短い話・ダンガンロンパ | ナノ

依存依存狂依存




幼馴染みの兄貴は「女なんて何を考えているのか分からない恐ろしい生き物だ」と口癖のように言っていた。
俺はそいつのように女嫌いと言う訳ではなかったが、そいつの意見にはいつも同意していた。
女なんて、確かによく分からない生き物だし、何を考えているかだなんて気にもならない。
唯一例外を除いて。
戸叶流火……幼馴染みの女で、彼女が考えている事はいつもなんとなくで理解ができる。
子供の頃からずっと一緒にいるから、それも当然と云えば当然なのだろう。

「……流火、髪伸びたな」
「……んー?そう?」

普通、女子なら常に気をかけていそうな話題を振っても、流火は大して興味がなさそうだ。
ああ、これだから流火は安心する。
俺が望む行動をしてくれて、俺の望む言葉をくれる。
本当に、流火は手離す事ができない大切な幼馴染みだ。
……俺は、そう安堵していた。
言ってみれば大して女らしくない流火に安堵感を覚えていたのに。
この日の流火は、何かが違った。

「どのくらい伸びたの?」
「……はっ?」

違うどころではない。
おかしかった。
髪がどのくらい伸びたかなんて、いつもの流火なら気にしない。
髪が伸びたのなら肩にかからない程度まで切ろうと言うのが、いつもの流火のはずだ。

「な、何……か、髪、切らねーのか?」

動揺して思わずそんな事を口走ってしまったが、俺は後悔した。
聞かなきゃ良かった。

「んー……と。髪、伸ばそうかと思って」
「はぁ!?」
「……な、何で驚くの?」
「じゃあ何で髪伸ばすんだよ!?」
「ええー……?」

流火の中で何か心境の変化があったのには違いなく。
俺はそれが知りたかった。
でも、同時に知らない方が良い気もした。

「……髪伸ばした方が、可愛いよって言われたから」

知りたくなかった。
聞きたくなかった。
実に在り来たりで簡潔で分かりやすい理由だったが、俺の心を荒らすには十分すぎる答えだった。
流火の顔を見てみれば、照れているのか頬は赤く染まり、目は細められている。
こんな流火、俺は知らない。
気色悪い。
気持ちが悪い。
流火の事が全然分からない。
流火の考えが全く分からない。

「誰に、言われた?」
「えっ?」
「髪伸ばしたら可愛いって、誰に言われたんだ?男か?女か?」
「男だけど」
「そうか……」

なら、消そう。
その男。
女に言われたのならまだ見逃したが、男に気を遣う必要はない。
流火に手を出そうとした報いだ。
仕方がない。

「名前は?誰だ?誰に言われた?」
「……何でそんな気になってるの?」
「いいから教えろ」
「……はぁ」

ため息のようなただの言葉のような、でもとにかく息をついて、流火は答えた。

「戸叶那由多」
「……戸叶、」

ナユタと口に出してみて、俺は落胆した。
苛立ちよりも何よりも、恥ずかしさの方が大きく込み上げ、俺は流火に顔を詰め寄せた。

「オメーの兄貴じゃねぇかッ!!」

戸叶那由多……女嫌いの、この幼馴染みの兄貴の名前だった。
那由多という変な名前がこの世にそう何人もいるとは思わない。
加え戸叶那由多という同姓同名な奴は限りなくゼロに近いと思う。
だから流火の言う戸叶那由多とは、自分の兄の那由多の事で間違いないはずだ。

「お前な……ッ、ちゃんとそう言えよッ!?那由多に髪伸ばせって言われたから髪伸ばすんだってよッ!!この言葉足らずがッ!!」
「何でいきなり怒るんだよ、この情緒不安定」

……正直に言うのなら、安心した。
那由多や兄貴ならば、流火に何を言おうと構わない、あそこは別格だ。
あの2人はカウントせずに、俺以外の男が流火に言い寄るのは気に食わなかった。
そう思うのは、別に俺が流火を好きだとか、そんな甘く軽い理由などではない。
決して、軽い気持ちではない。
俺が流火に対して抱く感情は、好きという以上に重くて重要なものだ。

「……どれくらい伸ばすつもりでいるんだ?」
「え?どのくらいが、いいんだろ……?」
「知らねーよ……」
「じゃあ、とりあえず伸ばすよ、うん」
「……そうか」

流火のアバウトな返事に、ようやく俺は安堵した。
流火は流火だった。
世間一般、普通には当て嵌まらない奇才画家。
特化した才能の代わりに世間に冷めた目を向ける流火だから、俺は安心している。
流火は俺にだけ興味を抱いていればいい。
他は見なくていい。
流火は『流火らしく』いてさえくれれば、それで十分だ。

「……なぁ、流火。髪結んでやろうか?束ねておかないと、絵描く時に邪魔だろ」
「えっ?いや、別に……まだそんな気になる長さじゃないし、そもそもこの長さじゃ結んでも意味ない……」
「いいから。結んでやる」

そして、流火が変わってしまうのなら、俺はそれに対応すればいいだけだ。
流火が髪を伸ばすというのなら、俺はそこに干渉すればいい。
そうすれば、流火とずっと繋がっていられる。
流火が俺を必要としてくれるのならば、変化も歓迎だ。

「……大和田くん、何か変?」
「あ?何だよ、変って」
「いやぁ、ただ、変だなぁって」

流火は特に理由を話すことなく、スケッチブックに目を向けた。
絵の続きを書き出して、もう何も言わないのだろうなと俺は肩を落とす。

「……依存してるみたい」

静かな場所で、流火の妙に大人びた幼い声はよく響く。
俺はちゃんと流火の声を言葉を聞き漏らさずに耳に入れていた。
しかし、聞こえない事にする。
流火のその言葉を突きつけられてしまっては、きっと俺は耐えきれない。
そう思ったからだ。



依存依存狂依存
(例え小さな事であっても、彼女の事に俺が関わっていないのは許せなかった)
(依存と言われてしまえばまったくその通りで、しかしそれを認める事は弱い俺にはとてもできない)


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