がないのに、忘れてしまっている”。

『絶望』に堕ちる程の欲望を、羨望を、嫉妬を抱えているはずなのに、それを覚えていない。
普通なら、覚えているものだ。
普通の元魔物である人間はそうだから。
なのに大和田くんは覚えてなくて……。

ならば、大和田くんは特殊だとでも言うのだろうか?

「はぁあああ……どうしようかなぁ……」

逃亡生活を始めてからいくらかの時間が経ったが、資金が尽きそうなもので辛い。
“全焼の魔法使いと嫉妬の醜人”の手配書はあちこちに出回っているし……。

「流火、ため息つくと幸せが逃げんぞ」
「誰のせいでため息ついてると思ってるのかな、君は」

脳天気な大和田くんに思わずイラッとしてしまった。

魔物の彼と対峙した時は、彼から強烈な苦しみを感じたのに……あの苦しみはどこへ言ったのだろう。
しかもこいつ、地味に強かった。
禁術サラマンダーを使用することでなんとか勝利したが、代償として私は全身火傷を負った。
そこから付いたあだ名が“全焼の魔法使い”なのだから、まさしく仇名だ。
マントにフードを被っていても、この火傷は酷いもので、逃亡生活ではかなりの不便さを感じている。

苦労ばかりだ。
そんな苦労すら、大和田くんは理解してくれない。
記憶がないから、そんなものワケワカメなんだろう。

「なぁ、流火」
「却下」
「まだ何も言ってねぇ!」
「言わなくたって分かるよ!この状況を“聖杯”に何とかしてもらおうって言うんでしょ!?」

大和田くんが黙り込んだ。
どうやら図星だったようだ。

「……“聖杯”がどんなに危険なものかは分かってるよね?何度も説明したでしょ?」
「あ〜確か、『代償はつくけど、どんな欲望も叶えてくれる白い杯』だろ?」
「そうだよ。君だって“聖杯”に願ったから魔物化したんだ。分かるよね」

“聖杯”は、世間ではどんな願いも叶えてくれる白い杯と伝えられている。
確かにどんな願いも叶えてくれるが、それには代償がつく。
等価交換ではない。
必ず後悔し、『絶望』するような代償。
この世界で『絶望』に堕ちれば末路はひとつなのだから……そんなものに祈る人間は馬鹿だ。
代償の意味を深く理解していない。
だから、大和田くんだって馬鹿なんだ。

「“聖杯”に頼るより、調べた方が確実だよ。何故私に殺害要請が出されたのか……君が人間だった頃の記憶は何なのか……地道が好きなんで、その方向でいかない?“聖杯”にはなるべく頼りたくない」
「流火は真面目だよなぁ……でもよ、流火?このままこうしててもいいことって何もねーと思うぞ」
「うん、私もそう思う」

暢気に『魔法使いの心得』なる本を読み聞かせている場合でも、私と彼が置かれた不遇を再確認して嘆いている場合でもない。
“今”を考えなければ。

ここは酒場。

様々な人間が流れ着く無法地帯でもある。
指名手配者と賞金稼ぎが交わる場所とでも言おうか。
ただの魔法使いであった時は気にもしなかったが、今の私は殺害要請が出された魔法使い。
先程から、分かりやすいさっきをこちらへ向けてくる人間が何人かいる―――。

「なぁ流火……やっちまっていいか?」
「んー……どうしよっかなぁ」

私は大和田くんの言葉に曖昧に返事をしながら、懐から綿毛を出した。
何てことはない、以前生贄にした魔物から手に入れた供物だ。
ふっと吹きかければ綿毛は生き物のように宙を舞う。
そうして―――殺気を放つ連中に襲いかかる。

「……行こ、大和田くん」
「んだよ……暴れねぇのか」
「君は血の気が多すぎるよ。そんなんじゃ仮に捕まった時に言い訳すら聞いてもらえなくなる」

冷気漂う静かな酒場を、私たちは出る。
酒場の外には、騒ぎを駆けつけてきたのか、野次馬がいくらかいた。
野次馬どもに「何見てんだ」と威嚇する大和田くんの背中を軽く叩く。
その瞬間、風が吹いた。
それなりの強風で、私のフードが取れてしまった。

「全焼の魔法使い」―――誰かが言った。

なんとありがたくない二つ名だろうとため息をつく間にも、民衆からざわめきが起こる。

「……はぁあ。“聖杯”にお願いしたら本当にこの状況って変えられるのかな」
「んだよ。“聖杯”に頼るのはダメなんだろ?」
「そうだよ、ダメなことって……教えられてきた」

この世界には……ふたつのものしかない。
そして、どちらが正しいとかどちら正しくないとか、そんなのは決められていない。
だったらどちらの道を選ぼうとも、どちらが正しいかは分からない。
ただ、選んだ方が正しいと信じるのみだ。

「……“聖杯”については、正直私もよく知らないんだ」

所属する場所によって、ルールはそれぞれだ。
ルールの中には、破れるものもある。

私が所属している場所では、“聖杯”を手にするのが悪であるだけのこと。
言わば、ルール違反……と。

「ルールも約束ってさ、破る為にあるんだよね……?」

私は迷わず言い放った。
私の言葉に驚いたのか、大和田くんは目を見開いた。
彼の顔が一瞬、“何か”で歪んだ気がするのは、私の見間違いだろうか……?

「……流火って真面目なだけじゃねーんだな」

……見間違いかもしれない。
大和田くんは楽しそうに悪役の笑みを浮かべながら、私の頭をポンッと叩く。

「じゃあ、これからの目的はどうするんだ?」
「“聖杯”について調べてみようと思う。……使うかどうかはその後決めよう」

言ってしまった後で、私はよく考える。
私は今、とんでもないことを言ってしまった。
とんでもない選択をしてしまった。

「全焼の魔法使い……戸叶流火!?」
「えっ、本当に?」
「ほ、他の魔法使いたちに連絡を……」
「今“聖杯”とか言わなかったか?」

しかし、とんでもない道を選んでしまったことに対して、後悔する時間も私には与えられない。
野次馬たちは広がり続ける様子を見せ、野次馬の中には魔法使いの姿も見える。

「……大和田くん。こっち。……逃げよう!」
「はぁ!?こいつら全員ぶっ殺せば……!」
「だからそんなことしたら法的に処刑だってば!」

いちいち血の気の多い同行人の手を引っ張り、私はこの場から退散する。

雨上がり、なんだろうか。
雨水を吸った地面は、やけに歩き難かった。



聞けよ、世界の断罪を産声を
(クロであるものをシロとして救済し、更に禁忌を犯す道)
(非常に歩きにくい道だが、それでも選択したから……正しいことのはず)


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