短い話・ダンガンロンパ | ナノ

かくれんぼは終わらない




※夢主死亡後ネタ


ここ最近のボクの日課は、大和田クンの昔話に付き合うことだ。
食堂に行くと決まって大和田クンがいて、彼は笑いながらボクに着席を求める。
大人しくボクが座ると、彼は話し始めるのだ。
彼と、彼の幼馴染みの話。
綺麗だらけの昔話を。

「俺が初めて単車に乗ったのは小学生の時だったんだけどよ……そん時、単車に乗ってる俺見て、流火のやつ何て言ったと思う?“危ないよ”って言ったんだぜ?」
「それは……と、当然じゃないのかな?」
「バッカ、苗木!そういうんじゃねーんだよ!流火が初めてだったんだよ!俺の事を本気で心配してくれたやつ。俺んちは荒んでてよ、両親は論外だし、兄貴は……心配するよりも俺なら大丈夫だろって信頼だけしてくれてたしよ。だから、流火が初めてだったんだ。無関心でもなく、信頼するだけでもなく、叱るんでもなく……“危ないよ”ってただ純粋に心配してくれたのは、流火が初めてなんだ」

ボクは大和田クンや戸叶さんと初対面であった時こそ、彼らとのやりにくさというものがあった。
しかし、こんな風に日々を重ねて大和田クンから昔話を聞いているうちに分かった。
ボクも彼らと仲良くなることが可能である。
もっと早く、気づけば良かった。

「俺が走り屋になったのだって、流火が大きく関係してるっつっても過言じゃねーんだ」
「え?お兄さんじゃなくて?」
「もちろん兄貴だって影響を与えてくれたのに違いはねーよ。でも、流火も兄貴と同じくらい俺にとっちゃ大きい存在なんだ。もし流火が暴走族なんてやるなって言うなら、俺はこの世界に入り込まなかった」
「じゃあ……戸叶さんからのお許しが出たから、大和田クンは暴走族に?」
「ま、“いいよ”って言った訳じゃねーけどな。流火は根が真面目だから非行に走れなんて大きな声で言わなかった。だから、代わりの言葉をくれた。“この世界の色が明るくなるくらい夢中になれることがあるのは良いことだ”って。つまりは遠回しに“いいよ”ってことなんだろうが……流火は、認めてくれた」

大和田クンは嬉しそうに話す。
ここ最近、それこそ1日中大和田クンの話を聞かされているボクだが、同じ話を再び聞かされることはない。
大和田クンが話すのはいつも違う話。
1日1日の日々、それを語る彼。
きっと彼にとって戸叶さんと過ごす日々は全て忘れがたく、大切なものだったのだろう。
彼の昔話は後から後から次へ次へと止まらない。

「苗木は本当に聞き上手なんだな。流火程じゃねーけど、話してて気が楽だ」
「あはは……ボクが聞き上手ってだけじゃないと思うけどね」

大和田クンの中の戸叶さんの存在が大きすぎて、話の種に困らないだけのような気もする。
なんだか、変な感じだ。
大和田クンと話していると、ボクの知らない戸叶さんがたくさん出てくる。
大和田クンと話すことで戸叶さんを深く知っていく。
ここにはいない人のことを知るのって、すごく変な感じだ。

「あ、そういや苗木。兄弟や不二咲はどうしたんだ?最近見ねーけど」
「石丸クンは……ちょっと体調不良で、不二咲クンが看病してるんだ」
「へぇ、そうだったのか?」
「……うん」

嘘はついていない。
それなのにボクは急激に居心地が悪くなった。

「不二咲“クン”……なぁ。そうだな、不二咲って男なんだよなぁ……」

しかし、『それ』を知りもしない大和田クンは特にボクの様子に疑問を抱くことはなかった。
大和田クンは不二咲クンの性別が男性であることへの驚きを改めてボクに語る。
もちろん、戸叶さん含みだ。

「流火が言ってた。あんな可愛い子が……なんて。流火もそれなりには可愛いのにな」
「それなりにじゃなくて、可愛いと思うよ」
「や、それなりだろ。美少女って訳じゃねーから、それなりには可愛い方だ」

まるでノロケだ。
できれば苦笑でこの話を交わしたかったのだが、今のボクには虚しさしかない。
空虚に、複雑な顔しかできない。

「ああ、そうだ……流火って可愛い方なんだよな。俺がいないと泣くんだぜ?ずっと昔……2人でかくれんぼしててよ、そんで、隠れ側の流火が急に大きな声で泣き出したんだ。あわてて泣き声の方に行ったら、“大和田くんがいないから不安なんだ”って。わんわん泣いて……変なところで可愛いなと思った」

ボクは自分の唇を噛み締める。
大和田クンの顔を見てしまったことでそれはさらに強まった。
大和田クンは、笑っているように見える。
しかし目ではちっとも笑っていなかった。
目は燻んだ色を写していて、彼はどこも見ていないような気がした。
実際、大和田クンには何も見えていないのだと思う。
何も見ていないんだと思う。

「かくれんぼは得意なんだ……。流火とのかくれんぼは、特に……」

ボクはもう何も言わない。

「なぁ、苗木―――」

ボクは、もう何も言ってはいけない。

「流火のやつ、どこに隠れてるんだ?ヒントくらいいいだろ、教えてくれよ」

こんな顔してる彼を、ボクはどうしようもできない。
きっと石丸クンにも不二咲クンにもどうしようもできない。
彼をなんとかできるのは戸叶流火だけだ。

「流火のやつ泣いてくれねーから……泣いてくれたら、すぐにでも駆けつけてやるのに」

戸叶流火はもう泣かないのだから、それは無理な話だ。
戸叶さんが泣かなければ彼女を見つけられない大和田クンも大和田クン。
しかし、彼に縋らない戸叶さんも戸叶さん。
結局、何が正しい解なのか、なにひとつ分からないままだ。

「今回のかくれんぼは流火も本気だな。そもそも“もういいよ”って言ったか、流火のやつ?」
「……もういいよ」
「いや苗木、オメーじゃなくて」
「もういいんだよ、大和田クン」
「よくねーよ、流火……ああ、そうだ、流火のやつ捜さねーと」

ああ、今日もまた終わってしまう。
大和田クンが真実を受け止めることもしないまま。
明日もまた、大和田クンと戸叶さんのかくれんぼは続いてしまう。

「さて、と……そろそろ流火のこと捜しに行ってくる。苗木も来るか?」
「……ううん、ボクは遠慮するよ」
「そうか。ま、俺と流火のかくれんぼだしな」

じゃあなと手を振って大和田クンは食堂を出ていく。
その背中には迷いのひとつも見えなくて、それが恐ろしかった。
彼の迷いのなさがボクに『戸叶流火は死んでいない』という錯覚を見せる。
大和田クンの堂々とした姿は戸叶さんのあの惨殺死体を連想させない。
しかし、やっぱり彼の背中を追いかけるあの赤い姿はなく、やはり彼女はいないのだと思い知らされる。

「戸叶さん……どうしたら、“もういいよ”って言ってくれるの?」

彼女のことだ。
そう簡単に“いいよ”だなんて言わない。
遠回しに「生き抜いたら見つかるよ」だなんて言いそうだ。
彼が後を追うことなんか彼女は認めないし許さないと思う。
でも大和田クンを誤魔化し続けるのは、もう限界に近い。
大和田クンもいっそ石丸クンのように無気力になってしまえばいっそ楽だったのでは……なんて、最低なことも考えてしまう。

ねぇ、戸叶さん……。
キミは「画家でない自分には価値がない」と思っていたみたいだけど、それは違うよ。

キミは確かに、「戸叶流火」として愛されていたに違いないんだ。



かくれんぼは終わらない
(これは、自らの才能の“秘密”に絶望して自害した少女の話)
(そして、その少女を救うことができなかった彼の話)


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