緋の希望絵画 | ナノ

▽ 狭霧・1







ピンポーン……。
ピンポーン……。

先ほどからインターホンが鳴っている。
来客のチャイムが鳴り続けている。
布団の中でもぞもぞと動きながら、私は顔だけ布団から出す。
扉を見て瞬きをする。

「誰ぇ……?ていうか、まだモノクマアナウンス鳴ってないよね……?」

昨日充分に寝溜をしたからか、私はすんなり起き上がる事が出来た。
扉を開けた瞬間、来客は満面の笑みで私を見た。

「ようやく出てきてくれたな!おはよう、流火!!」
「……お、おはよう、石丸くん」

……石丸くん、体はどうやら大丈夫らしい。サウナの後遺症などはないみたいだ。
良かったと思う反面、朝から元気だなと思って呆れる。

「えーっと、ちょっと着替えて準備するから待っててもらえるかな……」
「分かった!ではその間に兄弟を起こしてこよう!皆で食堂へ向かおうではないか!」

石丸くんはそう言うと、まさしく嵐のように隣の大和田くんの部屋へと向かう。
……果たして、大和田くんは起きるだろうか。
それにしても石丸くんは少し張り切り過ぎじゃないか……友達が出来たっていうのがすごく嬉しかったのかな。

あはは、それは、分かる気がする。

『キーン、コーン……カーン、コーン』
『オマエラ、おはようございます!朝です、7時になりました!起床時間ですよ〜!さぁて、今日も張り切っていきましょう〜!』

ブレザーのボタンを留めようとしていた私の手が止まる。

「……まだモノクマアナウンス鳴ってなかったんじゃん……!!」

それなのに、石丸くんのあのテンションの高さ……。
朝に弱い大和田くんには少し煩わしいのではないだろうか……。

「……だ、大丈夫かな。石丸くんと大和田くん、またケンカしてないよね……?」

男というのは単純だ。
仲良くなるのも仲違いするのも。

心配になった私は、髪も結ばず部屋の外へと飛び出した。

「たまには早起きもいいもんだな、兄弟!」
「そうだろう!分かってくれて嬉しいよ、兄弟!」

部屋を出て、すぐ横で聞こえる能天気な男二人の笑い声……。

「……」

どうやら、私の危惧したようなことはなさそうだ。
そうだった。彼らはバカだった。

「おう、流火!おはような!」
「……おはよぉ……」
「どうしたんだよ、髪も結ばねーで。あ、もしかして俺に結んでもらいたいのか?お前髪結ぶの下手だもんなぁ」
「……あはははは」

気持ち的には悪意をたっぷり込めて私は笑う。表現としては目が笑っていないとでも言うのだろう。
しかし目の前の暴走族も風紀委員も気持ち悪いくらいに笑顔を見せ合って、こちらの悪意など伝わらないだろう。

「……はぁ」

私はため息をつきながら、諦めたように大和田くんにリボンを渡す。

「流火の髪は綺麗だな!よくここまで伸ばしたものだ!」
「え……?あ……お、女の子、だからね……」
「そうだな、髪は女性の命と言うからな」

……何だか、石丸くんって、不純異性交遊がどうとか厳しいのに、結構すごいこと言うな……。
綺麗な髪、か……。
それは……は、初めて、言われたかも……。
ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいかも……。

「ほらよ、終わり」
「あっ……ありがと、大和田くん……」

大和田くんを見上げてみると、彼は嬉しそうに笑っていた。
か、彼も友達が出来てすごく嬉しいんだな……にこやかに笑いすぎて、ちょっと怖い。

「兄弟、流火の髪を結ぶのが上手いな!」
「まーな!子供の頃から結んでやってるからな!」

いやいや、嘘をつけ。
君がいつも髪の毛引っ張って、まとめた髪がほどけるから私は髪を肩より下に伸ばさなくなったんだろう。
子供の頃は、君は結ぶというよりほどく専門だった気がするぞ。

……そんな苦情を言ったとしても、今の彼には伝わりはしないだろう。
彼らは肩を組み、高笑いをしながら食堂へ向かっている。
私は二人から少し離れて歩くことにした。
しかしどれだけ知らん顔をしようが、食堂でもこの状況は変わらなかった。

「ギャッハッハ!何言ってんだ、兄弟ッ!」
「ハッハッハ!君こそ冗談はよしたまえ、兄弟よッ!」

笑い合う二人から、みんな心なしか距離をとっている。
私はなんとかさやかちゃんに救出され、二人から離れることが出来た。

「あの……大和田君と石丸君は、一体何があったんですか……?」
「戸叶もドン引きってことは相当あれだよな」
「……はは……聞かないで」

私も、嬉しいことは嬉しいんだ。
ただここまで仲が良いとちょっと……というか。

「あ……れ……?」

そして、一番戸惑っているのは苗木くんだ。
彼がメンバーの中では一番昨晩の事情を知っているから、当然と言えば当然だ。

「おぅ、苗木!」
「昨日は感謝しているぞ、立会人をしてくれて!」
「え?仲良く……?」

戸惑う苗木くんに、朝日奈さんが形だけの耳打ちをする。
形だけなので、声は丸聞こえだ。

「なんか朝から気持ち悪いんだよね。二人で肩組んで、笑っちゃってさぁ……」
「気持ち悪いだぁ!?むしろ気持ちいいって言えや、コラァ!?」
「それって、セクハラ的なパワハラじゃない?」
「仕方がないさ、兄弟……男同士の濃厚な繋がりが、女子にわかるはずもない……男同士の友情とは血よりも濃いのだッ!!女同士とは違うのだよ!ああ、流火は特別だがな!!我々の妹分なのだから!!」

石丸くんに笑顔を向けられ、私は思わずサッとそっぽを向く。
そんなことで特別という評価をもらいたくはない。

「さすが兄弟、いい事言うぜ……その言葉、体に墨入れて刻み込んでもいいか?」
「よしたまえよ、兄弟。両親から授かった大事な体じゃないか!」
「ところで……勝負はどっちが勝ったの?」

そりゃあ、苗木くんは気になるだろう。
どうしてこうなってしまったのかも知りたいだろう。
一番の被害者が誰だと言えば、苗木くんである。

「そんな問題じゃねぇんだよッ!!」
「愚問だッ!共に勝負をしたという事が大事なのだッ!」
「全然違うじゃん……昨日と言ってる事……」

落胆する苗木くんに私は涙ぐむ。
苗木くんって絶対不運だという確信めいたものを抱く。
そして全員がため息をついた。

「女同士とは違って……男同士の友情とは単純なものだな」
「ホントだね……」

ええ、まったくその通りなんですよ……大神さん……。

「でも、兄弟かぁ……二人とも楽しそうだねぇ」

ほとんどの者が呆れる中、ただ一人不二咲さんだけは微笑ましそうにしている。

「流火ちゃんは妹さんなんだもんね。楽しそうで……いいなぁ」
「……そんな良いものでもないよ」

不二咲さんは、一体何に「いいなぁ」と羨望しているのだろう……。

「流火!僕の分の牛乳も飲むと良い!身長を伸ばすなら牛乳だぞ!」
「……大きなお世話ですっ!」

拗ねてしまう辺り、波長は合っているんだなと思う。

悪くはないけど、恥ずかしい。

そして、その日の朝食会は……大和田くんと石丸くんの暑苦しい会話をBGMにして終わるという残念な朝食であった。
被害者は苗木くんて桑田くんだ。葉隠くんて山田くんも巻き込まれそうだったが、彼らはうまい具合にかわして早々と朝食を終えていた。

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