緋の希望絵画 | ナノ

▽ むせ返るほどの愛情・4




本当に少し間を置いて、私はしっかりと大和田くんの目を見つめる。

「私は、君なんていなくても平気だよ」

酷いことを言った。自覚はちゃんとあった。
チクリチクリと良心が痛んで、呼吸が苦しくなる。

「はっ……?」

大和田くんは、笑った。
信じられない信じたくない……そんな感情が込められているんだろう。

「何、言ってんだ。昔から、お前は俺が必要で……お前は、弱いから……」
「……違うんだよ」

私の声は消え入りそうに小さい。
喉に何かが絡む感覚があって、上手く喋れない。

私は、今泣いていた。

そんなことすらすぐには分からなかった。

「泣くなよ。泣くな、流火。なんだよ……泣くくらい嫌なんだろ?俺がいないと、ダメなんだろ。俺がいなくても平気なんて嘘なんだろ?強がるなよ」

取り消すなら、今だ。

だけど、取り消したところでこんな関係が続いてしまうだけ。
私はそんなのいやだ。

彼の心の弱さを私が守る……。
それが大和田くんのためになるとも思えない。

「私はね、大和田くん」

『君の弱さを隠していたんだよ』。
『君を守っていたのは私なんだよ』。

そう言ってしまえば、きっと全部終わってくれる。

言わなきゃ。

言わなきゃならないのに。

『キーン、コーン……カーン、コーン』
『えー、校内放送、校内放送。間もなく夜時間となります』

モノクマアナウンスによって、私の声は阻まれる。
舌打ちをしたい気持ちをこらえてモニター画面を睨めば、まだ放送は続いていた。

『ですが、その前にオマエラ生徒諸君は、至急、体育館までお集まりくださーい。えまーじぇんしー、えまーじぇんしー!』

……体育館の、呼び出し。
無意識に体が震えた。

「……流火、怖いのか?」

震えた私に、嬉しそうに大和田くんが聞いてきた。

「そんなの、怖いに決まってるじゃん……」

だって体育館の呼び出しなんていつもいいことないじゃないか。
動機のことなんじゃないかって考えると……恐怖しかない。

大和田くんは、それを分かっているのか?
分かってないんだろう、今は。

私が怖がっている。

それが今、彼にとって重要なことだ。

「大丈夫だ。心配すんな。俺がちゃんと流火のこと守ってやっから!」
「……」

すごく嬉しそうに笑うなぁ……。

あは……見てるこっちまで嬉しくなってくる……。

「うん。私、君がいなきゃダメだから……頼りにしてるよ」
「さっきの『いなくても平気』っつーのはなんだったんだよ?」
「……嘘!ビックリしたっ?」
「しょうもない嘘つくんじゃねーよ」

乱暴にわしゃわしゃと頭を撫でられる。

……仕方ない。
これで、いいんだ。

これでいいんだよね……。

「それじゃ、体育館行くか」
「うんっ」

馴れ、というのは恐ろしいものだ。
私は当たり前のように大和田くんの手を握ってしまう。

「……ちゃんと、俺が流火を守るからな……」
「……うん」

ああ。

これは、私の『弱さ』だ。

哀れみと情から、完全に突き放すことができない。

いつか、黒幕につけ込まれるかもしれない『弱さ』……。

……そうだとしても。

今手を繋いでいる温もりから得られる安堵は、『弱さ』から『強さ』に変換できると信じていた。

依存ではなく、別のものへと。

変わってくれると、信じていたんだ。

prev / next

[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -