短い話・ダンガンロンパ | ナノ

ラブソングに柄にもなく共感して




私が携帯音楽プレーヤーをいじっていると、苗木くんが話しかけてきた。

「あっ、戸叶さんも音楽とか聞くんだね」
「……んーっと、なんかその言い方引っかかるんだけど、どういう意味かな」
「ふっ、深い意味はないよ!ただ、戸叶さんがイヤホン耳に当てて音楽聴いてるのが、なんか想像できなかったっていうか……!」

苗木くんは焦ったように弁解する。
私はそれを否定しないし、むしろ当たっているので特に咎めるつもりもない。
実際、今私は困っていた。

「うちの兄が買ってくれたんだけど……どうやって使うのか分からなくって。曲は、江ノ島さんに教えてもらって入れられたんだけどさ……」

私は苗木くんにプレーヤーを渡す。
苗木くんは苦笑しながら、制服の懐からどうやら自身のプレーヤーを出した。
私はその、さも当然であるかのような行動に目が釘付けとなった。

「……何、普通の高校生って、携帯音楽プレーヤーが必需品なの」
「え?ああ、どうだろう……ボクは音楽プレーヤーだけど、最近は携帯に落として聴いてる子とかいるしね」

苗木くんが自身のプレーヤーからイヤホンを引っこ抜くのを見ながら、私は悄然とする。
通りで、私が曲の入れ方を江ノ島さんに教えを請いに行った時、彼女が「美しくない絶望だわー」とだるだるとしていた訳だ。
世間一般様では、携帯音楽プレーヤーを扱えるのが常識らしい。

「ねぇ、戸叶さんはどんな音楽聴くの?普通に女性アーティスト?それとも意外とロックとか?」
「魔王」
「…………はっ?」
「シューベルトの、魔王」

私は私のプレーヤーを指差した。
画面に視線を落とした苗木くんは、その曲が入っていることを確認できたのかすぐに顔を上げた。

「ええっと……シューベルトの魔王って……」
「中学校かな?授業でやらなかった?おとーさん、おとーさんって」
「う、うん……やったような、やらなかったような……」
「やったよ?」
「うん、そっか……」

私は、何か変なことを言ってしまったのだろうか。
苗木くんは苦笑いを隠そうとはせず、むしろ私に直視させるように私の目の前にいた。

「戸叶さんって、クラシックとか、オペラとかが好き?」
「うん、音楽は基本的に専門外なんだけど、音楽の中には絵画として描かれたものが多数あって……そういうのには、詳しい」
「そっか、納得したよ」

何を納得したのかは分からないが、納得くんは一人心地に何度も頷いていた。
そして、1度抜いたイヤホンを再び苗木くんのプレーヤーに差し込んだ。

「苗木くん?」
「い、いや、ボクとキミの同じ型だから、別にボクの方で操作してもだ、大丈夫かなぁって……それに新品なのにボクがベタベタ触るのも悪いし……」
「私は気にしないのに」
「そ、それに、ボクの方が曲入ってるし……!」

曲……ああ、なるほど、曲か。
シューベルトの魔王じゃそりゃ苗木くんも反応しづらいよね。
だったら、普通に一般受けしているような曲を入れているであろう苗木くんのプレーヤーで説明してもらった方がいっか。

「はい、戸叶さん。これ付けて、左耳ね」

苗木くんにイヤホンを渡されて、私はそれを付ける。
私が付けた事を確認すると、苗木くんは苗木くんで右耳にイヤホンを付けた。
何というか、2人で同じイヤホン使うとか……何か、気恥ずかしいな……。

「いい?こうやって音量を上げ下げして……、音量、これくらいでも平気かな?」

慣れた手つきでプレーヤーを操作する苗木くんは、アルバムの欄から曲を選んだ。
間を置かずに、アップテンポな曲が流れ出す。
聞こえてきたのは、聞き覚えのある歌声だった。
しかし、どこで聴いたのかも名前も思い出せなかった。

「ねぇ、苗木くん。この曲って……」
「ああ、先週のアルバムランキングで1位になった歌手だけど……えっ、もしかして戸叶さん、知らなかった?」
「うん。私、音楽番組も舞園さんしか見ないし……CD、買うようになったけど、それも舞園さん」

そもそもがクラシックを好んで聴く人間だ。
今時人気の音楽なんて私は詳しくない。
聞き覚えがあることを考えると、やはりランキング1位であるだけに有名な人なんだろうなと思うけど……。

「……ありがちな、ラブソングだね」

左耳から流れるメロディーと歌詞をしばらく聴いていた私は、すぐ横にいる苗木くんにそう言った。
苗木くんは困ったように笑って、頷く。

「まあ、普通にいい曲だけど……ありがち、かもね。斬新さと奇抜さを求める画家からしたら、つまらないでしょ?」
「……うーん、どうだろう。あまり、嫌いじゃないかも、こういう曲」
「え?本当に?」
「うん」
「じゃ、じゃあ、今度CD貸してあげるよ。ていうか、明日持ってくるね!」

苗木くんは頬を僅かばかり染めながら、笑う。
曲が間奏に入ったところで、私は彼に首を傾げた。

「ところでさ、」
「うん?」
「これって、恋人同士の歌なんだよね?」
「そう、だね」
「“イヤホンを分け合って一緒にメロディーを聴こう”って歌詞あったけど……これって、恋人同士がやることなの?」

私は自分の左耳に付けられたイヤホンを指差す。
私と苗木くんは絶賛イヤホンを分け合い中だが、これはどう解釈すれば―――と思っていると、苗木くんが鬼灯のように顔を真っ赤にさせていることに私は気が付いた。

「ごっ、ごめん、戸叶さん!いや、別に変な意味はないんだ!その、えっと……嫌だった?」
「ううん」
「えっ……」
「不思議と、嫌じゃない」

私が口元を緩めると、苗木くんは毒気が抜かれたかのようになった。
そして、また嬉しそうに笑う。

「……じゃあ、このまま、一緒に聴く?」
「うん、こうして一緒に聴いてる」

再び歌声がイヤホンから流れてくる。
その歌を、私はらしくもなく聴き入っていた。



ラブソングに柄にもなく共感して
(絵心ならぬ音楽心のない私だけれど)
(君とこんな時間を過ごせるなら、音楽もいいかもしれない)


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