緋の希望絵画 | ナノ

▽ 上辺の偽善・3



「参考にするだけだ」
「……は?」
「俺が勝負する時は、俺のオリジナルを使うさ。でなければ、せっかくのゲームがつまらんだろう?こんな緊張感のあるゲームなんて、そう体験できるものじゃないんだ。やるからには楽しまんとな……フフ……フフフ……」

私は、思わずゾッとした。
十神くんの顔には確かに笑みがあった。
その笑顔……まるで彼は楽しんでいるようだった。
この狂ったコロシアイ学園生活を……。

「な、何がゲームですか……!ふざけないでください!」
「舞園さやか……貴様は一度でも殺人を犯そうとした。それはこのゲームを肯定したからではないのか?」
「そんな事……!」
「まぁいい。結局は怖じ気づいて失敗した身なのだから」

そう言って、また彼は笑った。
邪悪に満ちた笑顔に、顔を歪ませていた。

「あなたは、そのゲームで自分が負けるとは微塵も考えていないようですね?」
「……当然だ」
「そんな事言って、死んじゃったらどうするのさ……!?」
「俺は死なん。その可能性すらない」
「何様だ、テメーは!?」
「それにしても、改めて驚きだな」
「あぁ?何がだ!?」
「お前みたいなポンコツな不良がこの現代にもまだ生存していたことがだ」

ああ、やっぱり嫌いだ。この男。
ムカつくどころの騒ぎじゃない。
私は今、確実に殺意というやつを感じた。

「……ちょっと……今の言葉は取り消して……」
「流火ちゃんっ……!?」
「取り消して、大和田くんは……ポンコツなんかじゃないッ!確かにバカだけど君なんかよりずっと人間ができてる!次彼のことバカにしたら…ッ!!」
「バカにしたら?どうするんだ?」

私と十神白夜が睨み合う図書室。
周りが黙り込んで、ほぼ無音となったこの場に微かに声が響いた。

これは……すすり泣きだ。

「……ダメ……だ、よ……」
「ふ、不二咲さん…?」
「これは……ゲームなんかじゃないんだよ。人の命が……かかってるんだよ?仲間同士で殺し合うなんて……そんなの……そんなの絶対にダメだよ……!」

そう言う不二咲さんの声がやけに頭に響いた。
殺す……は、確かに言い過ぎかもしれないけど。
でも、それでも……それ以上に、この男が……。

「仲間同士だと?誰がそんな事を決めたんだ?」
「えっ?」
「俺達は仲間同士なんかじゃない。その逆だ……互いに蹴り落とし合う競争相手なんだ」
「で、でも……やっぱり……」
「でも?お前如きが偉そうにそんな接続詞を使うな。俺の言葉には肯定だけしていればいいんだ」
「え……えっと……ご、ごめん……なさい……」

もうダメだ。堪忍袋の緒が切れる。
私は十神白夜に掴みかかろうとしたが、大和田くんに肩をつかまれ、引っ込まされる。
変わりに十神白夜に掴みかかったのは彼だ。

「おい、コラァ!弱い者いじめして楽しいか!?胸クソわりーんだよ……!!」
「また仲良しごっこが始まったか……で、それはいつまで続くんだ?」
「うるせぇ!!」
「うるさい……そう言ったのか?まったく、我が耳を疑ってしまうな。そんな単純で無意味な言葉しか出てこないとはな」
「よし決めた!今すぐ殺すッ!」

不二咲さんの泣き顔が目に入って、私はハッと我に返る。
そして大和田くんの今にも飛んでいきそうな右腕を両手で引っ張った。

「お、大和田くん……ちょ、ちょっとさ……落ち着いて!?」
「落ち着いてんだろがぁッ!!」
「どこがさ……!?」

私が大和田くんを押さえ込んでいるにも関わらず、十神白夜はそんな様子を鼻で笑う。
ムカつくから、このまま大和田くんを放して殴ってもらおうかと思った。

「とにかく……俺はこれ以上、お前らと一緒に行動するつもりはない。蹴落とし合いのゲームで協力し合おうなど……そんな無意味な行動に時間を費やしたくないんでな」
「む、無意味って……」
「仲良しこよしの食事会などもっての他だ。誰かに毒を盛られる可能性だってある……まだ最後の晩餐に出席するつもりはないんでな……」
「芝居じみたセリフばっか言いやがって……!」
「後はお前らだけで勝手にやれって事だ。じゃあな……」

そのまま十神白夜は振り返りもせず、立ち去ってしまった。
もう私たちには、引き留めることもできなかった。
彼の考え方は、私たちが理解出来る範囲をはるかに超えてしまっていたから。

「……本気、かな」
「間違いなく本気でしょうね」
「だとしたら……許せねぇ……!」
「で、でも……彼の……言う通りかも……」
「はっ?」

その言葉に驚いて見てみると、そこには小さく縮こまった腐川さんがいる。

「だって……誰かが食事に毒を盛る可能性だって……な、ないとは言い切れないし……」
「ちょっとぉ!腐川ちゃんまで何言ってんの!?」
「でも……どうせ、あたしがいなくたって……誰も……困らないでしょ……?むしろ……いなくなって欲しいんでしょ……!?あ、あたしが……気持ち悪いから……ッ!」

……被害妄想というレベルではない。
ネガティブキャンペーンにも程がある。

「わ、わかってるわよ……いなくなって欲しいんでしょ……?みんなして……そんな風に思ってるんでしょ……!?」

そして腐川さんは、逃げるように図書室を飛び出した。

「あ、ちょっと!腐川さんッ!!」
「放っておきましょう。ああなってしまっては、誰も止められません」
「……」

―――結局、その日の朝食会はうやむやのまま中止となり、私たちはそれぞれ、自分の部屋へと戻っていった。

私は自分の部屋に戻って考えてみても、十神白夜のあの態度や言葉がどこから来るのか不思議でたまらなかった。

人を殺すことをゲームだなんて。
しかもそれを楽しむだなんて。

……理解不能だ。

「……気晴らしに、どこか行ってみよう」

行くアテもないけど、じっとしているよりはマシだよね……。

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