緋の希望絵画 | ナノ

▽ 彼は少年でいる・5




私は私で、タオルを何枚か見つけて浴場の水で濡らす。
夜時間は水が出ないというが、ここは別らしい。

「……うぅっ」

石丸くんの首にタオルを巻き、額にもひたりと乗せる。
よくもまぁこんなんになるまで勝負を続けたものだ……。
呆れも通り越して感心してしまう。

「……うっ……、んん……?」
「あ、起きた?」

うっすら目を開けた石丸くんは私の姿を捉えると「おぉ」と小さく唸った。

「ここは……天国か……」
「現実です」
「……戸叶、くん……いや、天使か……?」
「戸叶でいいんだよ」

だいぶやられている。
頭を主にして。

「今大和田くんが飲み物持ってきてくれるから。ちゃんと水分補給してね」
「……ああ……キミも、彼と同じで優しいのだな……」
「死因がサウナなんてイヤでしょ?私もそんなのイヤだから介抱してるの」
「……そうか……すまない……」
「…………」

まだ意識はしっかりしていないのかもしれない。
いつもの石丸くんなら、こんなタオル一枚腰に巻いただけの姿で異性の前にいるだなんて彼の信条が許さないだろう。
取り乱して、いつもの声の大きさで訳分からんことを言い連ねるはずだ。

「大和田くんはキミが大切みたいだ……」
「……過保護だからね」

依存しているんだとは、あえて言わない。

「認めた人間には甘いんだ。彼」
「そうか……」
「君と大和田くんも、もう友達なんでしょ?良かったね、友達一気に出来て」
「いっき、に……?」
「大和田くんの友達なら……まぁ、私の友達……みたいな感じだし……」
「……!戸叶、くん……!!」

石丸くんは上身を起こして私をキラキラとした目で見てくる。思わず、嬉しいとか考えてしまった。
あれ……おかしいな……?
私も意外と、単純……?

「おいっ、流火!これでいいか!?」

戻ってきた大和田くんは両手いっぱいに飲み物を持ってきたようだ。飲み物だけでなく、軽食も混ざっている。
持って来すぎだと思ったが、まぁいい。

「はい、石丸くん、ちゃんと飲んで。大和田くんも」

二人はやはり喉が乾いていたのだろう、スポーツドリンクを一気に飲み干した。
そこで、石丸くんが残念そうに、自嘲するように、口元で笑う。

「僕の負けだな……」

そう呟く石丸くんから顔をそらして、私は大和田くんを見上げた。
目で「どうするの」と訴えれば、大和田くんは力強く頷く。
大和田くんは石丸くんの目の前にしゃがみ込み、ニッと笑った。

「オメーの根性は俺が認める……―――そんでシメーだ」

すると石丸くんも、零すかのように笑顔を見せた。

「フ……フハハハ!キミってヤツは……!なんて心の広い男なんだ……!」
「そっちこそ自分の負けを潔く認めるたァな。まいったぜ!!」

私は完全に置いてけぼりで、二人は肩を組み合い、叩き合う。

「―――……僕たちは真逆だからこそ反発するんだな……!!まるで白と黒の逆精神の双子とでも言うべきか!」
「ああ?もう兄弟でいいじゃねーか!」
「兄弟か!!それはいい……!友人じゃなく兄弟と呼ばせてもらっていいかね……!」
「おう!俺も呼ばせてもらっていいか!」
「もちろんだとも!何でも話してくれたまえ……!」
「オウ」

大和田くんの拳と石丸くんの拳が打ちつけ合われた。

「……」

私は、帰っていいだろうか?
そう思っていると、石丸くんの目が私に向けられた。

「戸叶くん!それではキミの事は……妹くんと呼んでいいか!」
「いや、丁重にお断りさせてもらうよ……」

暑苦しい……と思いながらも、私は笑みを浮かべる。
石丸くんの声量も、不思議と恐怖だとも不快だとも思わなくなっていた。

「普通に流火でいいから……」
「そうか!ではキミも、何かあったら僕も頼ってくれたまえ……流火!!」

やっぱり大和田くんと石丸くんが混ざる色は不可思議だけど……嫌いな色じゃない。むしろ好きな色。
石丸くん自身の色も、好きだと思える。

「それより大和田くんさ……いや、石丸くんもだけど……。明日、苗木くんにちゃんと謝ってお礼言いなよ?」
「ああ、そうだな!この友情の証を、あいつに伝説として語ってやんなくちゃな!」
「苗木くんにも伝わるだろう!この男同士の濃厚な繋がりが!」

……分からないと思うし、分かってほしくないと思う。

「あ、流火」
「ん……なーに?」
「おはよーさん」
「……」

大和田くんが笑う。
……起きたら自分の所に来いと言うのはこういうことだったのか?ただ「おはよう」と言いたかっただけか?

「……おはよ」

しょうもない男だなーと頬が緩んでしまう。
そして、せっかくおはようと言ったところだが、今までのせいでどっと疲れた。今からでも余裕で眠れる。いや、眠くなってきた。

「私、部屋帰るからね。君らは?」
「このままひとっ風呂でもどうだ、兄弟!!裸の付き合いは信頼関係を構築するにはもってこいだぞ!」
「そーだな!」
「……じゃ、私退散するから」

大和田くんが持ってきた軽食とスポーツドリンクを手に持って、私は二人に手を振る。

「おやすみ」

大和田くんは軽く手を上げただけだったが、石丸くんは私と同じように手を振った。

「また明日の朝だな、流火!」
「…………また、明日」

こういうの、絆されるって言うんだっけ。
……悪い気はしない。

大和田くんにも友達が出来た……同性であれば、私には言えないことも言えるかもしれない……。
高め合える仲間がいれば、私への依りも少しは軽くなるかもしれない……。

そんな『希望』とやらを感じて、私は自分の部屋へ戻る。

背中から聞こえる二人の笑い声に、安堵感を覚えながら……。

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